上 下
91 / 219
間章 ロワクレスとシュンの一日

初めてのデート その二

しおりを挟む
《シュン視点》

 ロワクレスに訓練場に横にある備品室に連れて行ってもらった。訓練用の様々な武器が並んでいて壮観だ。中には鋭い刃のままの武器もあり、実戦そのままの訓練も行うらしい。
 予備の防具もいろいろな種類がある。基本、防具は自分の物を使うのだろうが、こういう用意はさすがに行き届いている。

 体重の軽い俺は一番軽量の革の鎧を選んだ。正直、サイズがなくて困った。一番小さいものを手に取ったが、それでも大きい。
 ロワクレスがそれを見てさっと横を向いた。
 笑いを堪えているのが丸わかりなんだが。肩が揺れてるぞ。きっと、子供用なんだろうなと、ため息をつく。

 元の世界でもそれほど高い方じゃなかった俺の身長はこの世界では十二、三歳ほどのものでしかないって、散々実感してるから! いいんだ! 気になんかしていないさ。気にしたってしかたないんだから。でも、もう少し伸びないかなあって希望だけは捨ててないんだぞ!


 数ある武器の中から木製の投擲用ナイフを選ぶ。それを六本、鎧のベルトに左右に分けて仕込んだ。それから短剣を一本、腰に差す。屋敷のウルノスさんに教えてもらった技術を試すいい機会だ。

「ウルノスか?」

 ロワクレスが俺の武器を見て訊いてきた。俺が頷くと、自身は大振りの木製の剣を振って手の馴染を確かめながら笑った。

「なかなかやると聞いている。楽しみだな。手加減はいらんぞ。訓練に怪我は当然だし、ロド治療師もいるからな」
「ロワも手加減無しな。俺が怪我したら、ロワが治してくれるんだろ?」

 どうせなら、全力でやってみたい。その気持ちが伝わったのだろう。ロワクレスはにやっととても男臭い笑みをみせた。

「覚悟しとけよ」

 惚れ惚れするほど、やっぱりロワクレスはいい男だ。俺もロワみたいにかっこいい男になりたかったな。今からでもなれるかな。



 小スペースの訓練場で対峙する。小といっても、かなりの広さだ。屋根の付いた回廊が隔てる向こうには大きな広い訓練場が柱越しに見えた。
 訓練場は騎馬での模擬戦闘ができる馬鹿でかい規模から、数隊での乱闘、一隊での訓練など規模に応じていくつかの訓練場が設置されている。実に充実している。

 今、いるところは一番小さな、個人戦向けの訓練場だった。それでもステーションターミナルほどはありそうだ。魔放や魔術が展開されることもあるので広い面積を確保しているらしい。

 俺たちはその中央に少し離れて向かい合って立ち、周囲を囲む回廊や建物の窓からは隊員たちが鈴なりになって見学している。
 自分たちの訓練やれよ、と思うが、監督するブルナグムも一等席で眺めていた。

「行くよ!」
「来い!」

 こうして俺たちの記念すべき初デートが開始された。


 木剣を斜め前に自然体で悠然と流すロワクレスに、先手必勝とばかりに土を蹴って距離を一気に詰めた。
 ロワクレスと俺では戦闘技能の格が違うというのは判っている。だから、俺も遠慮なしに全力で行く。きっとそれでも敵わない。だから、どこまで肉薄できるかが俺の勝負だ。


 胸を狙った短剣の一撃は果たして木剣で軽く止められ、返す剣ではね飛ばされる勢いを使って高くジャンプ。宙をバック転しながらナイフを三本撃ち込む。
 地面に足が付いたところを、ナイフを全て払い落したロワクレスの剣が追撃してきた。これを短剣で辛うじて受ける。

 カシーンっと木ではあり得ないような高い音が響いた。
 重い。
 一撃の重さに手がびりびり痺れる。

 両手で押さえ、短剣ごと投げるようにして跳ね除けると、ロワクレスの身体をすり抜けて背後に回った。
 駆けながら、残り三本のナイフも背を狙って続けて投擲する。

 剣の返しの遅れを読んでの攻撃だったが、ロワクレスはそれより早く木剣で悉くを弾き飛ばした。
 向きを変えながら、ナイフを目視する前に払っている。
 熟練による反射的な技だ。

「うわ。これ防がれちゃったら、攻撃しようがないよ」
「いや、なかなかのものだったぞ。私もひやっとした。シュンは動きがいいな」

 ロワクレスは余裕で立ち、癖なのだろう木剣で空気を切るように払ってだらりと下に向けた。
 俺はわくわく感が止まらない。

「ね、ロワ。テレキネシス使っていいかな? ロワは魔放使ってみて? テレキネシスでどのくらい魔放を止められるか試してみたい」

 魔力とか魔法は正直判らないが、魔放の形で打ち出されるものは実在するエネルギーだ。それが炎であれ、ウインドカッターのような圧縮空気であれ、雷であれ、物理的な力だった。それなら、テレキネシスで扱えるかもしれない。

 実際、セネルスで放ったロワクレスの魔放の軌道を曲げることができたはず。だが、あまりに咄嗟で余裕がなかったので、どれほどできたのかよく判らなかった。それを検証したい。

 ロワクレスがブルナグムを呼んだ。ブルナグムが走り去る。

「結界を張れる魔術師が来るまで、休憩しよう」

 周囲を見回し、なるほどと頷いた。ロワクレスの魔放ではどんな被害が出るかわからないものな。



 騎士隊の食堂に移動しようとしたら、隊員たちが談話室のような部屋へ連れてきてくれた。訓練場の横の建物の一階にあり、控室や休憩室のように使われているらしい。

 ささっと椅子とテーブルがセッティングされ、ロワクレスと角座りに落ち着くと、熱い茶が入ったカップが置かれる。食堂で用意したのかくすねたのか、焼き菓子の入った菓子鉢も現れた。

「あ、どうも?」

 手品のようにたちまち『お菓子でお茶』の用意が整うと、隊員たちの姿が消える。部屋にはロワクレスと二人だけになった。
 これって、お茶しましょう、のデート設定?

