魔法犯罪の真実

水山 蓮司

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第2章 血の追求者

2-03:上に立つ者としての責任

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 千葉県新豊寺しんほうじ
 東京都心のようなビルや住宅地がゴチャゴチャと並んでいることなく比較的自然の中に恵まれて空気も透き通っていて住み心地が良さそうな環境である。
 その土地に訪れ、鉄茂はある人物に直接依頼をしていた。
「――そういうわけでもし万が一のことが起きても対応出来るように手を打っておきたいと考えて直接お伺いさせていただきました」
 やや深く頭を下げ要件を伝える。
「頭を上げてください馬堂さん。私のような者にそこまでされなくても。それにこうして直接お会いせずともリモートでもよかったと思うのですが…」
 向き合えばただ者ではないことは一目でわかる和服の女性が戸惑いながら鉄茂を宥める。
「仰ることはごもっとも。しかしことの大小問わず人に依頼をする時、重要なことは尚更、直接会って話すことが道理だというのが私の持論でして。こうしてお話させていただきました」
 鉄茂の考えを受けて整理する和服の女性である。
 これまで話をされてきたことをおさらいする。
「お話が戻って悪いのですが改めて大変な事件でしたね」
「廃棄工場を潰し回っていた容疑者の背景に権藤が絡んでいたことですか?」
「ええ」
 鉄茂が確認をとると和服の女性は短くそう返答する。
 そのことについて思うことを率直に伝える。
「私もまさか権藤が絡んでいたことに今もどう整理すればいいかわからず情けないばかりです」
「そんな、ご自分を責めないでくださいな。メンバーの方々や馬堂さんを支える上層部の方々もきっと温度差はあれ自分たちに足りないものや今後自分に必要な要素を考えているのだと思いますよ」
「そう言っていただけると助かります」
 和服の女性の言葉に鉄茂は救われる。
 現状の達人は特別監獄室にて厳重に閉じ込められている。
 その場所に閉じ込められている限り魔法はもちろん、あらゆる武器などを防ぎ切れるだけの強度な結界が施されている。
 裁判にかけられて自分のやってきた行為を全面的に認めてはいるが、若弥の居場所や考えていることについては黙秘している。
 しかし「私が話すより時間が経てばきっと、彼の方から動くのでは?」という主張をしていた。
「また話が変わりますが今回の話題について上層部の方々にお話しされたことはありますか?」
 厳しいところを突かれたと思い即座に答えることが出来ず少し間を空けて答える。
「率直なところ、村富警視監に話を持ち込みましたが私には至らないところが多く到底務められませんと言われ、岩方君や神城さんにも言ってみましたが反応の違いはあれど、自分たちも村富警視監と同意見ですと返されました」
「そうでしたか…。私が組織にいて、お三方の気持ちと立場を考えればきっと私もそう答えていたでしょう。でも…。」
「でも?」
 和服の女性は姿勢を直して改めて鉄茂に向き合い思いを伝える。
「こんな私でも馬堂さんほどの手腕や技量に至らないところがあるかもしれませんが、やれるようであれば検討しようと考えています」
「本当ですか⁉」
「はい」
 断られるであろうという前提で構えていた鉄茂にとって良い返答だった。
「ただし、厳しい言い方になりますが馬堂さんがこれ以上自分の職務を全う出来ない限りは私の出る場面ではないと存じ上げます」
「もちろんその考えのもとで構いません。私も自分の出来る最大限のところまで務めていきたいと考えていますので」
 互いの意見を尊重して話を進めてその最後に鉄茂がこう切り出す。
「ここまで総じて今回の権藤が出現したことによってこれから先どうなっていくのか、その考えをお伺いしてよろしいですか?」
 和服の女性は目を瞑り考えて、整理して話を始める。
