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序章 毒舌可憐な左利き
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序章 毒舌可憐な左利き
夜のフットサル・コート。俺、星芝桔平と二人の愉快な仲間たちは、同じ高一にしてU―17日本代表、水池未奈ちゃんと、その妹の楓ちゃんを相手取り、ミニ・ゲームに臨んでいた。
フェンスの向こう、草原みたいに広大なサッカー・コートでは、自主練に取り組む男女サッカー部員の姿が見える。竜神高校サッカー部員は男女問わず、練習熱心だ。全国でも有数のサッカー強豪校だけはある。
相手チームのキック・イン。未奈ちゃんから楓ちゃんに、グラウンダーのパスが出た。小六の女子に出すスピードじゃないけど、楓ちゃんは難なく去なす。
俺のチームの佐々が寄せに行く。楓ちゃんは、右足でボールを引いて身体の後ろを通した。
「楓!」
未奈ちゃんが鋭く、名前を呼んだ。佐々が右足を出す。
楓ちゃんは、パスを出すと見せかけてボールを引き摺ずって方向を変え前にやった。佐々が股を抜かれて、俺のチームの沖原が詰める。
「沖原、ディレイで頼むぜ! いや、マジで!」
未奈ちゃんを視野に入れながら、俺は、左手で沖原の背中を指差した。右手はメガホン代わりだ。
「うるせぇ! わかってるっての!」
沖原は半身になって静止した。サッカー経験が長いだけあって、まーまー様になっている。
楓ちゃんはボールを跨ぐ。右、左。一瞬だけ溜めて未奈ちゃんにパス。
全動きがすんげえ速い。サッカー関係者の間で未奈ちゃんと楓ちゃんは、「超絶姉妹」という通り名で有名である。
身体を開いた未奈ちゃんは、タッチ・ライン際にボールを止めた。俺と未奈ちゃんとの一対一。
未奈ちゃんは左のアウトでの縦への突破が十八番だ。基本通り中を切って、サイドに追いやっちゃいますか。
ドリブルを始めた。俺は半身になって、臍の辺りを注視する。
右足に重心を掛けるフェイント。釣られない。左足で縦に持ち込んでくる。俺のほうが動き出しが早い。なんとか従いていく。
左足の踵でボールを止めて急停止。中か。俺は足を止める。
次の瞬間、未奈ちゃんは右足の爪先でボールを前に出し、ダッシュし始めた。俺はバランスを崩して転ぶ。
ストップ&ゴー。そんなパターンもあんのかよ。
後方でボールを蹴る音がした。〇対四。ボロボロのボロ負けってやつだ。
「お姉ちゃーん、ナイス・シュートー! 見たか者ども! あたしたち最強姉妹のスーパーウルトラコンビネーションを!」
「どやっ!」って感じのキメ顔で、楓ちゃんがびしっと叫んだ。子供らしい、毒気のない元気な声である。
ロリかわいい楓ちゃんをなんとなく見ていると、背後から辛辣な声がかかる。
「あんたさー。いったいいつまで転んでんのよ? やる気はあんのかっての」
背後から、未奈ちゃんの冷ややかな声がした。俺は立ち上がり、未奈ちゃんと向かい合った。
未奈ちゃんは、真っ直ぐに俺を見据えていた。瞳は、果てしなーく挑発的である。
「小六のガキンチョ混じりのチームにこんだけやられて、恥ずかしくないの?
