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第四章 Repatriation

14話

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 挨拶が終わり、メンバーはポジションに着いた。両チームともフォーメーションは、1―3―6だった。ホワイトフォードは準決勝と、ウェブスターはシェフィールドBとの練習試合と同様の配置だった。
 キックオフはホワイトフォードが得て、ボールがセンターに置かれた。
 ハーフバックの真ん中のヴィクターは、鋭い顔付きで周囲を確認していた。時折、飛ぶ端的な指示の声はきびきびしており、強いリーダーシップを感じさせた。
 ホイッスルで試合が始まり、敵陣の中ほどで桐畑がボールを収めた。左右に目を配り、右のライン際のエドに高速のパスを転がす。
 エドがトラップすると、敵の中盤の6番が寄せてきた。エドから少し離れて、半身の姿勢を取っている。
 背筋をぴんと張ったエドは、左、右、左。力感のない調子で、ゆるゆるとボールを跨ぐ。6番は軽快なテンポに、わずかに困惑した様子を見せた。
 突如として、エドは速度を上げた。右足の外側でボールを外へと遣る。
 6番の身体が、左に傾いた。次の瞬間、エドはボールを落とさずに、足の内側で切り返す。6番は転び、エドは横を抜き去った。
「ナイス・エラシコだ! やってくれんぜ。ハナっから飛ばしてくれんじゃんかよ!」
 桐畑は興奮を全力で口にした。準決勝で閃きを得たエドのドリブルは、完全に一皮剥けている。
 スピードに乗るエドに、ギディオンが相対する。速さを警戒しているのか、距離を大きく取っていた。
 エドは勢いを殺さずに、ギディオンの左へと右足で強めに蹴った。自らは右から回り込み、ボールを追う。遥香も披露したドリブレ・ダ・バッカだ。
 しかしギディオンは、爆発的な加速で追随。数歩の後に肩の一当てでエドを吹き飛ばし、ボールを確保。前線へと大きく蹴り出した。ヴィクターの「速攻だ!」の大声が、グラウンド中に鳴り響く。
(間の取り方といいボールの方向といい、さっきのエドは完全完璧、文句なしだった。あそこまであっさりストップしちまうのかよ。まあでも、テンションが上がってきたぜ。ラスボスってやつは、こうでなくっちゃ詰まらないよなぁ)
 桐畑は全速で引きながら、考えを巡らしていた。ヴィクターが鮮やかな胸トラップで前を向き、ウェブスターの反撃が始まる。
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