「難しいですね。相手が相手なだけに出方がわからない以上、こちらから下手に動けば足を掬われ、動かなければ相手に攻められる、馬堂さんのことですからあらゆる考えを持って対処しようと臨んでいらっしゃるでしょう」
「大前提としてはそうですね。ため万全の状態でかかることを念頭に置いていますよ」
 一部分含みのある言い方をしているように思えた和服の女性は追求せずそれを含めて自分の考えを述べる。
「馬堂さんのお気持ちはわかりました。しかし言葉を返すようで申し訳ありませんが、その考えも通用しない時が訪れます」
「自分でもわかっています。有利不利の状況どちらに転んでも動くだけのことがどれほど厳しいのか」
 和服の女性が放った言葉が厳しかったのか言葉を詰まらせ返す鉄茂だがそこに、
「ではこういうのはどうでしょうか?有利の状況に持ち込めないとわかっている相手に遭遇した場合、あえて不利な立場に立つことはもちろん、相手の土俵で臨んでいくことこそ最大の活路だと」
「それは!――」
 その先の言葉を言い放つ前に和服の女性が右手で待ったをかけるように遮り話を続ける。
「もちろんあくまで私個人の意見です。それは馬堂さんでなくても危険なことだというのは自明の理です。他の方でもこれを聞いて賛成される方は余程の方でない限りいないでしょう」
 まずは自分の考えを述べた上で次に自分の経験をもとに話を切り出す。
「確かに人は有利な立場、余裕を持って自分のペースで物事に臨んでいきたいというのが本能です。しかし生きている方々全てがその立場には立てないというのが現実です。私に言われずとも馬堂さん自身その目で嫌というほど見てきたはずです。そこで不利な立場や迫られた立場の人だからこそ試されて乗り越えた時に考え改めさせらえる自分の持つ常識を」
 放たれてきた言葉は年数以上に鋭く濃いものが刺さる。
 自分とはハッキリと違う生き方や物の見方や考え方までも別格であった。
「とまあ申し上げましたが当然、皆さんが納得するとは思えないし、理解出来ないと考える方がいてもおかしくないことなので。後は個人でどう捉えるかは自由です」
 冗談っぽく言ってみせると複雑な心境ではあるが自分の至らなさを含め鉄茂が口を開く。
「やはり本日お伺い出来て良かったです。自分にとって足りなかったものが補えたことはもちろん、改めて気付かされたことが認識出来て勉強になりました」
 頭を下げて言うと先ほどと同じく優しく宥める。
「そう何度も頭を下げなくていいですよ。それに今申し上げた方法が相手にとって精神的ダメージが大きく言い訳も出来ないというのが個人的な考えで中には自分のペースに巻き込んで相手を懲らしめたいと考える方もいますので、大したことは申していませんよ」
「それでもなかなかその考えをされる方なんて滅多にいませんよ。温度差や距離感が感じられるかもしれませんが、きっとメンバーや上層部は貴女のような人が上に立っていただけると助かるんじゃないかと思いますよ」
「それは先ほど申し上げた条件ということでまだ決定にもなっていないですし検討中ですよ」
 フフッと笑い鉄茂の言葉をやんわりと躱した。
「そうでしたね。つい先走ってしまって。時間も良い感じなので本日はこのあたりとしましょうか」
「そうですね。玄関までお送りします」
「ご丁寧に」
 両者立ち上がって礼をして玄関まで向かう。
 廊下や他の室内も品があり心落ち着く環境である。
 澄んだ空気が流れているので住んでしまえば他の地域に住めなくなりそうな場所だというのが顕著である。
「では今回の件ゆっくりで構いません。ご検討お願いします」
「はい、確かに承りました。ですがくれぐれも無理なさらないように気をつけてください」
「痛み入ります。では」
 そう言って鉄茂はその場を後にした。
 今後の捜査方針、和服の女性から言われたことをもとに先々のことを整理して最大限出来ることをしようと考える鉄茂である。
「私も少しずつ腹をくくるとしますか。懐かしい感覚ですね」
 鉄茂が去った後、1人口元をニコッとして言う和服の女性であった。
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