部活は辞めて、放課後は友達と思い出を作って、いい大学に入って、充実した高校生活でした、でいいじゃん。って、何でさっきから笑ってんの?」
詰り口調の問いを受けた俺は、自分の頬に手を遣る。んー、やっぱり、こうなるんだよね。
「何で笑ってるかって? キュートな未奈ちゃんと、サッカーができるからに決まってるだろ? 愚問にもほどがあるよ」
意識に刷り込むように重ーく告げると、未奈ちゃんは、うげっって感じで眉を顰しかめた。ま、そんな表情も可愛いんだけどね。
未奈ちゃんのお顔は小さく、勝ち気な印象のはっきりした目鼻立ちはありえないぐらい整ってる。茶色がかった、肩にぎりぎり届く長さの髪はこの上なく艶やかだ。
身長は、同世代の女の子と比べたら小さめ。身体つきは華奢だけど、一流のスポーツ選手だけあってどこまでもしなやか。
そう、未奈ちゃんはそこらのアイドルも真っ青の美人さん。校内には、ファン・クラブまで存在するっつー話である。
「キュートって、あんたいったい何をふざけて……。ま、まあ良いわよ。アホな戯言が叩けなくなるぐらい、こてんぱんにしてやるだけだし」
眉をヒクヒクさせる未奈ちゃんを尻目に、俺は、全力ダッシュでボールを取りに行く。
告白なんて週一ペースでされてるだろうに、まーったく慣れちゃあいないわけだ。もう、ほーんとピュアだよね。
俺の目標は、死ぬほどサッカーが上手くなって、未奈ちゃんに認められて、運命的に結ばれる、だ。だからさ。時間を無駄にしてる暇は、どこにもねーのよ。
ボールをコート中央に置いた俺は、自チーム二人の滅入った様に気づいた。
ボールに片足を乗せ、両手を肩の横に遣る。イメージは、イタリアかどっかのちょいワルオヤジ。
「ヘーイ、何をしょげてるんだ。野球は、九回裏スリー・アウトからだろ?」
「なーんかいろいろ間違ってるわよ。あんた、完全に勢いだけで喋ってるでしょ」
背後から未奈ちゃんの冷たーい声がするが、気には懸けずにキックオフ。
ボールを沖原に戻して外に開きながら、俺はクールに考えを巡らせ始める。
俺にとってサッカーは遊びだ。ほら、遊びだから、全力でやんないと楽しくないじゃんか。
強い者が上に行く。単純な掟の竜神高校サッカー部で、俺は、全てを手に入れる。
夜のフットサル・コート。俺、星芝桔平と二人の愉快な仲間たちは、同じ高一にしてU―17日本代表、水池未奈ちゃんと、その妹の楓ちゃんを相手取り、ミニ・ゲームに臨んでいた。
フェンスの向こう、草原みたいに広大なサッカー・コートでは、自主練に取り組む男女サッカー部員の姿が見える。竜神高校サッカー部員は男女問わず、練習熱心だ。全国でも有数のサッカー強豪校だけはある。
相手チームのキック・イン。未奈ちゃんから楓ちゃんに、グラウンダーのパスが出た。小六の女子に出すスピードじゃないけど、楓ちゃんは難なく去なす。
俺のチームの佐々が寄せに行く。楓ちゃんは、右足でボールを引いて身体の後ろを通した。
「楓!」
未奈ちゃんが鋭く、名前を呼んだ。佐々が右足を出す。
楓ちゃんは、パスを出すと見せかけてボールを引き摺ずって方向を変え前にやった。佐々が股を抜かれて、俺のチームの沖原が詰める。
「沖原、ディレイで頼むぜ! いや、マジで!」
未奈ちゃんを視野に入れながら、俺は、左手で沖原の背中を指差した。右手はメガホン代わりだ。
「うるせぇ! わかってるっての!」
沖原は半身になって静止した。サッカー経験が長いだけあって、まーまー様になっている。
楓ちゃんはボールを跨ぐ。右、左。一瞬だけ溜めて未奈ちゃんにパス。
全動きがすんげえ速い。サッカー関係者の間で未奈ちゃんと楓ちゃんは、「超絶姉妹」という通り名で有名である。
