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第三章 運命の決闘《デート》@練習試合

18話

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      18

 前半五分。流れは完全に、女子Aに持っていかれていた。
 女子Aのパス・ワークは華麗で、ひっきりなしに飛び交う鼓舞の声は元気一杯だった。押されっぱなしの俺たちは、ひたすら圧倒され萎縮していた。
 右サイド、ボールを持った沖原が、未奈ちゃんに寄せられていた。斜め後ろに位置する俺は、「沖原、後ろもあるぞ!」と喚いた。
 沖原がボールを落とすが球足が遅い。
「星芝ー、大事に行けよー」後ろから五十嵐さんの大音量だが冷静な指示が聞こえる。
 右足でボールを止めた俺に、未奈ちゃんが素早くチェックをしてくる。俺よりずっと小さいにも拘わらず、半身になった未奈ちゃんの姿には迫力があった。
 一流選手の風格と気迫に、俺は恐怖を覚える。
 左足に持ち替えて、ろくに前も見ずに大きく蹴り出す。何の発展性もないバカ蹴りだ。
 俺の蹴ったボールを、相手のボランチが胸で止めた。地面に落とさずに、少し引いた未奈ちゃんにパスが出る。上がってきた5番を沖原に見させて、俺は慌てて寄せる。
 左足でトラップした未奈ちゃんは、左足のアウトで外に持ち込む。ツー・タッチ目が早い。前線にパスが出ると判断した俺は、足を出す。
 未奈ちゃんは蹴り出す振りをして、インで俺の股を抜きドリブルを開始。二人目のセンター・バックが引き摺り出される。
 すかさず未奈ちゃんは、内巻きのボールを出す。フリーの9番が走り込み、ダイレクトでシュート。しかしボールは、バーの少し上に外れた。
「ナイス・シュートー! いい感じいい感じ!」
 未奈ちゃんが明るさマックスで労うと、背後から、「サンキュー!」「次は枠に飛ばそー!」など、黄色い声の津波が押し寄せてきた。
 さっきの一連の動きも正確で速かった。いよいよ未奈ちゃんが怪物に見えてくる。
 ゴール・キックを蹴るべく、五十嵐さんがボールを置いた。すると、
「星芝ー! 沖原ー! お前ら、なにを縮こまってんだー! 点ぐらい、いっくらでも取り返してやるから、いつも通り堂々とクソ生意気にやれやー!」
 突然、釜本さんから、煩いぐらい大きな叱咤激励の声が飛んだ。コート中の注目が釜本さんに集まる。
 ボール磨きの件で嫌われていると思っていただけに、はっとした。なんだかんだあったけど、釜本さんはちゃんと俺を見てくれていた。
 胸に広がる感動を収めた俺は、ゆっくりと深呼吸をする。
 今できるプレーを、全力でしていくかね。だいたい、相手選手の好プレーを目にして燃えないなんて俺らしくない。もっと楽しんでいかなくっちゃ。
 ゴール・キックのボールは、競り合いの結果相手に奪われた。ラインぎりぎりにいる未奈ちゃんにボールが回った。沖原がさっと当たる。フォローが可能な位置に着いた俺は、二人の動きを注視する。
 一瞬、溜めた未奈ちゃんは、タッチ、内、タッチ、外と、目にも止まらぬ高速シザースを披露。だが沖原は動じない。
「ミナ!」ダッシュで接近してきた7番が、短く叫んだ。ちらりと右に視線を向けた未奈ちゃんは、ボールを7番にやった。
 7番はダイレクトで前に出す。沖原が抜かれて、俺と未奈ちゃんの一対一。
 五十mが五秒台の女子は存在しない。また俺は、佐々との秘密特訓で七秒の壁を破っていた。だから俺と未奈ちゃんにはそこまでのスピード差はない。むしろ警戒すべきはテクニック。
 未奈ちゃんは唐突にボールを前に出し、縦にドリブルを始めた。相手の呼吸などを読んで意表を突く技術だ。想定していた俺は、遅れずに並走する。
 ゴール・ラインぎりぎりまで持ち込んだ未奈ちゃんは、ゴール前に向けてボールを蹴ろうとする。だが、俺はスライディングで阻止。コーナー・キックに逃れる。
 うん、大丈夫。やれる。未奈ちゃんの動きをじっくりねっとり観察して、ポジショニングを上手くやれば、速さで負けててもなんとかなる。テクニック対策は楓ちゃんとの練習でばっちりだしね。結局、ほとんど勝てなかったけどさ。
 女子Aのコーナー・キック。俺は、未奈ちゃんのマークに付く。未奈ちゃんは俺を見もせずに、両手を背後に回して俺に触れて位置を確認する。
 本当に勝つためなら何でもやるよね。まあそういうパワフルさにベタ惚れなんだけど。
 速いボールがゴール前に上がるが、飛び出した五十嵐さんががっちりキャッチ。反撃開始、である。
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