上 下
213 / 219
第四章(最終編)悠久の時を越えて

38 結婚式 その一

しおりを挟む
 《シュン視点》

 俺は嫌だと言ったんだ。絶対、遠慮しますと、声を限りに叫んだんだ。

 でも、世の中は無常だった。

「王の一声。絶対権力者の鶴の一声。これに逆らえるものはいない」

 なんて、みんなは言うけど、それ、絶対嘘だろ? あののほほんとした王様がそんな横暴を通すとは思えない。それに、フィナンド宰相もグレバリオ閣下も、なんだったらロワクレスだって、平気で逆らってばかりいるだろ? こんな時ばかりそんなこと言うなんて、卑怯じゃないか!

 いや、ロワクレスは始めは嫌がっていた。絶対やらんぞと、力強く断言していた。けれど、キシリア義母様から涙ながらに、「息子の晴れ姿をこの目に焼き付けたいの」と訴えられて、あっさりと意見を翻しやがった。

 この裏切り者め!

 やっと和解して会えたお母さんだもの。ロワクレスが甘くなるのもしょうがないとは思うけどさ。




 で、本日、空は秋晴れ。晴れやかに澄み渡り、雲一つない青空で。

 王城敷地内にある神殿で厳かに式を挙げた。


 そのためだけのために用意した晴れ着をロワと着て。
 お揃いの光沢のある白の生地で作った。

 ロワクレスは騎士団服の正装姿。ラインに俺の色の黒を入れ、金糸で刺繍がされ、胸に金翼星誉勲章と副総司令官の徽章が輝き、肩章の横には金色の飾緒をつけている。肩から膝丈までの裏地が赤、表が白のマントが翻ってすごくカッコいい。

 俺も、ロワのような服が良かった。足が短い日本人体形に似合うかってのはさておいてだな。
 俺も、一応金色と青色のラインが入ったほっそりしたズボンを穿いてはいるが。これでもかと襟や胸にレースのフリルが幾重にも重なったオーバーシャツ。柔らかくて薄いシルクなんだぞ? ウエストを金と青で織り込んだベルトで抑え、その上に裾までの長さの白い上着を着させられた。

 この金色と青色はロワの色なんだよな。白い生地に目立って、恥ずかしいんだが、これ。

 ふわりと軽い上着のウエスト部分をベルトに金のボタンで留めている。腰から下は緩やかに広がり、ドレスのスカートみたいに見える。
 ロワの衣装と同じ金の刺繍が刺してあり、こちらは青のラインが入って、いかにもロワとペアだというお揃いの作りになっていた。
 裾には可愛らしく青いレースがひらひらついて華やかさをさらに強調。これ、女子が着てこそ似合いそう。まじでウエディングドレス。裾を引き摺る形でなかっただけまし?

 額に雫型のサファイアが垂れる金の飾り、頭には霞みたいなレースのベールを被せられ、花飾りの付いたティアラで留めた。ベールは背中から腰まで長く垂れて、俺の短い髪をカバーしている。

 もう、完全に花嫁だよな? キシリア義母様やアニータやその他もろもろの使用人たちが寄ってたかって飾り付けてくれて、俺には抵抗する隙も自由も無かったんだ。
 最後の仕上げと白粉をはたかれ、口紅塗られて。

 もう、仮装大会だよ? 誰もが溜息つくような美少年がやるならともかく、ちびで豆だぬきの俺がやっても、似合うわけないだろ? 失笑もんだよな。

 義母様やアニータたちが満足そうなんで、いいけどさ。「やりとげた」って満足感があるんだろう。ご苦労様です。楽しんでいただければ、俺は十分なんだ。それにしても、これ、どれだけお金かけてるんだろう? 俺には想像もつかないよ。今日だけのためってだけでこれだけの支度。もったいないないよな。汚したらどうしようって、俺、動けないよ?



 支度ができて部屋に入って来たロワクレスは、こんな俺を見て、頬を染め、嬉しそうにふわりと笑った。

「きれいだ。シュン。すごく可愛いよ。ああ。誰にも見せたくないな。これでは、シュンを取られてしまいそうだ」

 なんて言ってるけど、ロワの目には変なフィルターが入ってるからな。俺がどんな格好してても、可愛いって言うんだ。




 神殿内で参列して見守るは、オズワルドご夫妻が新郎側、グレバリオ閣下とバラン団長がなぜか新婦側付き添いで。友人代表でブルナグム隊長とローファート。それに王族一族の方々にリーベック老師までご参列。

 なんなんだ? この超豪華メンツ。俺は緊張しすぎて、大神官長のありがたいお言葉もさっぱり頭に入らないんだけど。


 ああ、そういえば、ロワってば、陛下の従弟で副総司令官だったっけ。軍事部門で五本の指に入る重要ポストだったっけ。今更ながら、実感したよ。ロワクレスって高貴でお偉いさんなんだ。
 その嫁が豆たぬきのはぐれ者の俺でいいのかな? でも、もう今更、誰にもロワもロワの傍らの場所も譲る気はないんだけどな。



 幸い、地球のように結婚式にキスをするなんてことはなく、神官長の祝福を受けて終わった。式自体はわりとあっさりとしていた。神の御前で誓いの報告をすればいいらしい。
 友人席でブルナグムがうおんうおんと吠えるように泣いていて煩かったな。あと、ローファート、涙零しながら、絶対お二人の子供をとかぶつぶつ呟くのは、怖いからやめてくれ。



