上 下
135 / 160
(中)日常12【side.タケル】――気付きの時

しおりを挟む







 エリック先生に言えない部分、伏せておかなければならない部分は伏せ、当時の出来事を語り終えた。食事しながら聞いていた彼は、映画を見たあとのように感慨深そうな表情で頷いている。

「喧嘩騒動、懐かしいな。ノアはあの件にほとんど触れなかったが」

「おそらくエリック先生に気を遣ったのでしょう」

「あいつ、中二のときも自分よりデカイ奴と喧嘩して帰ってきたんだよな。そのときは相手から掴み掛かってきたらしいが、やっぱいきなり手ェ出すのは卑怯だ。『正々堂々タイマン申し込んで、決戦の場を整えてからかかれ』と言い聞かせてきたが――」

「暴力を教唆きょうさしているじゃないですか! あなたそれでも教師ですか!?」

「大袈裟な奴だな。コマケーことは気にすんな」

「……ノアに限らず、生徒に馬鹿なことを吹き込まないでくださいよ?」

「分かってる。しかしまさか、あの出来事がタケルの〝気付き〟になっていたとは」

 この話はノアにもしていない。エリック先生を侮辱された出来事など、あの子は思い出したくないだろう。不快な気持ちになると分かっている話を今更掘り返したくない。だから昨日も話題を広げることはしなかった。

「タケルがノアの生い立ちを知り、気に掛けるようになり、いつの間にか無意識で好意を抱き。『一番大切な人だったら』という問いかけで、頭に浮かんだのはノアだった――なんかロマンチックだな」

「そんな美しいものではありません。あの日から僕は『生徒を愛してはいけない』、『絶対に赦されない』と心の中で繰り返すことになったのですから。本当に辛かったんです」

「どんなに言い聞かせようとしたって心は変えられないぜ? 誰かに惚れるってのはそういうことなんだと、俺は身を持って学んだ。愛に嘘はつけねーんだよ」

 ……エリック先生はやはり気障きざだ。
 しかし男前でさまになる。
 パスカルがエリック先生を選んだことにも納得だ。

 パスカルは同性愛者なのか、それともエリック先生と同じなのか、はたまた僕と同じか――踏み込んでいいものか分からず訊ねたことはないが、どんな立場であろうと二人が幸せならそれでいいだろう。

「ノアがタケルを好きになる前の会話を覚えていたように、俺にも忘れられない会話ってのはあるな」

「パスカルとの間に?」

「あぁ。あいつを好きになる前、ちょっと険悪なムードになったことがあってな。それを機にサボり仲間としての関係が始まったようなモンだ」

「サボり仲間というのは許容しがたい関係ですが、どのようなやり取りがあったのかは気になりますね。次はエリック先生がお話してくれます?」

「あーっと……他言できない部分が多そうなんだよな。伏せ字だらけの勿体ぶったイニシャルトークみたいになっちまいそうだが、それでもいいか?」

「もちろん無理強いはしませんから。お話しできる範囲で大丈夫です」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

特別じゃない贈り物

高菜あやめ
BL
【不器用なイケメン隊長×強がり日雇い苦労人】城下町の食堂で働くセディにとって、治安部隊の隊長アーベルは鬼門だ。しょっちゅう職場にやってきては人の働き方についてあれこれ口を出してお小言ばかり。放っておいて欲しいのに、厳しい口調にもかかわらず気づかうような響きもあって、完全に拒絶できないから困る……互いに素直になれない二人のじれじれストーリーです

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...