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第一章 巨月《ラージムーン》のアストーリ

第17話

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 翌日、シルバは夜間警護だったが、敵の地球からの飛来はなかった。早朝に寮に戻り、リィファに軽く挨拶を交わして、睡眠を取った。
 起床は午後一時に近かった。起きるなりシルバは着替えを始める。
「ずっと一人にしといて悪かったな。俺が寝てる間、何をしてた?」
 カポエィラ用の上着を腕に通しながらシルバは話題を提供した。できるだけ優しく聞こえるように、気をつけたつもりだった。
 リィファは小さく、どこか寂しげな笑みを浮かべた。
「ジュリアさんが貸してくれた本を読んでました。わたしなりに楽しく過ごしてましたので、大丈夫ですよ。気にしないでください」
(知らない場所で目覚めて、年上の男と同居。燥ぎ屋のジュリアでもない限り、すぐには慣れねえよな。ゆっくりやってくか)
 おどおどした小声を耳にしながら、シルバは決意を再確認をしていた。
 ほとんど会話のない昼食の後、二人は昨日の丘に向かった。昼の丘は日の光に満ちており、遠くの山々は美しく、雄大な自然を感じさせる。
 準備運動が終了した。シルバは立位でジュリアと向き合い、両目をじっと見据える。
「八卦掌の要は、敵の死角を突く足捌き。門外漢なりの分析だが、どう思う?」
 平静に尋ねると、リィファは後ろ手を組んだ。背筋は伸び切っており、シルバを見返す視線には熱が込められていた。
「八卦掌の歩法には、爪先を内に向ける扣歩こうほと外に向ける擺歩はいほがあって、相手の背面への移動に使われます。どっちもとっても重要ですので、先生の言う通りだと思います」
 訊いてもいない内容を、リィファは必死げにはきはきと説明した。
(やる気は『買い』だな)と、シルバはひそかに納得する。
「ありがとう。そこで、だ。正確に速く歩くには、安定した身体の制御が大事になってくる。だから初めに鍛えていく。俺の真似をして、手を広げて片足立ちになれ」
 すっと言葉を切り、シルバは右足一本で立った。伸ばした両手は、肩の高さに持っていっていた。
「はい! 先生」
 びしっとした即答の後に、リィファも同じ体勢になった。ふらつかずに綺麗な姿勢を保っている。
「両目を閉じて、立ち続けろ。できるだけ長くな」
 シルバが端的に命じると、リィファは閉眼した。上半身がぐらつくが、地面上の右足を細かく動かしてなんとか片足立ちを保っている。きゅっと引き結んだ口からは、本気がひしひしと伝わってきた。
(真面目で素直、か。もう二、三個は上の、妙にかっこつけたがる年頃じゃこうはいかないよな。ジュリアにリィファ。つくづく俺の周りには、見習うべき年下がいる)
 以後もシルバは、バランス訓練を課していった。リィファは終始、真剣に行っていた。
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