 二人で参列の間を通り、神殿の扉の前に立つと、神官たちが恭しく重厚な扉を開いてくれる。
 外に踏み出すと、神殿前に騎士団がずらりと並んでいた。

「おめでとうございます!」

 野太い声が唱和し、びしっと一斉に敬礼してきた。これだけの騎士が集まると壮観だな。
 それにロワがきりっと返礼して。うん、カッコいい。

「おめでとう! シュン君!」
「おめでとう! ロワクレス隊長!」

 騎士の列が崩れ、手に持っていた花を高く放り上げて花吹雪を浴びせてきた。第二騎士隊ばかりではなく、王都の騎士隊のほとんどが来ているみたいだった。

 よく見ると、西の砦の第五部隊の人々も来ている。この世界に来て初めて会った人たちだ。懐かしいな。わざわざ今日の為に駆けつけてくれたのかな。

 彼らを見ると、ロワがどれだけみんなに慕われているかわかる。それが自分のことのように嬉しい。




 このあと、披露宴がある。なんと、王宮の大広間が披露宴として提供されたのだ。陛下や騎士団の連中が乗りに乗って張り切って支度を整えていた。

 せめて地味にしてくれと、ささやかでいいんだと訴えども、まるで聞いちゃいなかった。今からそこへ向かうわけなんだけど、ちょっと怖い。このまま家に帰っちゃだめかな?


 神殿の前庭を通りに向かって進むと、騎士団たちの群れが、俺たちを通すために左右に分かれた。

 すると、「ワー!!!」と、大きな歓声が起こる。

 正面通りから、解放されている神殿前庭広場まで、埋め尽くすように街の人々が詰めかけていた。

「ロワクレス様、おめでとうございます!」
「ご結婚おめでとうございます!」
「お幸せに!!」

 人々の祝福する声が怒涛のように襲い掛かって来た。

 ロワクレスの人気、ちょっと凄すぎないか?

 機嫌がMAXにいいロワは、笑顔を浮かべて彼らに手を振る。すると、また、ワーッと先の三倍大きい歓声が返って来た。

 ――やめて……。

 いつも恐れられ、疎まれ、道具扱いを受けてきた俺はこんな風に歓迎されることに慣れていない。どうしたらいいかわからず、狼狽えるなかりだ。

「シュン殿も手を振って応えてください。あなた方は同性婚の最初の一組です。法が改正され、新しく同性婚が認められるようになったのです。よい宣伝アピールとなりますよ」

 宰相の顔を見上げると、にこりと柔らかい笑みを浮かべていた。いつも眉間に縦皺を刻んでいる冷たそうな人に見えたが、彼はブルナグムの嫁さんのミリンダさんのお父さんだった。案外優しい人柄なのかもしれない。

 俺たちのような同性同士でも大手を振って一緒に暮らせるようになる一助になるなら、俺も胸を張って堂々としていよう。

 そろりと手を挙げて彼らに振ってみる。

「キャー、かわいい!」
「ほんとに男なの?」

 女性の黄色い声が飛ぶ。

「俺も可愛い嫁が欲しい!」

 反響はいいな。もう少し、手を大きく振った。みんなもワーワーと手を振り返してくれた。
 ちょっと嬉しくなって、両手で振り始めていると、腰を抱かれた。

「きゃー!!」

 と、悲鳴のような歓声が上がる。隣を見ると、不機嫌そうなロワが俺を見下ろしていた。

「愛想など振りまかなくていい」

 おい、ロワ。嫉妬かよ? 可愛いな。あんたのその独占欲、嫌いじゃないぜ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖
BL
会社員の都築遥(つづきはるか)は、階段から落ちた女子社員を助けようとした。 その瞬間足元の床が光り、気付けば見知らぬ場所に。 夢で?会ったカミサマ曰く、俺は手違いで地球に生まれてしまった聖女の召還に巻き込まれて異世界に転移してしまったらしい。 目覚めた場所は森の中。 一人でどうしろっていうんだ。 え?関係ない俺を巻き込んだ詫びに色々サービスしてやる? いや、そんなのいらないから今すぐ俺を元居た場所に帰らせろよ。 ほっぽり出された森で確認したのはチート的な魔法の力。 これ絶対やりすぎだろうと言うほどの魔力に自分でビビりながらも使い方を練習し、さすがに人恋しくなって街を目指せば、途中で魔獣にやられたのか死にかけの男に出会ってしまう。 聖女を助けてうっかりこの世界に来てしまった時のことが思わず頭を過ぎるが、見つけてしまったものを放置して死なれても寝覚めが悪いと男の傷を癒し、治した後は俺と違ってこの世界の人間なんだし後はどうにかするだろうと男をの場に置いて去った。 まさか、傷だらけのボロボロだったその男が実は身分がある男だとか、助けた俺を迎えに来るとか俺に求愛するとか、考えるわけない。それこそラノベか。 つーか、迷惑。あっち行け。 R18シーンには※マークを入れます。 なろうさんにも掲載しております https://novel18.syosetu.com/n1585hb/

処理中です...