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第三章 運命の決闘《デート》@練習試合
4話
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午後練後、夕食を取った俺と佐々は、自主練の場所であるCのグラウンドに集まった。
アップを終えて、俺は走る構えを取った。横では佐々が、俺の一挙手一投足を注意深く見ている。
息を整えた俺は、ダッシュを開始。現状でのベストを尽くすべく、全力で足を回転させる。
五十mほど走った俺は、次第に速度を落としていった。やがて方向転換し、ジョグで佐々の元へ向かう。
佐々は、真剣なのか不機嫌なのか判別ができない顔で、「あー、だめだめ。全然だめだわ」と扱き下ろす。
「まず、ホッシー、ガニマタなのよ。まっすぐ走れてねえんだよ。爪先は常に前を向くよう意識して、もっかい走ってみ。ゆっくりでいいからよ」
俺は、「おう、了解」と端的に返事して、佐々の教え通りにダッシュし直す。なんとなく、走り易いように感じた。
短距離の練習はこれまでほとんどしてこなかった。だから知らない間に、走り方が歪んでたわけだ。早めに矯正できて良かった。
まっすぐに走る練習をしてからは、腰の捻りを意識しながら、その場で腕を振る練習に移った。「短距離は股関節が大事だから、普段の練習から意識してけよ」と、佐々はストイックな物腰で俺に命じた。
自分の練習を終えた俺は、佐々に手本を見せてくれるよう、頼んだ。ロケットの如き佐々の全力ダッシュには、並々ならぬ気迫や力強さが感じられたよ。
ダッシュ練の後、佐々の申し出で、俺たちは近い距離でのキック練習をした。
佐々にはまだ、足を構えてからトラップをする癖が残っていた。素早い動作をするためには直さなきゃいけない。だいぶ上手くはなったんだけどね。
佐々の練習も終えて、クール・ダウンに移った。
「そういえば、ちゃんと聞いてなかったけどさ。佐々って今まで、どんなスポーツをしてきたわけ?」
座って開脚のストレッチをしながら、俺は佐々に尋ねた。伸ばした指は、ギリギリ足の爪先に届いた。
「小一から小三までは、ソフト・ボール。少年団で、強制的にな。他には、バスケとかバドミントンとか、嵌まったスポーツをダチと一日じゅうやってたぜ。俺、小学生の時、家の中で遊んだ覚えないかんな」
「マジかよ。筋金、入っちゃてんな。中学は何をしてた?」
「アイス・ホッケー部でバリバリやってた。三年の時には、県の選抜にも選ばれたんだぜ。凄くね?」
低い声で嘯いた佐々は、百八十度に開いた脚の爪先に手で触れる。未奈ちゃん並の、身体の柔らかさである。
「ああ、すげーわ。たださ。県トレに入れるぐらい上手いんなら、高校でもアイス・ホッケーを続けりゃいいのに、って思わんでもないんだけど。サッカーは、なにゆえ始めたのよ?」
「中三のときの体育のサッカーで、サッカー部のエースと同じチームになってな。チーム・メイトのやりたいようにやらせてくれて、俺もガンガン走り回って、そこそこ点を取ってよ。んで、こりゃおもしれーって思って始めた」
佐々からの返答は、憧れを語る少年のような口調だった。
「陸上はやってなかったの? 短距離も長距離も凄まじいの一言なんだけど」
「俺のオヤジ、長距離の国体に出ててさ。ガキの頃から走る練習、やらされてたんだよね。んで、俺、徒競走とか、ずっと学年のトップだったんだけど、オヤジの練習のせいで小四で陥落しちまってさ。ほら、長距離をやり過ぎたら、短距離は遅くなんじゃん?」
「ああ、一般的には、そうだわな」俺はどっちも、ろくに練習してこなかったけどね。
「ムカついたから、RCに入ってる先輩に短距離も教えてもらった。アホみてーに練習して、すーぐにトップ奪還。スカッと元一位を追い抜かしてやったけどよ」
佐々の薄情かつ大胆な台詞に、俺は舌を巻く。未奈ちゃんに匹敵するスポーツ狂が、ここにもいた。
身体を起こした佐々は、自分の前髪を右手で撫で付け始めた。
「竜神のサッカー部、めっさ人が多いって聞いてな。ちょっとでも目立つように、髪もこんなド派手にしたんだぜ。ま、プレーに支障が出んなら切るけどよ。──ってホッシー。何、黙ってんの?」
俺を不審げに見た佐々は、すぐに、意地の悪い揶揄うような笑みを浮かべた。
「おいおい。もしかして、俺の運動マニアっぷりに圧倒されちゃった系? ちんたらしてっと、追い抜いちゃうぜ。なんつったって俺は、運動センスの塊だからな」
カチンと来た俺は、佐々への視線に力を込める。
「お前のセンスは認める。でも、サッカーはそこまで甘くはないよ。それに俺は、シックス・センスの鎌足だからね。中大兄皇子が有する五感とは、一味も二味も違うからね。抜けるもんなら、抜いてみろってーの」
「ははは、イミフにも限度があんだろが。相変わらずぶっ飛んでやがんなホッシーはよ」
