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第二十四話 来訪者②
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「……期待はずれ」
桃色の髪の少女は双剣に付いた血を地面に向かって振り払い、つまらなそうに呟く。
「――レンが、やられた……!?」
今何が起こったのか理解できずクレアは困惑する。気付いた時には、少女の双剣による一撃を受け、レンは首から鮮血を撒き散らしながら大空洞の奥へと吹き飛んでいった。
速すぎて、レンが吹き飛んでいくまでの少女の一連の動きがクレアには視認できなかった。
攻撃を受けたレンもそうだろう。防御も回避もできず、首という人体の急所に、体が吹き飛ばされるほどの一撃を受けてしまったのだ。そんなものを受ければどんな人間でも即死だろう。
「で? お姉ちゃん達はどうする? 逃げるなら別に追ったりしないよ。興味無いからね」
不意に少女から予想外の言葉が発せられる。それは見逃してやるというものだった。
悪魔大蛇を遥かに凌ぐ脅威から、逃走するチャンス。
少女が異様な気配を発しながらここに近づいていた時から考えていた事だ。
震える身体、気が狂いそうなほどの恐怖、その中で必死に考えていた選択肢、それがこの状況を作った張本人から提案されたのだ。
だが、その提案は受け入れられない。
「命の恩人であるレンを殺しておいて逃げろって? ふざけるな!! お前がどれだけ強くても、逃げるなんて事はできない!!」
「へー、さっきまでリリムに怯えてた癖に、意外と根性あるんだね。じゃあ、そっちのお姉ちゃんはどうす――」
アリスに逃走の意思があるか尋ねようとした少女は言葉を途中で切り、横っ面に飛んできた三本の炎の矢を双剣で素早く弾く。アリスの魔法、火炎矢だ。
「アハ! 良い不意打ち! 訊くまでもなかったかな?」
「よくも、よくもレン様をッ!!!!」
涙を流す瞳の奥に憎悪を宿し、アリスは吠える。
「イイネ! その憎しみに満ちた眼、リリム好きだよ! その眼を持った人は、いつも少しだけリリムを楽しませてくれる。だから、ガッカリさせないでね? お姉ちゃんっ!」
アリスの復讐の炎を見て、少女リリムは無邪気な笑顔を見せる。まるで新しいおもちゃを貰った子供の様に。
~~~
アリスは両手に最大限の魔力を込める。
魔法による大空洞や自分たちへの被害など最早アリスは考えていない。
「アリス、落ち着くんだ……怒りに身を任せてもあの少女……リリムは倒せない。
悪魔大蛇と戦った時の様にボクが前衛で戦うから、アルスは魔法での後方支援を――――アリス!!?」
クレアの言葉を無視し、アリスは怒りと憎しみを込めての全力の魔法を目の前の少女に向かって解き放つ。
「炎竜巻ッ!!!!」
アリスが放った魔法は巨大な炎の竜巻だ。それが、少女に向かって一直線に向かっていく。
「あはは、洞窟でそんな魔法使ったらお姉ちゃんたちは死んじゃうよ?」
アリスの渾身の魔法を前にしても余裕な表情を見せるリリム。次の瞬間、炎の竜巻は爆風と共に搔き消えた。
「――な……!? あの魔法を……消した、のか……!? どうやって!?」
あまりの出来事にクレアは驚愕する。
「……? どうやってって……この剣で切ったんだよ?」
リリムはクレアの質問に不思議そうな顔をしながら答える。
「切った……!? 今の一瞬で……!? いや、そもそも、魔法を剣技だけで相殺するなんて芸当ができるわけがない!!」
「そんなこと言われてもねー。この程度の魔法がリリムに通用するわけないじゃん?」
リリムは嘘を言っている様には見えない。できて当然の芸当だといった態度だ。元々勝算はゼロに等しい戦いだが、ここまで次元が違うと恐怖を通り越して呆れてしまう。
「だからなんだって言うんですか。魔法が切られるなら、切られなくなるぐらいの物量で攻めればいいだけです」
渾身の魔法が通用しなかった事に、心が折れるどころか、更にリリムへの復讐心を燃やすアリス。
「――そうは言ってもアリス、君にはもう満足に戦えるような魔力は残っていないんじゃないのか?!」
ここに来るまでに魔物や悪魔大蛇との戦闘でアリスは魔法をずっと使っていた。常人の魔術師ならとっくの昔に魔力は枯渇しているだろう。今リリムに使った巨大な炎竜巻だって、とてつもない魔力が使われた筈だ。いくらアリスの魔力量が常人より秀でていたとしても、リリムと戦えるほどの魔力はもう残っていないだろう。
「私の魔力がもう無かったとしても、ここで倒れるわけにはいかないんです。あの女を殺してその死体をレン様の前で焼き尽くすまでは!!」
アリスは再び両手に魔力を込め、自身の頭上に無数の炎の矢を出現させる。
「火炎矢ッ!!!!」
~~~
リリムは迫りくる無数の炎の矢を双剣で弾きながら考える。
