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日常10【side.タケル】――特別な日
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しおりを挟む一月十一日。
ノアの誕生日。
六時限目まで授業、その後は職員室で仕事をこなさなければならないが。今夜はノアの家へお邪魔する約束をしている。誕生日プレゼントを渡すためだ。
先週電話で確認した際、ノアは『オレがタケルの家に行く』と言ったのだが。僕の帰宅時間が曖昧なこと、翌日も学校があるのに夜間外出させたくないという思いもあり、僕が伺うことにした。
となれば当然、エリック先生にも話を通す必要がある。
祝いの言葉を伝える時間さえいただければいいと思っていたが、エリック先生は「来るならメシ食って行けよ。その方がノアも喜ぶ」と言ってくれた。
僕より先に勤務を終えたエリック先生が職員室を出ていく。去り際に小さな付箋を渡された。《メシの支度は任せろ》と書いてある。僕もできる限り早くキリをつけなければ。
業務終了し帰り支度を整えた頃、時刻は午後七時半を回っていた。
急いで車へと向かい、運転席に乗り込んだところでスマホを取り出す。ノアに発信すると、コール音を聞く間もなく応答があった。
「遅くなってすまない。時間も時間だから食事を始めていてくれ」
『別にいいよ。夕方にお菓子食べてたから平気』
「これから学校を出る。エリック先生にもよろしく伝えてほしい」
『分かった』と言って電話を切ろうとしたノアを呼び止める。一番大切なことをまだ伝えられていない。
「ノア、十八歳の誕生日おめでとう」
『え……それはあとで会ったときに直接言ってくれればよかったのに』
「もうすぐ今日という日が終わってしまうから。少しでも早く伝えたかった」
『……ありがと』
声色は普段と変わらない。
ノアは今、笑ってくれているだろうか。
電話を切ると、ノアたちの自宅に向けて車を走らせた。彼らの家の前には駐車スペースが二台分ある。
エリック先生の車の隣に駐車し、プレゼントや手土産の入った紙袋を携え、インターフォンを鳴らした。出迎えてくれたのはジャージ姿のエリック先生。
「遅くなりました。お邪魔します」
「来てくれてサンキュな」
「こちらこそお招きいただいてありがとうございます。今日はエリック先生にも手土産を」
誘いを受けてからすぐ、地元の名産品をいくつか取り寄せた。エリック先生には普段からお世話になっているため、これを機にきちんとお礼しておきたかったというのもある。紙袋をひとつ手渡した。
「こちらは味噌煮込みうどんセットです。乾麺タイプなのでいつでも好きなときに召し上がっていただけます」
「気ィ遣わなくてよかったのに。ワリィな」
「麺類はお好きで?」
「あぁ。ラーメンからパスタまで何でも来いだ」
「ではこちらもどうぞ。辛いものが好きな方にお勧めの台湾ラーメン。辛いものが苦手な方のためにきしめんも用意させていただきました」
ひとつ、さらにもうひとつ、紙袋を差し出す。エリック先生は何故か呆気に取られたような表情で受け取った。
「麺と一緒に手羽先もいかがです? レンジでチンするだけで食べられる小分けのパックなので便利ですよ。それから――」
「いやお前、通販番組かよ! 一体どんだけ持ってきたんだ。ノアへのプレゼントにしては妙に大荷物だなと思ったが」
「エリック先生が何を好むか分かりませんでしたので、自分が気に入っている手土産を片っ端から集めました」
「お前って奴は……。これじゃ誰の誕生日か分からんな」
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