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第七話

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この家に引っ越して来て2週間…
俺は亜嵐が手続きを終えてきた大学に通い始めていた。
どうやって入学できたのかを聞く度に亜嵐に襲われていたので、俺はすぐに聞くのを諦めたけど…

真実は分からないままだったが、思いがけず入学できた大学での勉強は意外と楽しくて…
亜嵐には凄い感謝していたし、何だかんだでこの家での生活にも慣れてきていた頃だった…

………
……

「……?……おじさん……誰?」

大学から帰って来ると、知らないおじさんが庭で我が家の窓にへばりついている…

「…っうひゃっ…あ、あ、あの…」
おじさんは慌てて窓から飛び退くと、明らかに慌てて言い訳を考えている様だった…
「ここ、敷地内だし!不法侵入…」
そう言いかけて、おじさんを良く見ると…
スーツ姿でしどろもどろになっているそのおじさんを、俺はどこかで見たことがあった…

「君が、二琥君かい?」
「そうだけど?何で俺の名前知って…………あ゛ー!!」

どこかで見たと思ったその人が、亜嵐の持ってきたパンフレットに載っていた事を思い出す…

「もしかして…理事長…?でも何で?」
「ああそうだよ、君の通う大学で理事長をやっている二階堂だ。」
そのおじさんは少し偉そうな態度で身分を証した。

「…何で俺んち知ってるんですか?しかも、あんな格好で覗いてるなんて…」
思わず敬語になってしまったが、この人が不法侵入しているのは間違いない。
「そっそれは…君は…ほ、本当に、っその…亜嵐君と一緒に住んでるのかなと…?」

「はっ?亜嵐って、何で亜嵐の事知って…っ、まさか…」

大学の理事長で亜嵐の事を知ってるという事は、この人が俺の入学に関わっているとみて間違いないだろう…
「…亜嵐君…本当に、結婚して…だからもう…」
理事長は悲しそうに呟くと、その場にへたりこんでうずくまってしまった…

「えっ…大丈夫?…ですか?…とりあえず、中に入ります?」
その様子にビックリした俺は、うっかり家へと招き入れてしまった…

………
……

「どうかしました?」
リビングに案内すると、理事長はキョロキョロとして落ち着かない様子だった。
「はぁぁ…」
ソファーに座るよう促すと、理事長は大きな溜息を漏らして座る。
「あの…亜嵐とはどこで…?」

「やっぱり亜嵐君の香りがするんだね…ここは…」
「っえ?」
「亜嵐君とはかれこれ、五年くらいの付き合いになるかな…とは言っても、彼は人気だから一ヶ月に一回予約が取れればラッキーだったけれど…この部屋に僅かに残る、亜嵐君の香りだけで思い出されるな…」

「人気…?…香りって…まさか…」
「結婚している位なんだ。もちろん君も良く知っているんだろう?…あの…忘れられない香り…」
「それに、亜嵐君にあれをいつも注いで貰っているなんて…あぁ、羨ましいな」
理事長は頬を紅潮させ、何かを思い出しているようだった…

亜嵐は自分の事となると直ぐにはぐらかす上に、最近は幼馴染であれだけ一緒に居たとは思えない程俺の知らない情報を提供してくる…
理事長の話しぶりからは、亜嵐が淫魔である事に関係しているのは間違いないだろうけど…

このおじさんが亜嵐のあの姿とナニをしていたのかを聞きたくなくて、心がざわざわしている…

「あれはいくら払ってでも惜しくないのに、それを…君は…」
「払う?」
「亜嵐君から幼馴染に恋してるとは聞いていたから、結婚する事になったと聞かされた時には凄く嬉しかった。だから、君をうちの大学へ入れて欲しいというのを私は快諾したよ。あの時の亜嵐君からのお礼は…っはぁ♡」
理事長は立ち上がると、俺の質問も無視して語りだした…

「結婚というから、私はてっきり女の子とだと思い込んでいたが…まさか男の子だったとはね…」
「それだけなら未しも…君がいるから、もう精液は必要なくなったと?…亜嵐君の為とはいえ、彼に摂取されている時の快感たるや…私はそれも楽しみにしていたっていうのに…!」

語気を荒げた理事長が掴みかかるような勢いで近付いてきたが、俺は逃げ遅れてソファーに押し倒されてしまった…

「売れっ子の彼に嫌われたら、もう二度と彼を味わえないかと思うと何も言えなかったのだがね…居てもたってもいられず、気が付いたらこの家まで来てしまった…」
「ちょっと、離してっ!」
「別に何かしてやろうと思って来たんじゃなかったが…亜嵐君の香りにあてられたかね…?」

