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第三章 運命の決闘《デート》@練習試合

28話

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 残りの五分は、得点こそないものの男子Cが圧倒した。動揺から声が止まった女子Aのサッカーは、ただ、耐えるだけのものに成り下がっていた。
 三本目の終了後、俺たちは、再びコーチの下に集まった。
「押してはいる。だが点を取らないと、相手に立ち直る切っ掛けを与える結果になる。だから、前の奴らは確実に……」
 シリアスな調子のコーチの講評が続く中、俺は、思考に没頭し始める。
 楽しい楽しいランデブーだったのに、未奈ちゃん、何で急にペースを崩しちゃったんだろ。皇樹の姿に気づいてこんなんじゃダメだって痛感して、プレーが空回りしたって感じかな。心配だけど、様子を見に行くわけにもいかないしね。
 にしても、ラスト五分の女子Aの雰囲気には、悪いけどまーったく惹かれないね。俺はね。スポーツ女子には、もっとかしましく希望に満ち満ちた感じで、競技に取り組んで欲しいんだよ。
 今の女子Aは「必死の抵抗」って感じで、どうにも見てられないな。それに、だ。不本意な形で交代させられた未奈ちゃんが、さらにチームまで俺らに惨敗したらとっても悲しむよね。さーて、どうしたもんか。
 唐突に天啓が俺に舞い降りた。ばっと右手を挙げて「先生!」。運動会の開会式の「宣誓!」的なノリで、コーチの言葉を遮る。
「どうした、星芝? そんな、きらっきらの目ぇしてよ」
 柳沼は、面白がるような口振り&表情である。よく考えたら柳沼コーチは先生ではないけど、まったく気にせずに続ける。
「俺、女の子チームに寝返ります。んでもって、疲弊し切った女子たちに、爽やかな風を吹き込んじまいますよ」
 声高に宣言すると、全員がばっと振り向いた。コーチを含めて、みんなポカーンとした顔をなさっている。
「は? 寝返る? 具体的に何をどうする気だ? 応援団長でもやろうってのか?」
「いえ。俺と、女子Aのどっちかのセンター・バックが、チームをチェンジしようって意味です。ギブ&テイクってやつっすよ、コーチ」
 自信たっぷりに説明すると、コーチは、怒りと訝りを感じさせる渋い顔になった。
「……お前の重度の女好きは周知の事実だ。だがお前は、今は竜神高校男子Cチームのメンバーなんだぞ? 相手に肩入れしようってのか。
 それにだな。お前のワガママで一人の女子選手が、所属チームで試合に出る機会を失うんだぞ?」
 凄むような低い声にも、俺の決意は揺らがない。コーチを負けずに見返して、真面目モードに口調を変える。
「わかってます。だから、女の子たち全員がいっぱい学べるような、知的でクールで崇高なプレーを披露してやりますよ。もしできなかったら、退部で良いです」
 コーチはわずかに目を見開いた。しかしすぐに驚きを収めて、おもむろに口を開く。
「大きく出たな、星芝。俺が向こうと交渉してやるよ。たーだし約束は守れよ。女子どもが納得するプレーができなけりゃ、お前は即刻、クビだ」
 発言内容はシビアだが、コーチの声音は、どこか楽しげだった。「了解っす」と、体育会系を意識して答えた俺は、頭の中で女の子たちとの共闘のシミュレーションを始めた。
 集合が解かれて数分後、俺の提案が通ったとコーチが淡々と告げた。俺はあおいちゃんとともに、女子Aのセンター・バックをすると決まった。
 相手のベンチに移動した俺は、女の子たちのミーティングに参加した。みんな、未奈ちゃんの交代のショックから立ち直ろうと必死に議論してたよ。もちろん俺も、きっちり意見を出した。
 ミーティングが終わり、俺はあおいちゃんと並んでコートに向かって歩き始めた。
「大丈夫だよ。佐々は確かに速い。だけどあおいちゃんなら、普段通りやりゃー抑えられるよ」
 俺はあおいちゃんの横顔に、目一杯の暖かーい言葉と視線を送った。
 あおいちゃんは、あはは、って感じで力なく笑った。お顔は前を向いたままである。
「なんか、予想の斜め上の展開だなあ。だけど、前向きに捉えなくっちゃね。男の子と一緒のチームでプレーする機会、滅多にないもん。たーくさん勉強させてもらうわ」
「うんうん、その意気だよ。ボンクラの男どもに目に物を見せてやろう。未奈ちゃんがいなくなったからって、奴らは調子に乗り過ぎだよ。因果応報、天罰をお見舞いしてやろうね」
「……星芝くんってフットワーク軽いよね」
「ん? 俺、反復横跳びは遅いけど?」
「いやいや。何でもないの。よろしくね」
 俺たちは互いに右手を差し出して、握手をした。あおいちゃんは、なぜか微妙な笑顔だったけどね。
 両チームともコートに入ると、しばらくしてホイッスルが鳴った。二十分、四本目のスタートである。
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