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日常8【side.ノア】――過去との決別
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しおりを挟む高校生活最後の冬休みが始まった。
今年の終わりも近いんだなと実感する季節。
肌を刺す冷たい風。
カラフルな電飾で煌めく街路樹の道。
夕刻の市街を歩きながら、アニキに借りたコートの襟を立てた。大人っぽく見せたくて羽織ってみたものの、やはりサイズが合っていない。肩幅は広くて、丈は長くて……でも温かい。
十二月下旬から一月上旬にかけて賑わう街。クリスマスに年末年始、イベントが盛りだくさん――多くの人にとって楽しい時期だろう。
幸せそうに談笑する家族連れ。
父親に抱っこをせがむ子供。
母親の手を引いてはしゃぐ子供。
どこもかしこも笑顔に満ち溢れ、キラキラと輝いている。
視界に入れるのが辛い。
華やかな年の瀬ムードは毎年、否応なしにガキの頃を思い出して憂鬱になる。
顔も名前も知らない父親。
彼氏をとっかえひっかえしてネグレクトの母親。
オレを押し付け合う祖父母や親戚たち。
邪魔者扱いされていた日々。
学校から帰るのが苦痛で。
もちろん楽しいクリスマスやお正月なんて一度も経験した記憶がなくて……。
誰も信用できない。
周囲の人々に憎しみを抱く反面、「甘えてみたい」「必要とされてみたい」「褒められてみたい」という願望もあった。その全てを叶えてくれたのがアニキだ。
オレには兄がいる。
それでもきらびやかな街から目を背けたくなるのはきっと――。
――直後、背後に衝撃が走った。
何事かと思い振り返る。
五歳くらいの女の子が、両腕に抱えるほど大きな猫のぬいぐるみを落としていた。それを拾いながら、いかにも「ヤバイ」という表情でオレを見上げる。
大きなぬいぐるみを抱えていたせいで視界が遮られ、オレにぶつかってきたのだろう。少し腰をかがめて「大丈夫?」と訊ねると、少女の表情が和らいだ。
女の子の後ろから父親らしき男性が駆けてくる。彼はオレに会釈し、少女の頭に手を乗せた。
「お兄ちゃんに謝りなさい」
「パパまちがえてるよ? パパみたいなコート着てるけど、おにいちゃんじゃなくておねえちゃん」
無邪気な娘と、戸惑った様子の父親。オレは「立派なお兄ちゃんだぞ?」と、普段より低めの声を意識して返した。「えー!?」という女の子の絶叫が切ない。父親は娘の手を握り、再度頭を下げた。
「ごめんね。娘が失礼なことを言って」
「大丈夫っすよ。女の子もぬいぐるみも無事でよかったっす」
「お気遣いありがとう。それじゃあ」
手を繋いだ父子が去っていく。「ママみたいにかわいいおにいちゃんだったね!」「カッコイイお兄ちゃんだろ?」という会話が聞こえてきた。
きっとあの父親は、オレが男として格好つけたいのだと察してくれたんだ。
……羨ましい。
オレもあんなふうに〝普通〟の家庭に生まれてみたかった。
〝自分を愛してくれる両親〟というものをオレは知らない。生を受けた者には必ず存在すると思い込んでいたものが、オレには最初から存在しなかった。
どうしようもない劣等感。
払い落としたくて首を横に振ったが、消えてはくれない。
以前、こうした暗い感情を克服できないかと調べたことがある。そこで辿り着いた言葉が〝愛着障害〟――幼少期に保護者との愛着形成が上手くいかなかったことで起こるものらしい。
甘えるのが極端に下手なタイプ、逆に初対面の人にでもベタベタ甘えてしまうタイプ、なんて分類もあるようだが。
思い返してみると。
歩道橋から飛び降りようとしていたオレに声を掛けてきたアニキ。最初は暴言を吐いて追い払おうとした。
でも。
少し会話をして、頭を撫でてもらったあと。
オレは「兄ちゃんと一緒に暮らす」と言い張って、アニキの腕を離さず。困り顔のアニキと対照的に、自分はずっと笑っていたように思う。しがみついて家までついて行って、本当に迷惑なガキだった。
もちろんこれだけで愛着障害と断定するつもりはないが。両親に愛されて育った子供と自分の心には、大きな隔たりがあるような気がしてならない。
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