The Demons !!

かませかませ

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奴隷の悪魔と2人の雇われ悪魔

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 暗い森の木々の開けた場所を月明かりが照らした。
そこには血に肉に死体が散乱した死屍累々の何とも言えない光景であった。

そんな場所にポツンと停車している場所の前に、三人の悪魔が集合していた。

「…で?全員殺したのか?」

「…確認に《涙の槍》を念のためもう一度放った。全員死んでいる」

奴隷の悪魔スライバーが曇天の悪魔クードに尋ねると、何の感情も感じさせない声で答えた。
クードの、戦った後は塩の悪魔ソルよりも地面が荒れ、多くの木々が傷ついていた。
それほどまでにクードの攻撃が激しかったという証拠であったが…

「スマートじゃねぇな」

「俺は手を抜いて窮地に立たされるようなヘマはしない」

「テメそりゃどういう意味だ?…今ここでぶちのめしてやってもいいんだぞ…?」

クードの発言を聞き流せないといった様子でソルが喧嘩腰になる。
それに合わせるかのようにクードの体から湧き出る黒い雲も少し激しく湧き上がる。

そんな緊張している二人の空気を壊すようにスライバーが間に割って入る。

「はいはい!喧嘩するなら仕事が終わってからにしてくれ!」

睨み合う二人が視線をスレイバーの方へと向ける。

「今はとっととこの森から出ることが先決だ。魔物除けの呪いが朝には解けちまう。そうなったらここらの魔物を相手しながら移動しなきゃいけなくなる」

そうスライバーが話すと、ソルは舌打ちをしながら、クードは何も言わずにタバコをふかしながら馬車へ乗ろうと動き出した。


「…あ、終わったんですかい…?」

馬車の乗車部分から御者の男が顔をのぞかせた。
スレイバーはいたのかという顔で男を見た。

「ずっと隠れてたのか?」

「そりゃあそうでしょう!あんな危ない戦いなんてそばで見てたら巻き込まれて死んじまいやすよ!」

「そうか」

スレイバーは男の言葉に特に何も感じずに返事をした。

「とにかく問題は片付いた、とっとと出発…」



バァン!!


馬車の荷台部分の扉が勢いよく開いた。

そこから一人の少女が飛び降りて、悪魔達に背を向けて脱兎の如く走り出した。

「次から次へと問題が…」

スレイバーは天を仰いだ。

「どうする、捕まえるか?」

塩の悪魔がスレイバーに尋ねた。

「いや、必要ない」

スレイバーが指を鳴らすと、走る少女の首の首輪のような模様が光だし、その直後少女は足をもつれさせて転んだ。

「ぐああああああああ!!?」

少女は首を押さえながら苦しみ出した。

「なんだこのガキ?」

ソルがスレイバーに尋ねると、スレイバーは少女に歩いて近づいた。

「今回の目玉商品さ」

「このガキがか?」

スレイバーはうずくまる少女の髪を掴むと無理やりに立たせた。
少女の整った美しい顔は痛みと怒りで歪んでいた。

「ただのガキじゃあない。俺たちが今いるアースブルム王国の王女、もとい王位継承者候補。それもど本命のな」

少女の顔を手で掴むと、無理やりにその顔を覗き込んだ。
その目は涙で濡れていたが、今この状況でもなお一切の諦めのない曇りなき目だった。

「へぇ、そのガキがねぇ…そんな奴がなんで奴隷に?」

ソルが尋ねると、少女の顔から手を離し、スレイバーはソルのほうを向いた。

「詳しいこた知らんが、どうせ王位継承せんかなんかで王様候補の他の王子だか王女に策にでも嵌まったんだろ」

「貴族様もたいへんだな」

ソルがそう言い、タバコをふかしていると、奴隷となった王女が悪魔達をキッと睨みつけた。

「あなた達…!こんな事をして許されると思ってるの…!?」

悪魔達はお互いの顔を見合わせた。
すると、スレイバーとソルは吹き出し笑い出した。
まるで仲間の失敗談を聞いたときのような、そんな馬鹿にしたような笑い方だった。
クードはそれを表情をピクリとも変えずにただ眺めていた。

「な…何がおかしい!」

「おかしいも何も滑稽の一言に尽きるぜ!まったくよぉ!」

笑いの治らない様子のソルを置いて、失笑しながらスレイバーは元王女に近づいた。
そして王女の首を掴むと、自分の頭より高い位置に持ち上げた。
王女は苦しげな表情を浮かべた。

「なにか勘違いしているようだが…俺たちゃ人間でもなけりゃあこの世界の悪魔でもねぇ…どんな生物よりも欲望に忠実に生きる、何よりも正直で何よりも優れた生命体なんだよ!」

