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回想【side.エリック】
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しおりを挟む「お前の望むような返事はできないと思うが、話を聞くだけならいつでも付き合ってやる」
「……エリック先生、そんな生徒想いの熱血教師じゃないでしょ。口も態度も悪くて、喫煙禁止の学校で隠れて煙草吸って、生徒の違反も『俺の知ったことじゃねぇ』みたいな顔で無視してるくせに。一体どんな心境の変化です?」
「世話を焼くつもりはねーよ。『悩み相談に乗る』なんて大層なことも言わん。断言しちまうと責任が伴うからな」
「……頼りがいがあるのかないのか」
「デケェ顔して全く役に立たないよりマシだろ」
「……さぁ、どうでしょうね」
「しんどくなったら俺の横に来て、テキトーに愚痴でもこぼせ。腹ん中で『自分はゴミだ』なんて考え込むだけより健全だからな」
「……気が向いたらそうします」
貼り付けたような笑みを浮かべ、パスカルは校舎の方へと歩いていった。
今回の件であいつが俺のことをどう思ったか――やはり信頼できないと感じたのか、愚痴をこぼしに来るのか。
分からぬまま一週間が経過し、再び火曜の三時限目。煙草休憩を取るため、職員室を抜けてこっそり屋上へ向かった。既に授業が始まってから二十分近く経っている。
重々しい扉を押し開けて青空の下へ出ると、正面に人の背中が見えた。フェンスの傍に立っていたパスカルが振り返る。「どうも」と軽く右手を挙げた奴の元へ歩み寄った。
「俺を待ってたのか?」
「この時間授業してないのは先週分かったので。煙草吸いに来るかなと思ったんです」
「お前もまたサボりか」
「これからは毎週ここに来ようかなって」
「毎週?」
「テキトーに愚痴をこぼしていいんでしょう? 火曜日の三時限目、エリック先生と一緒にサボります」
「それが教師に言うセリフかよ」
「ダメですか?」
「……絶対誰にもバラすんじゃねーぞ」
「分かってますよ」
何が変わるわけじゃない。俺の煙草休憩、という名のサボりに生徒が一人加わるだけだ。不真面目同士秘密を共有するということで。
「毒親の愚痴を聞かせるばかりじゃ申し訳ないので、俺も少しくらい聞き役になってあげますね」
「特に相談事はないから、代わりにソシャゲダウンロードしてくれねーか? 友達紹介キャンペーン中で、一人招待するごとに五百円分のガチャ石もらえるんだ」
「えー、その目的で『俺の横に来い』とか言ったんですか? 最低。見損ないました」
「ちげーよ! このキャンペーンは昨日から始まったモンだ!」
「でも先週の時点でキャンペーンの告知が出ていたら、その後俺が来たときに頼めますよね。『良い教師アピールしてガチャ回そうなんて魂胆じゃなかった』という証明にはならないと思いますけど?」
パスカルはぐいっと俺に顔を寄せてきた。濃厚なブラウンの瞳に自分が映り込んで見える。唐突に近付いた距離に戸惑った。
「な、何だ」
「嘘をついている人間の眼かどうか観察」
「……嘘なんかついてねーよ」
「泳いでますねぇ」
「いきなり距離を詰められたら誰でも動揺するだろ!」
身を引きながら言うと、パスカルは「あははっ」と無邪気な笑い声を上げた。
この様子を見る限り本気で「最低」とか「見損なった」とか思っているわけでなく、俺をおちょくって遊んでいるだけだろう。しょっちゅう絡まれているノアの苛立ちがよく分かった。
「言っとくが、紹介キャンペーンは昨日から予告なしで始まったモンだからな。事前に知ってたとしても、たかが五百円のために良い教師を演じるなんて回りくどいことしねーよ」
「その〝たかが五百円〟を今まさにお願いしたくせに。セコイ人」
「……チッ。お前ホント面倒クセェな」
「カタリナ高校の厄介者ですから。――まぁいいですよ、暇なので付き合ってあげます。なんてゲームですか?」
パスカルはズボンのポケットからスマホを取り出した。その顔には透き通るような瑞々しい笑みが浮かんでいる。
こいつは俺を信じ、屋上へと足を運んでくれたのだ。
この期待を裏切らないように。
俺たちのサボりタイムは始まった。
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