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 第一章 予定外の共闘@チーム振り分け試験

6話

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 俺たちのチームの二試合目も、始まって五分ほどが経った。スコアは動かず、〇対〇のままだ。
 自陣でしばらく回ったボールを、6番が俺に落とした。止めた俺は、右サイド・バックの沖原壮太にパスを転がす。
 前方に目を遣った沖原は、前に蹴り出した。が、右に逸れて、コート外に出た。相手のスロー・インである。
「どこに蹴ってんのよ。そんな間抜けなミスは小学生でもしないわよー。あんたのとこにコーナー・キックの人形を置いとくほうがましだっつーのー」
 相手陣では、未奈ちゃんが手をメガホンにして、俺が聞いた中で最大の声量で叫んでいる。
 今回の試合では、未奈ちゃんは相手の準エースとマッチアップしていた。見たところ、四対六で未奈ちゃんの負けって感じだけど、充分よくやってくれてる。
 相手の4番が、スロー・インを行った。ボランチがボールを受けて、4番に返球。
 と同時に、トップ下の7番は、素早くマーカーを振り払った。4番は、7番にダイレクトではたく。
 前を向いた7番は、俺と沖原の間を通す速いパスを出した。相手の左ウイングでチーム代表の緒方は、沖原と並走。ライン際でボールを抑えて、沖原と相対する。
「飛び込むなよー、沖原。お前はやればできる子だー! 自身を持って生きていけー!」
 沖原のフォローが可能なポジションを取った俺は、暗示を掛けるようにゆっくりと告げた。半身になった沖原は、返事をしない。
 次の瞬間、緒方はノー・フェイントで縦にドリブルを開始。沖原が追うが、振り切られる。俺は即座に緒方に詰めた。
 進行方向にスライディング。だが緒方は右足で切り返し、ゴールへと一直線に進む。
 瞬時に立ち上がって、振り返る。ペナルティ・エリアに入った緒方はシュートを撃った。ゴールの右隅に、低弾道のボールが突き刺さる。
 沖原の隙を突いたチェンジオブペース。俺の動きを読んだ切り返し。一連の緒方のプレーは、見事としか言えんね。
 メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマール。一昔前なら、ロナウジーニョもかな。
 現代サッカーのウイングは緒方のように、利き足とは逆で中、つまりゴール側に切り込んで自ら点を取れるアタッカー・タイプが主流である。縦に抜いてクロスばかりでは、相手に読まれて得点は遠い。
 感服した俺は、「ブラボー!」と、顔の前で手を叩く。
「お前、星芝。何で、やられた相手に拍手してんだよ! 意味がわからねえって!」
 沖原は、やや目が小さいが、割とイケメンな相貌を歪めて喚いた。
 手を下ろした俺は、見開いた眼で沖原を見つめ返す。
「いやいや、今のドリブル、超キレッキレだっただろ? 敵でもなんでもさ。良いプレーは褒めないと、何のためにサッカーをしてるのかわかんないっつーの」
 俺は一瞬の躊躇もなく、声高に反論した。
 サッカーにおける相手チームは、共に高みを目指す戦友だ。だから俺は、優れたプレーヤーは素直に賞賛する。誰が何と言おうとも曲げるつもりはないね。
「何をほざいてんだよ! 点を取られて悔しくねえのかよ! お前、絶対なんか、ずれてるって!」
「おうおう、ずれ上等っすよ。おめーも小学校で習っただろ? 『個性を大切にしましょう。一人一人が主人公です』ってさ」
 俺が、崇高な理念で以て沖原を諭していると、「はーい、そこのすっとこどっこい二人ー」と、呆れたような大声がした。
「くっだらない主義主張をぴーちくぱーちくさえずってないで、取り返すよー。次、しょーもない言い合いをしたら、知り合いの催眠術師に頼んで、あんたたちに血判つきの退部届を書かせるからねー。ちなみにインクはあんたたちの血だからー」
 スプラッタ全開の未奈ちゃんの宣言にはっとした俺は、ゴールからボールを取り出して、コートの中央を目掛けて蹴り込んだ。キャッチした佐々が、センター・サークルへと持って行く。
 さっきの指摘はもっともだ。それに、どんどんアピールしていかないと、どのチームに振り分けられるかわかったもんじゃない。
 顔を両手で叩いて気合を入れ直した俺は、ダッシュでポジションに着いた。ホイッスルが鳴り、試合が再開された。
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