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日常2【side.タケル】――ツンデレ攻略法
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しおりを挟む仕方なくメール画面を開き、ノアから送られてきた文面をエリック先生に提示する。彼は声を上げて笑った。
「こりゃ『一分一秒でも長くタケルと一緒にいたい』って意味だ」
「……エリック先生のおっしゃるとおりだとすれば、〝面倒〟などというネガティブな単語を使います? 他にいくらでも表現はあると思いますが」
「お前国語教師だろ。文章から筆者の思惑を読み取るのは得意分野じゃねーのか?」
「文芸作品と一緒にされても困ります。メールの場合、要件が的確に伝わるよう最適な言葉を選択し――」
「んなこと言ってちゃツンデレは攻略できんぞ。ド直球で堅苦しいタケルと、ガキで素直じゃないノア……傍から見ている分には面白いがな。次はどんな喧嘩を繰り広げるか見物だ」
冗談じゃない。
僕はノアに笑ってほしいのだから。
不快な思いはさせたくない。
そして可能ならば……エリック先生に接するときと同じくらい、自分の前でも素を見せてほしい。
「ノアは不機嫌でも不快でもないと思うぜ? この素っ気ないメールを送信したあと、一人でニヤニヤしてたんじゃねーかな」
「……もしや『意地悪して相手の気を引こうとする』というような?」
「全然ちげーよ。『週末が楽しみすぎてニヤけちまう』って意味だ」
「そうですか……」
「ま、お前もそのうち分かるようになるだろ。念のため言っとくが『このメールは長く一緒にいたいという意味か?』なんて本人に確認するなよ? ブチギレ確定だからな」
……ツンデレというものは難しい。
+ + +
迎えた日曜、午前十時。
インターフォンが鳴った。
ノアは今日もエリック先生に車で送ってもらったとのこと。エリック先生はアパート前でノアを下ろし、その足で競馬場へ向かったそうだ。
玄関で靴を脱いだノアは、右手に提げていた紙袋を差し出してきた。
「これ、アニキがタケルに渡せって」
「……焼酎じゃないか」
「スーパーの福引きで当てたらしいんだけど、アニキは酒飲めないから要らないって。お前は好きなんだろ?」
「あぁ。ありがたく頂戴する」
紙袋に入った焼酎をキッチン台へ置き、ノアを室内へと促す。今日の彼は黒いダウンジャケットを羽織っていた。脱いだジャケットを受け取ってハンガーに掛ける。その作業の間ずっと、ノアは僕の真横に立っていた。
「いつまでも突っ立っていないで、適当に座ってくれていいぞ?」
「……」
「ここは学校じゃないんだ。細かな注意をするつもりはないから、気楽に振る舞ってくれていい。何か飲み物でも用意しようか」
「……なにもしねーの?」
ノアは不機嫌そうに眉を寄せ、パーカーの紐を指に巻き付けるようにしてもてあそんでいる。視線は横に流れていた。
「タケルが部屋に誘ったくせに……キスとか、なんにもなし?」
「……何もしないとは言っていない。だが家に上がってくれたばかりでそんな……心が欲しいと言いつつ結局身体目当てなのかと誤解されたくない。二人で会うたび抱くことばかり考えているわけではなく――」
「誤解なんかしねーよっ!」
「しかし――」
「いいから早くっ!」
ノアが僕の胸に飛び込んでくる。
彼を抱き止め、背中に腕を回した。
心臓が激しく高鳴る。
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