挑発的な遣り取りの後、俺は佐々と睨み合う。相手が誰でも、俺は負けない。
午後練後、夕食を取った俺と佐々は、自主練の場所であるCのグラウンドに集まった。
アップを終えて、俺は走る構えを取った。横では佐々が、俺の一挙手一投足を注意深く見ている。
息を整えた俺は、ダッシュを開始。現状でのベストを尽くすべく、全力で足を回転させる。
五十mほど走った俺は、次第に速度を落としていった。やがて方向転換し、ジョグで佐々の元へ向かう。
佐々は、真剣なのか不機嫌なのか判別ができない顔で、「あー、だめだめ。全然だめだわ」と扱き下ろす。
「まず、ホッシー、ガニマタなのよ。まっすぐ走れてねえんだよ。爪先は常に前を向くよう意識して、もっかい走ってみ。ゆっくりでいいからよ」
俺は、「おう、了解」と端的に返事して、佐々の教え通りにダッシュし直す。なんとなく、走り易いように感じた。
短距離の練習はこれまでほとんどしてこなかった。だから知らない間に、走り方が歪んでたわけだ。早めに矯正できて良かった。
まっすぐに走る練習をしてからは、腰の捻りを意識しながら、その場で腕を振る練習に移った。「短距離は股関節が大事だから、普段の練習から意識してけよ」と、佐々はストイックな物腰で俺に命じた。
自分の練習を終えた俺は、佐々に手本を見せてくれるよう、頼んだ。ロケットの如き佐々の全力ダッシュには、並々ならぬ気迫や力強さが感じられたよ。
ダッシュ練の後、佐々の申し出で、俺たちは近い距離でのキック練習をした。
佐々にはまだ、足を構えてからトラップをする癖が残っていた。素早い動作をするためには直さなきゃいけない。だいぶ上手くはなったんだけどね。
佐々の練習も終えて、クール・ダウンに移った。
「そういえば、ちゃんと聞いてなかったけどさ。佐々って今まで、どんなスポーツをしてきたわけ?」
座って開脚のストレッチをしながら、俺は佐々に尋ねた。伸ばした指は、ギリギリ足の爪先に届いた。
「小一から小三までは、ソフト・ボール。少年団で、強制的にな。他には、バスケとかバドミントンとか、嵌まったスポーツをダチと一日じゅうやってたぜ。俺、小学生の時、家の中で遊んだ覚えないかんな」
「マジかよ。筋金、入っちゃてんな。中学は何をしてた?」
「アイス・ホッケー部でバリバリやってた。三年の時には、県の選抜にも選ばれたんだぜ。凄くね?」
低い声で嘯いた佐々は、百八十度に開いた脚の爪先に手で触れる。未奈ちゃん並の、身体の柔らかさである。
「ああ、すげーわ。たださ。県トレに入れるぐらい上手いんなら、高校でもアイス・ホッケーを続けりゃいいのに、って思わんでもないんだけど。サッカーは、なにゆえ始めたのよ?」
「中三のときの体育のサッカーで、サッカー部のエースと同じチームになってな。チーム・メイトのやりたいようにやらせてくれて、俺もガンガン走り回って、そこそこ点を取ってよ。んで、こりゃおもしれーって思って始めた」
佐々からの返答は、憧れを語る少年のような口調だった。
「陸上はやってなかったの? 短距離も長距離も凄まじいの一言なんだけど」
「俺のオヤジ、長距離の国体に出ててさ。ガキの頃から走る練習、やらされてたんだよね。んで、俺、徒競走とか、ずっと学年のトップだったんだけど、オヤジの練習のせいで小四で陥落しちまってさ。ほら、長距離をやり過ぎたら、短距離は遅くなんじゃん?」
「ああ、一般的には、そうだわな」俺はどっちも、ろくに練習してこなかったけどね。
「ムカついたから、RCに入ってる先輩に短距離も教えてもらった。アホみてーに練習して、すーぐにトップ奪還。スカッと元一位を追い抜かしてやったけどよ」
佐々の薄情かつ大胆な台詞に、俺は舌を巻く。未奈ちゃんに匹敵するスポーツ狂が、ここにもいた。
身体を起こした佐々は、自分の前髪を右手で撫で付け始めた。
「竜神のサッカー部、めっさ人が多いって聞いてな。ちょっとでも目立つように、髪もこんなド派手にしたんだぜ。ま、プレーに支障が出んなら切るけどよ。──ってホッシー。何、黙ってんの?」
俺を不審げに見た佐々は、すぐに、意地の悪い揶揄うような笑みを浮かべた。
「おいおい。もしかして、俺の運動マニアっぷりに圧倒されちゃった系? ちんたらしてっと、追い抜いちゃうぜ。なんつったって俺は、運動センスの塊だからな」
カチンと来た俺は、佐々への視線に力を込める。
「お前のセンスは認める。でも、サッカーはそこまで甘くはないよ。それに俺は、シックス・センスの鎌足だからね。中大兄皇子が有する五感とは、一味も二味も違うからね。抜けるもんなら、抜いてみろってーの」
「ははは、イミフにも限度があんだろが。相変わらずぶっ飛んでやがんなホッシーはよ」
挑発的な遣り取りの後、俺は佐々と睨み合う。相手が誰でも、俺は負けない。
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