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第二章 古戦場にて

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 ユウリは覚醒した。はっとして周囲を見回す。
 前後左右、あらゆる方向に人がいた。人数はざっと百人弱。ほとんどは男だが女も交じっており、多くの者が深刻な雰囲気で会話を交わしている。年は様々で、ユウリと同年代の人もいれば初老と思しき者もいた。皆、背中には翼が見られ、メイサの言の通り蝶翼らしきものも見受けられた。
 次にユウリは、群衆の向こうに目をやった。百ミルトほど先から水面が続いており、その先の島には城があった。湖の周りは森林で、そこはかとなく暗い雰囲気である。
 頭上には星々が輝いており、時間は夜だと予想がついた。
「ユウリ!」澄んだ声が耳に届き、ユウリは振り返った。フィアナがいた。切羽詰まった面持ちをしている。その後ろにはメイサ、シャウア、ルカが控えていた。
「フィアナ! 良かった、会えた! でもこれは何なんだ? やたらと人がいるけど、今はどういう状況だ?」
 ユウリが困惑を言葉に出すと、厳粛な顔のシャウアが口を開いた。
「神代の戦の最終決戦の開戦直前だな。あの城が敵の本拠地だ。今から俺たちはあそこに攻め入──」
「静まりなさい」穏やかだが有無を言わせない調子の女の声が響いた。シャウアは驚いたように眉を上げ、声の方向に向き直った。ユウリもシャウアに続き、前方斜め上に視線を移す。
 不思議な生物がいた。全身、眩いばかりの虹色のグラデーションで、鳥の頭に蝶の触覚を有している。翼は二層構造で、体側が蝶の、その上側が鳥のものだった。
 大きさは、接地時の体高がユウリと同程度と予想された。羽ばたきながら滞空しているのだが、翼が動くたびにきらきらと白色の何かが宙を舞っている。
「エル・クリスタ! そんなっ!」シャウアが唖然とした様で叫んだ。
「どうしたのシャウア」フィアナが焦った調子で応じる。
「神代の戦の英雄だよ。エデンに近い風体をしていたって伝えられてる。でも何だよあれ。全然違うじゃねえかよ」
 シャウアの口振りにはいつもの理知的な響きはなく、混乱する子供のそれだった。
悪竜闇星ヴァルゴン・ウステルに乗り込んで五日。私たちはついに、悍ましき竜どもの根城を探し当てました。おのおの方、乾坤一擲の最終戦です。持てる力を存分に発揮し、私たちと私たちの子孫のために栄光の勝利を勝ち取ろうではありませんか」
 エル・クリスタが勇壮に言い放つと、群衆は一斉に雄々しい声を上げた。エル・クリスタはふわりと向きを変え、城に向かって鳴いた。神々しくも威圧感のある、轟くような声だった。
 すると湖面が揺らめき、大質量の水が宙に浮いた。すぐに水は形を変えて、城のある島とこちら側を繋ぐ橋となった。
「一瞬で水を制御して、それもこんな大きな橋を──! どれだけ強大な力なのよ!」
 フィアナの声色は驚嘆しきったものだった。
「来たな」メイサが鋭く呟いた。ユウリは目を凝らして城のあたりを見つめる。
 透き通った水の橋の中央に、黒い塊が見え始めた。徐々にそれは大きさを増し、騒々しい音まで聞こえ始めた。
 悪竜ヴァルゴンの大群だった。エル・クリスタの作った橋の上を、猛然と駆け続けている。何匹かは飛翔しており、どの個体も敵を殺し尽くさんとする禍々しさに満ちていた。
 世界の終わりもかくやといった光景に、ユウリは息を呑んだ。
「私はルカを見るから、ユウリとフィアナ嬢はシャウアを守りつつ戦うように! エル・クリスタ軍は私たちにとっては幻影のような存在だ! 気に掛ける必要はない! だが二人は生身かつ非戦闘員だ! 決して矢面に立たせるな!」
 メイサが堂々たる口調で叫んだ。「はい!」とフィアナが間を開けずに答える。
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