身体を開いた未奈ちゃんは、タッチ・ライン際にボールを止めた。俺と未奈ちゃんとの一対一。
未奈ちゃんは左のアウトでの縦への突破が十八番だ。基本通り中を切って、サイドに追いやっちゃいますか。
ドリブルを始めた。俺は半身になって、臍の辺りを注視する。
右足に重心を掛けるフェイント。釣られない。左足で縦に持ち込んでくる。俺のほうが動き出しが早い。なんとか従いていく。
左足の踵でボールを止めて急停止。中か。俺は足を止める。
次の瞬間、未奈ちゃんは右足の爪先でボールを前に出し、ダッシュし始めた。俺はバランスを崩して転ぶ。
ストップ&ゴー。そんなパターンもあんのかよ。
後方でボールを蹴る音がした。〇対四。ボロボロのボロ負けってやつだ。
「お姉ちゃーん、ナイス・シュートー! 見たか者ども! あたしたち最強姉妹のスーパーウルトラコンビネーションを!」
「どやっ!」って感じのキメ顔で、楓ちゃんがびしっと叫んだ。子供らしい、毒気のない元気な声である。
ロリかわいい楓ちゃんをなんとなく見ていると、背後から辛辣な声がかかる。
「あんたさー。いったいいつまで転んでんのよ? やる気はあんのかっての」
背後から、未奈ちゃんの冷ややかな声がした。俺は立ち上がり、未奈ちゃんと向かい合った。
未奈ちゃんは、真っ直ぐに俺を見据えていた。瞳は、果てしなーく挑発的である。
「小六のガキンチョ混じりのチームにこんだけやられて、恥ずかしくないの?
部活は辞めて、放課後は友達と思い出を作って、いい大学に入って、充実した高校生活でした、でいいじゃん。って、何でさっきから笑ってんの?」
詰り口調の問いを受けた俺は、自分の頬に手を遣る。んー、やっぱり、こうなるんだよね。
「何で笑ってるかって? キュートな未奈ちゃんと、サッカーができるからに決まってるだろ? 愚問にもほどがあるよ」
意識に刷り込むように重ーく告げると、未奈ちゃんは、うげっって感じで眉を顰しかめた。ま、そんな表情も可愛いんだけどね。
未奈ちゃんのお顔は小さく、勝ち気な印象のはっきりした目鼻立ちはありえないぐらい整ってる。茶色がかった、肩にぎりぎり届く長さの髪はこの上なく艶やかだ。
身長は、同世代の女の子と比べたら小さめ。身体つきは華奢だけど、一流のスポーツ選手だけあってどこまでもしなやか。
そう、未奈ちゃんはそこらのアイドルも真っ青の美人さん。校内には、ファン・クラブまで存在するっつー話である。
「キュートって、あんたいったい何をふざけて……。ま、まあ良いわよ。アホな戯言が叩けなくなるぐらい、こてんぱんにしてやるだけだし」
眉をヒクヒクさせる未奈ちゃんを尻目に、俺は、全力ダッシュでボールを取りに行く。
告白なんて週一ペースでされてるだろうに、まーったく慣れちゃあいないわけだ。もう、ほーんとピュアだよね。
俺の目標は、死ぬほどサッカーが上手くなって、未奈ちゃんに認められて、運命的に結ばれる、だ。だからさ。時間を無駄にしてる暇は、どこにもねーのよ。
ボールをコート中央に置いた俺は、自チーム二人の滅入った様に気づいた。
ボールに片足を乗せ、両手を肩の横に遣る。イメージは、イタリアかどっかのちょいワルオヤジ。
「ヘーイ、何をしょげてるんだ。野球は、九回裏スリー・アウトからだろ?」
「なーんかいろいろ間違ってるわよ。あんた、完全に勢いだけで喋ってるでしょ」
背後から未奈ちゃんの冷たーい声がするが、気には懸けずにキックオフ。
ボールを沖原に戻して外に開きながら、俺はクールに考えを巡らせ始める。
俺にとってサッカーは遊びだ。ほら、遊びだから、全力でやんないと楽しくないじゃんか。
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