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日常6【side.エリック】――〝友人〟

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 栄養ドリンクで気合を入れつつ学校へ向かい、朝の職員室に入る。自分の席でビジネスバッグを下ろした直後、隣のデスクからタケルに声を掛けられた。奴の顔色は冴えない。

「エリック先生、仕事が終わってから少々お時間いただけませんか」

「どうした。顔だけじゃなく声にも元気がねーな」

「いえ、実はその……」

 タケルは自分のデスクからメモ帳を取り、そこに文字を記して渡してきた。《ノアのことで相談が》とある。喧嘩でもしたのだろうか。

 しかし昨夜も今朝も、ノアの様子に変化はなかった。あいつの場合、タケルと喧嘩になれば愚痴のひとつでもこぼしそうなものだが……。

 どのみち無視するわけにはいかない。
「構わないぜ」と返した。


 職員室での退屈な朝礼後、三年一組の教室へ。俺が入室したときには既に、全員が席に着いていた。

 日直が号令を掛け挨拶。
 欠席者ゼロ。
 教卓の上でファイル型のバインダーを広げた。

「今日は三時限目の世界史が自習に変更だ。どの先生が見張りに来るかは未定。各自受験に向けて苦手科目など対策するように。それから……」

 今朝学年主任から渡されたプリント。朝礼のときはまともに話を聞いておらず、何が書いてあるか確認すると――。

「本日は抜き打ちで身だしなみ・持ち物検査か」

 全ての学級で毎月行われていることだ。【全員起立させ、バッグは机の上。ひとりずつチェックして回る。良からぬ品を持っている奴からは没収。昼休みまたは放課後に呼び出し】というのが本来の流れ。

 ……しかし。
 教室内はしんと静まり返っており、誰ひとり動揺する素振りなど見せない。

「あーっと……ざっと見た感じ、常軌を逸したレベルの着崩し・ド派手なアクセサリーやメイクをしている奴はいないな。いつも身だしなみを整えている奴は把握してるから、きちんと評価して通知表に一言添えておく。妙なものを持ち込んでいる奴は見付からないよう気を付けろよ。ロリポップ咥えてる奴は授業前に片付けとけ。以上」

 俺は毎度この調子。
 教師陣からは疎まれているが、生徒からは絶大な支持を集めてきた。

 もちろん生徒からの人気を得るためにこんなやり方をしているわけではない。

 持ち物検査はさておき、身だしなみチェックに関してはやるだけ無駄としか思えない。今ここで整えさせたところで、俺が教室からいなくなれば全員、元に戻すと分かっているから。

 普段から丁寧に制服を着ている奴だけが馬鹿を見ないよう、その点は還元してやりたいと思っているが。


「つっても、俺だけさっさと職員室に戻ったら真面目にやってないとバレて面倒クセェな。時間潰しにちょっくら雑談でもするか」

 最近スーパーで遭遇した理不尽店員について愚痴交じりの話をしていると、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。教室前方のドアが開き、眉を吊り上げたタケルが突入してくる。

「エリック先生、何をしているんですか?」

「んだよお前。勝手に入ってくんな」

「ずいぶん楽しそうだったからです。抜き打ち検査中、何故賑やかな笑い声が聞こえるんですか?」

 タケルは教室を見渡した。

 こいつの脅威は俺のクラスの生徒も把握済み――慌ててシャツのボタンを留めたり、ネックレスや指輪を外したり、緩めたネクタイを直したり。バッグの中身を机の中に隠すせわしない奴もいる。違反事項がありながら一切動じていないのはパスカルだけだろう。


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