「み、みんな、気が利くね?」

 改まると妙に恥ずかしくなって困ってしまう。

「そうか?」

 ロワクレスは気にならないのか、普通にお茶を飲んでいる。ただ、俺と二人ってところで、機嫌はとても良さそうだ。

「驚いたよ。シュンは思った以上に強いんだな。動きが違う。ウルノスが褒めるわけだ」
「戦闘用に訓練されてきたからね。でも、やっぱりロワには敵わない。基本的な能力が桁違いなんだな。そもそも俺は、直接的な戦闘よりも工作・諜報向けに特化された訓練だったし。ロワのような剣の強さとか憧れるなあ」

 対戦してみて、改めてロワクレスの強さを実感したよ。
 ロワクレスがちょっと照れながら嬉しそうに微笑み、そんな彼をうっとりと眺めて幸せを噛みしめる。ほわわんとした雰囲気にぽよよんと浸っていた。
 お、ちょっとデートっぽくないか?

「隊長! 連れて来たっすよ!」

 ぶっとお茶を吹きそうになる。いい雰囲気を割れ鐘のような声が吹き飛ばしてくれた。

「ブ、ブルナグム、もうちっとゆっくり走ってくれ! 年よりなんじゃぞ!」

 ブルナグムに引っ張られて、ぜーはーと息を切らせ足をもつらせて走ってきたのは髪も白くなったリーベック老師だった。御年七十二歳の魔術師統括協会のトップの人物である。

「リーベック老師?」
「リーベック協会長?」

 口々に驚いて名を呼んだ。
 冬の季節に拘わらず吹き出している汗をハンカチで拭いながら、リーベック老師は忙しい息の下から咎めるような声を出した。

「何をしておる? ほれ、始めんか」
「あ、あの? 老師自ら結界を張ってくれるのですか?」
「だから来たんじゃろうが。わしでは不満か?」
「いえ、そういうわけでは。お忙しい身なのにお手を煩わせては申し訳ないと。ブル、他にいなかったのか?」

 ロワクレスの質問にブルナグムが困ったように答えた。

「ちょうどローファートがいたっすがね。話を聞いてローファートがじゃあ行こうかと立上がったところを、リーベック老師が足でローファートをすッ転ばして……」
「あいつが勝手に転んだのだ。そそっかしい奴だからの」

「早く行こうと急かされて廊下に出ると、外から鍵閉めて……」
「最近は物騒じゃからな」
「あとは、もう、急げ急げと、手を引っ張れとか、速く走れとか……」

 はい、ご自分で急いで息切らせているんですね……。

「訓練場でロワクレスが魔放を撃つと聞いたのでな。何しろロワクレスじゃからな。シュン君の異能とかじゃなくてな。危険じゃから、しっかりした結界が必要だと思ったからで、異能を見たいとか検証したいとかじゃ、なくてでな……」

 すごくキラキラした目でワクワクと興奮しているのがひしひしと伝わってくる。高齢になり魔術師の第一人者として人々に尊敬される立場であるが、未だその心は少年の輝きを失っていないのだ。むしろ少年のままなのか?

「いいです。どうぞ、じっくりと観察してください。今回、俺はテレキネシスが魔放に対しどのように働くかを試そうと思っています。リーベック協会長のご意見もいただければありがたいです」

 実際、魔力を見ることができる側で観察した考証は貴重なものになるだろう。

「おお! そうか! そうじゃろう! テレキネシスな。確か手を触れないでも物を動かす力だったな。ほれ、何をのんびりしておる。さっさと支度して、始めてくれ」

 リーベック会長がせかせかと急き立てる。俺たちはお茶の残りを急いで飲み干して席を立った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

聖女じゃないのに召喚された俺が、執着溺愛系スパダリに翻弄される話

月湖
BL
会社員の都築遥(つづきはるか)は、階段から落ちた女子社員を助けようとした。 その瞬間足元の床が光り、気付けば見知らぬ場所に。 夢で?会ったカミサマ曰く、俺は手違いで地球に生まれてしまった聖女の召還に巻き込まれて異世界に転移してしまったらしい。 目覚めた場所は森の中。 一人でどうしろっていうんだ。 え?関係ない俺を巻き込んだ詫びに色々サービスしてやる? いや、そんなのいらないから今すぐ俺を元居た場所に帰らせろよ。 ほっぽり出された森で確認したのはチート的な魔法の力。 これ絶対やりすぎだろうと言うほどの魔力に自分でビビりながらも使い方を練習し、さすがに人恋しくなって街を目指せば、途中で魔獣にやられたのか死にかけの男に出会ってしまう。 聖女を助けてうっかりこの世界に来てしまった時のことが思わず頭を過ぎるが、見つけてしまったものを放置して死なれても寝覚めが悪いと男の傷を癒し、治した後は俺と違ってこの世界の人間なんだし後はどうにかするだろうと男をの場に置いて去った。 まさか、傷だらけのボロボロだったその男が実は身分がある男だとか、助けた俺を迎えに来るとか俺に求愛するとか、考えるわけない。それこそラノベか。 つーか、迷惑。あっち行け。 R18シーンには※マークを入れます。 なろうさんにも掲載しております https://novel18.syosetu.com/n1585hb/

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...