今現在、相対しているアリスという少女について。
第一印象は非力な普通の少女。強いていうなら容姿が整っているぐらいで、他に秀でたものは感じられなかった。
強者のみを求めるリリムにとっては心底どうでもいい人種。興味の対象外だ。
それは、怯える非力な少女から、復讐の鬼へと変わったところで同じだった。
多少は暇つぶし程度に楽しめても、リリムが興味をそそられるほどではない。
だが、今、リリムは少しだけアリスに興味が湧いている。
理由は二つ、まず一つ目はこの魔力量だ。無数に迫りくる炎の矢を弾き続けても一向に魔法がやむ気配がない。
これほどまでの魔力をただの人間の少女がなぜ有しているのか、それが気になった。
無論、その気になれば炎の矢をすべて撃ち落とし、一瞬のうちにアリスの首を刎ね飛ばす事はできる。そうしないのはアリスの魔力の限界が知りたかったからだ。
そして二つ目の理由はアリスの顔だ。最初見たときは気付かなかったが、どこかで見たことがある。何年も前の記憶ではない。ここ一年以内の記憶だ。
だが、どこで見たのか、それを考えても上手く思い出すことができない。
リリムは人の顔を覚えるのが苦手だ。戦いの中で興味が湧いた人物の顔は覚えているが、それ以外はうろ覚えな事が多い。それほど関わったことが無い相手なら尚更だ。
しかし、そんなリリムの記憶に引っ掛かるということは、アリスはおそらくなんらかの重要人物の可能性が高い。
優れた容姿と冒険者とは思えない品のある立ち振る舞い、この事からもどこかの貴族令嬢だとは思うが。
遊びは辞めて尋問するべきだろうか。
そこまで考えて、リリムはあることに気付く。アリスともう一人、長槍を持った女、名をクレアといっただろうか。彼女が長槍を構えリリムに向かって何かしようとしている。
アリスに夢中で気付くのが遅れたが、どうやらクレアは自身の槍に魔力を込めている様だ。
槍を使った魔法だろうか。そんなものは聞いたことがないが、闘気ではなく魔力を武器に込めるということはそういうことだろう。戦士でも魔法や術の類を使う者は居る。別に珍しいことではない。
どういう魔法かは分らないが、槍を媒介にする以上は槍の動きに合わせて発動する魔法の筈だ。つまり、槍の動きさえ注視していれば対処は造作もないだろう。
「――当然、君はボクなんか眼中に無いだろうね。でも、お陰でボクは技を発動するために必要な時間が稼げたよ。そして完成した! 貫け、蒼雷壊槍!!!!」
直後、青白い光にリリムの身体は貫かれた。
桃色の髪の少女は双剣に付いた血を地面に向かって振り払い、つまらなそうに呟く。
「――レンが、やられた……!?」
今何が起こったのか理解できずクレアは困惑する。気付いた時には、少女の双剣による一撃を受け、レンは首から鮮血を撒き散らしながら大空洞の奥へと吹き飛んでいった。
速すぎて、レンが吹き飛んでいくまでの少女の一連の動きがクレアには視認できなかった。
攻撃を受けたレンもそうだろう。防御も回避もできず、首という人体の急所に、体が吹き飛ばされるほどの一撃を受けてしまったのだ。そんなものを受ければどんな人間でも即死だろう。
「で? お姉ちゃん達はどうする? 逃げるなら別に追ったりしないよ。興味無いからね」
不意に少女から予想外の言葉が発せられる。それは見逃してやるというものだった。
悪魔大蛇を遥かに凌ぐ脅威から、逃走するチャンス。
少女が異様な気配を発しながらここに近づいていた時から考えていた事だ。
震える身体、気が狂いそうなほどの恐怖、その中で必死に考えていた選択肢、それがこの状況を作った張本人から提案されたのだ。
だが、その提案は受け入れられない。
「命の恩人であるレンを殺しておいて逃げろって? ふざけるな!! お前がどれだけ強くても、逃げるなんて事はできない!!」
「へー、さっきまでリリムに怯えてた癖に、意外と根性あるんだね。じゃあ、そっちのお姉ちゃんはどうす――」
アリスに逃走の意思があるか尋ねようとした少女は言葉を途中で切り、横っ面に飛んできた三本の炎の矢を双剣で素早く弾く。アリスの魔法、火炎矢だ。
「アハ! 良い不意打ち! 訊くまでもなかったかな?」
「よくも、よくもレン様をッ!!!!」
涙を流す瞳の奥に憎悪を宿し、アリスは吠える。
「イイネ! その憎しみに満ちた眼、リリム好きだよ! その眼を持った人は、いつも少しだけリリムを楽しませてくれる。だから、ガッカリさせないでね? お姉ちゃんっ!」
アリスの復讐の炎を見て、少女リリムは無邪気な笑顔を見せる。まるで新しいおもちゃを貰った子供の様に。
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アリスは両手に最大限の魔力を込める。
魔法による大空洞や自分たちへの被害など最早アリスは考えていない。
「アリス、落ち着くんだ……怒りに身を任せてもあの少女……リリムは倒せない。