王女は苦しそうに、首を掴んでいるスレイバーの腕を掴んで首から引き剥がそうとするが、奴隷としての扱いによって体力の減った身体では、どうすることもできなかった。

「そんな俺たちに対して許すゆるさねえなんてなぁ!王様に対してただの村人が意見するようなもんなんだよ!」

スレイバーは元王女を地面に放り投げた。
何回か転がり土まみれになりながらも、少女は起き上がった。その目は決して諦めていなかった。

「私に何をしようが、私は諦めない!この国を、この国の民達を幸せにすると誓ったのだ!」

それを興味なさげに見ていたが、ふと、何か思いついた様子で手を打った。

「そうだ。急な出発でちゃんと調教をしてなかったんだっけかな」

スレイバーは指を鳴らした。すると、馬車の後ろの荷台部分から十数人の男女が降りて来た。年端もいかないこどもから、成人済みであろう大人と様々な人間が降りてきた。
その顔には生気はなく、首には首輪がはめられていた。

「俺は奴隷の悪魔。それもただ人を奴隷にしたりするだけじゃあない。もっとその奴隷の魂の根元まで操れるのさ」

「な…何をするつもりだ!」

スレイバーは一つ目でにこりと笑うと、奴隷達に一つの命令を下した。

「よしお前達。その女を犯せ」

「!?」

「おっと、呼び掛けても無駄だぜ。今そいつらの中には一切の感情も理性も意思もない。ただただ命令に従う人形にすぎん」

元王女は驚きの表情で奴隷達を見つめた。

「ど…奴隷から心を奪うなど、出来るはずがない!」

「それができるんだよなぁ…俺が、奴隷の悪魔だから、な」

先ほどまでとは打って変わって、実験用のモルモットを見るかのような目で、悪魔は少女を見下ろした。

「おっと、奴隷共、ただ犯すんじゃない。お前らの中の欲望と本能をさらけ出して相手をしろ」

奴隷達が元王女ににじり寄る。
元王女は尻餅をつきながら後退りをする。

「こ…こんな…こんなことが…」

「せいぜい楽しむんだな」

その時、悪魔が浮かべた表情は、今から目の前で起こる出来事が酷く楽しみで仕方がないという様な…


…酷く残酷な笑顔だった。




「壊れるくらいまで快楽と屈辱に溺れな」









 森を朝日が照らす。
気持ちのいい夜明けだ。
魔物の蔓延る死の森であろうと、そこにはいくつもの命による食物連鎖がある。
鳥は鳴き、花は咲き乱れ、多くの動物達が目を覚ます。



鳥の囀りを遮るかの様に、一台の馬車が森の出口を抜けた。
夜中でも人目につかぬ様に真っ黒に塗られたその馬車には三人の悪魔が乗っていた。

「出来のいい王女がこのざまじゃ、あの国もおしまいだな」

塩の悪魔ソルがそうこぼした。
その視線の先には、鉄格子先に見える奴隷の乗った荷台の内部。
そこには生気の無い目をした奴隷達に混じり、もはやなんの感情の光も宿さない瞳を開いている、力なく馬車の壁にもたれ掛かる元王女の姿があった。
ソルの一言に対し、曇天の悪魔クードが答えた。

「この国の冒険者の質も悪い。森にいた別部隊の中にも大した奴はいなかった」

「お前が遅れてきたのはそいつらと遊んでたからか」

「いちいち邪魔されたら面倒だと思っただけだ。感謝こそされ、非難される覚えは無い」

「けっ、よく言うぜ」

荷台とは別の乗車部分でそんなことを言い合う悪魔二人。
その前の席には馬車を操る御者の男と、奴隷の悪魔スレイバーが座っていた。

スレイバーは振り返ると、2人の悪魔に話しかけた。

「どうやら、俺が思ってたよりもお前らは仕事ができるみたいだな」

「上から目線でどうも」

ソルがふてくされた様に言葉を返した。

「それで相談だが…俺と専属契約をしないか?報酬は弾むぞ?」

馬車の内部に座る悪魔2人は顔を見合わせた。

「…別にやってやってもいいが…それなら今度は俺ら2人じゃなく、他の2人のメンバーも連れてくんだな。こいつと2人でいるなんて拷問はごめんだね」

「…右に同じく」

「そうか、そういえば君らは4人で傭兵をやっていたんだったな」

「ああ、俺ら以外は”車”の悪魔と”笑顔”の悪魔がいる」

「まあいくらかはそちらの条件は飲むつもりだが…」

「じゃあ俺は酒、車の悪魔はお菓子目一杯、笑顔は…奴隷に手ぇだして売りもんにできなくするかもな」

ケケケ…と塩の悪魔は意地悪そうに笑った。

「クード、テメーはどうだ?」

クードは静かにタバコの煙を吐いた

「…奴隷は好かん」

「…だとよ」

スレイバーは溜息をつくと、朝焼けを眺めながら、呟いた。

「ならなんだこの仕事を受けたんだよ…」

その問に対して、後ろに座る悪魔2人が身を乗り出してこう答えた。

「そりゃもちろん…」






「金のためだ!!」」
「金のためだ」



「…お前らは変なとこだけ気が合うな」


呆れる悪魔と、笑う悪魔、静かに馬車の揺れに身を任せる悪魔を乗せて、馬車は朝の太陽の光を浴びながら進んでゆくのだった。




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