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(中)日常12【side.タケル】――気付きの時
※
しおりを挟むエリック先生に言えない部分、伏せておかなければならない部分は伏せ、当時の出来事を語り終えた。食事しながら聞いていた彼は、映画を見たあとのように感慨深そうな表情で頷いている。
「喧嘩騒動、懐かしいな。ノアはあの件にほとんど触れなかったが」
「おそらくエリック先生に気を遣ったのでしょう」
「あいつ、中二のときも自分よりデカイ奴と喧嘩して帰ってきたんだよな。そのときは相手から掴み掛かってきたらしいが、やっぱいきなり手ェ出すのは卑怯だ。『正々堂々タイマン申し込んで、決戦の場を整えてからかかれ』と言い聞かせてきたが――」
「暴力を教唆しているじゃないですか! あなたそれでも教師ですか!?」
「大袈裟な奴だな。コマケーことは気にすんな」
「……ノアに限らず、生徒に馬鹿なことを吹き込まないでくださいよ?」
「分かってる。しかしまさか、あの出来事がタケルの〝気付き〟になっていたとは」
この話はノアにもしていない。エリック先生を侮辱された出来事など、あの子は思い出したくないだろう。不快な気持ちになると分かっている話を今更掘り返したくない。だから昨日も話題を広げることはしなかった。
「タケルがノアの生い立ちを知り、気に掛けるようになり、いつの間にか無意識で好意を抱き。『一番大切な人だったら』という問いかけで、頭に浮かんだのはノアだった――なんかロマンチックだな」
「そんな美しいものではありません。あの日から僕は『生徒を愛してはいけない』、『絶対に赦されない』と心の中で繰り返すことになったのですから。本当に辛かったんです」
「どんなに言い聞かせようとしたって心は変えられないぜ? 誰かに惚れるってのはそういうことなんだと、俺は身を持って学んだ。愛に嘘はつけねーんだよ」
……エリック先生はやはり気障だ。
しかし男前で様になる。
パスカルがエリック先生を選んだことにも納得だ。
パスカルは同性愛者なのか、それともエリック先生と同じなのか、はたまた僕と同じか――踏み込んでいいものか分からず訊ねたことはないが、どんな立場であろうと二人が幸せならそれでいいだろう。
「ノアがタケルを好きになる前の会話を覚えていたように、俺にも忘れられない会話ってのはあるな」
「パスカルとの間に?」
「あぁ。あいつを好きになる前、ちょっと険悪なムードになったことがあってな。それを機にサボり仲間としての関係が始まったようなモンだ」
「サボり仲間というのは許容しがたい関係ですが、どのようなやり取りがあったのかは気になりますね。次はエリック先生がお話してくれます?」
「あーっと……他言できない部分が多そうなんだよな。伏せ字だらけの勿体ぶったイニシャルトークみたいになっちまいそうだが、それでもいいか?」
「もちろん無理強いはしませんから。お話しできる範囲で大丈夫です」
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