悪魔大蛇と戦った時の様にボクが前衛で戦うから、アルスは魔法での後方支援を――――アリス!!?」
クレアの言葉を無視し、アリスは怒りと憎しみを込めての全力の魔法を目の前の少女に向かって解き放つ。
「炎竜巻ッ!!!!」
アリスが放った魔法は巨大な炎の竜巻だ。それが、少女に向かって一直線に向かっていく。
「あはは、洞窟でそんな魔法使ったらお姉ちゃんたちは死んじゃうよ?」
アリスの渾身の魔法を前にしても余裕な表情を見せるリリム。次の瞬間、炎の竜巻は爆風と共に搔き消えた。
「――な……!? あの魔法を……消した、のか……!? どうやって!?」
あまりの出来事にクレアは驚愕する。
「……? どうやってって……この剣で切ったんだよ?」
リリムはクレアの質問に不思議そうな顔をしながら答える。
「切った……!? 今の一瞬で……!? いや、そもそも、魔法を剣技だけで相殺するなんて芸当ができるわけがない!!」
「そんなこと言われてもねー。この程度の魔法がリリムに通用するわけないじゃん?」
リリムは嘘を言っている様には見えない。できて当然の芸当だといった態度だ。元々勝算はゼロに等しい戦いだが、ここまで次元が違うと恐怖を通り越して呆れてしまう。
「だからなんだって言うんですか。魔法が切られるなら、切られなくなるぐらいの物量で攻めればいいだけです」
渾身の魔法が通用しなかった事に、心が折れるどころか、更にリリムへの復讐心を燃やすアリス。
「――そうは言ってもアリス、君にはもう満足に戦えるような魔力は残っていないんじゃないのか?!」
ここに来るまでに魔物や悪魔大蛇との戦闘でアリスは魔法をずっと使っていた。常人の魔術師ならとっくの昔に魔力は枯渇しているだろう。今リリムに使った巨大な炎竜巻だって、とてつもない魔力が使われた筈だ。いくらアリスの魔力量が常人より秀でていたとしても、リリムと戦えるほどの魔力はもう残っていないだろう。
「私の魔力がもう無かったとしても、ここで倒れるわけにはいかないんです。あの女を殺してその死体をレン様の前で焼き尽くすまでは!!」
アリスは再び両手に魔力を込め、自身の頭上に無数の炎の矢を出現させる。
「火炎矢ッ!!!!」
~~~
リリムは迫りくる無数の炎の矢を双剣で弾きながら考える。
今現在、相対しているアリスという少女について。
第一印象は非力な普通の少女。強いていうなら容姿が整っているぐらいで、他に秀でたものは感じられなかった。
強者のみを求めるリリムにとっては心底どうでもいい人種。興味の対象外だ。
それは、怯える非力な少女から、復讐の鬼へと変わったところで同じだった。
多少は暇つぶし程度に楽しめても、リリムが興味をそそられるほどではない。
だが、今、リリムは少しだけアリスに興味が湧いている。
理由は二つ、まず一つ目はこの魔力量だ。無数に迫りくる炎の矢を弾き続けても一向に魔法がやむ気配がない。
これほどまでの魔力をただの人間の少女がなぜ有しているのか、それが気になった。
無論、その気になれば炎の矢をすべて撃ち落とし、一瞬のうちにアリスの首を刎ね飛ばす事はできる。そうしないのはアリスの魔力の限界が知りたかったからだ。
そして二つ目の理由はアリスの顔だ。最初見たときは気付かなかったが、どこかで見たことがある。何年も前の記憶ではない。ここ一年以内の記憶だ。
だが、どこで見たのか、それを考えても上手く思い出すことができない。
リリムは人の顔を覚えるのが苦手だ。戦いの中で興味が湧いた人物の顔は覚えているが、それ以外はうろ覚えな事が多い。それほど関わったことが無い相手なら尚更だ。
しかし、そんなリリムの記憶に引っ掛かるということは、アリスはおそらくなんらかの重要人物の可能性が高い。
優れた容姿と冒険者とは思えない品のある立ち振る舞い、この事からもどこかの貴族令嬢だとは思うが。
遊びは辞めて尋問するべきだろうか。
そこまで考えて、リリムはあることに気付く。アリスともう一人、長槍を持った女、名をクレアといっただろうか。彼女が長槍を構えリリムに向かって何かしようとしている。
アリスに夢中で気付くのが遅れたが、どうやらクレアは自身の槍に魔力を込めている様だ。
槍を使った魔法だろうか。そんなものは聞いたことがないが、闘気ではなく魔力を武器に込めるということはそういうことだろう。戦士でも魔法や術の類を使う者は居る。別に珍しいことではない。
どういう魔法かは分らないが、槍を媒介にする以上は槍の動きに合わせて発動する魔法の筈だ。つまり、槍の動きさえ注視していれば対処は造作もないだろう。
「――当然、君はボクなんか眼中に無いだろうね。でも、お陰でボクは技を発動するために必要な時間が稼げたよ。そして完成した! 貫け、蒼雷壊槍!!!!」
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