亜嵐よりもだいぶ小さいおじさんだったのに、その力は強く振りほどけない…
蹴りあげようとした足まで押さえ付けられると、足の付け根に固いモノが当たる…

「嘘だろ…」
「あの亜嵐君がこれ程入れ込んでいるんだ…君自身が相当良いのかもしれないと思えてきたよ…それにこの香りの中ではどうしても興奮してしまうからね…」
「嫌だっ!」
「おっと…あまり抵抗されると、何も出来ないじゃないか…亜嵐君に嫌われたくないからね、手荒な真似はしたくなかったが…そんなに暴れられると、傷つけて気でも失ってもらおうか?」
「うぉふっ…っく………」
豹変した理事長が振り下ろした腕が胸を圧迫し上手く息が出来ない。足の間を固くしたままの理事長は俺の胸に跨がると、両手で首を絞めてくる…
「っく…助けっ…」
快感で気を失う事は何度か経験していたが、それとは真逆で恐怖しかなかった…

「二琥?」

遠退く意識の中で、聞き慣れた亜嵐の声がした気がする…

(亜嵐?…ごめん…)

声に出せないまま、俺は意識を失った…

…………

漂う香りを鼻に感じ気が付くと…
それは確かに亜嵐の甘い香りだったが、何時もの淫靡な香りではなく…俺は酷く苦しく感じ目を開けた…

目の前には完全に変幻した亜嵐が立っており、その足元には理事長が倒れている。

「亜嵐?」

その殺気に戸惑いながらも声をかけると、振り返った亜嵐は安心したように俺を抱き締めた…
「二琥っ!良かった…ごめんな?」
「亜嵐?…理事長は?」
「あー、これ?」
亜嵐は俺を抱き締めたまま、足元で転がっている理事長を蔑んだ目で見下ろしている…

「未遂じゃ無かったら瞬殺だったけど…とりあえず気絶させてある。二琥に手をあげるとかホント無いし…」
「そっか…」
「二琥が怖いなら殺そうか?」
「殺さないでっ…大丈夫…うん。…亜嵐…ごめん」
「なんで二琥が謝るの?」
「だって…俺が良く考えずに、この人家にあげたから…」

「大したこと無い客のくせに調子に乗りやがったこいつが悪いんだしっ!」
「客…?亜嵐…の仕事ってやっぱり…なぁ、ちゃんと教えて欲しいんだけど?」
「…うん。もうだいぶ察しはついてるだろうけど…きっと二琥の想像通りだよ…」

「セックスで金貰ってんの?」
「そう言われると、ちょい違うけど…まぁ、そんなようなもんだよな…」
「……」
「俺の精液舐めさせると二琥は酔っ払ったみたくなるだろ?…俺のは人間にとっては麻薬みたいなもんだから…」
「俺ら淫魔はこっちで、中毒になった人間に買われるのが仕事。そのついでに客の精液貰えば魔力も落ちないしね?」

「なんとなく想像はしてたけど…」
「引いた?」
「うーん…引いたってのは何か違う気がする…けど…とりあえず、すげー嫌」
「……二琥…それって…もしかしてヤキモチ的な?」
それまでの申し訳なさそうな態度は何処へやら、亜嵐はすっかり機嫌が良くなっていた。
「ヤキモチとかじゃねーし…」
「くふふっ…はぁ…でも本当に良かった♪二琥が無事で…」

「そうだ…理事長、どうするの?」
「…ムカつくけど、二琥の事大学に入れてくれたし…俺の記憶ごと消して、そこら辺に転がしてくるわ♪そしたら、二琥もこのまま無事に大学通えるだろ?」
「記憶…消せるの…?」
「殺す方が簡単なんだけどね♪」
「……っ!」
「とりあえずもう持ってっちゃって良いよね?…これ以上、この家に置いておきたく無いし…」
亜嵐は軽々と理事長を担ぎ部屋から出て行った…

(悪魔に近いとはいえ、殺したりしないって言ってたじゃんか……)

理事長の事といい、亜嵐の仕事の事といい…
一気に色んな感情を与えられた上に、亜嵐の新たな一面を知る事となった俺は、扱いきれない感情をもて余していた…
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