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16【side.エリック】――パスカル/灰
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しおりを挟むノアを送り届けたあと、再びパスカルの家へ向かった。奴の部屋で大方の事情を説明する。
「――ってなワケで、あいつらはもう心配ないだろう。お前にとっちゃバッドエンドだがな」
「別に、分かってたことだからいいよ。そんなことよりあんたに殴られた顔がまだ痛い」
パスカルはベッドの淵に腰掛け、大袈裟な仕草で頬をさすってみせた。俺は床に座って奴を見上げる――パスカルの綺麗な顔に傷はないが、さっきは口内を切って血を流させてしまった。
シャンプーの話を聞いたとき思わず拳を振り上げてしまったものの、教師が生徒に暴力を振るったなど、表沙汰になれば大問題だ。俺の方が《退職願》を書くことになる――いや、そんな暇もなくクビを突きつけられるか。
「ホントにもう、勘弁してよね。暴力不良教師さん?」
「……俺を訴えたければ訴えろ。お前の親父さんに言えばソッコー捕まる」
「そんなことしないよ。全ては俺の蒔いた種だって言ったでしょ?」
「……いや。今回の件とはまた別で、俺にも責任があった。ノアは俺を好いてくれていたが、それはある種〝依存心〟でもあったはず。俺の育て方に問題があったと思う。年齢より幼いあいつが精神的に自立できるよう、俺自身がきちんと学びつつフォローしていくべきだった」
「いろんなノウハウだけ頭に入れたところで、子育てが簡単になるとは思えないけどね。あんたはよくやってるよ」
「……どうだろうな。すっかり自信を無くしちまった」
ジャケットのポケットの中でスマホが震えている。取り出して確認すると、ノアからメールが来ていた。
「ノア、何だって?」
「《今日はタケルんちに泊まる》だとさ。あいつを送り届けた時点で想定はしていた」
「なんか俺たち、ハブられちゃった感じだね。寂しいなー」
「……」
「実際のところ、あんたはどう思ってるの?」
「何が?」
「ノアとタケル先生のこと。本当にくっ付けて良かったの? 邪魔することだってできたでしょ」
「相手がタケルで良かったとまでは言えねーが……。ノアが自分で選んだ相手だ、俺は何も言わず見守っていく」
「にしては顔が暗いね」
……そりゃそうだろ。
俺の好きな奴はお前だ。
こいつのせいでとんでもない目に遭ったのは事実だが、それでも気持ちは変えられない。パスカルの想い人も変えられない。
「ノアとも電話で喋ったんだけど、あんたの恋愛事情って聞いたことない。彼女作る気とかないの? 女子生徒からも女性教師からも大人気のイケメン先生なのに」
「俺は結婚願望が一切ないんだよな。両親のことがあって、ノアに励まされながら生きてきて……去年までは恋愛から遠ざかってた」
「引っ掛かる物言いだね。今年に入って何かあったの?」
「……本気で好きな奴ができちまった。お前と同じ、絶対に叶わない片想いだ」
「相手はカタリナ高校の人?」
「あぁ」
「そう聞くとますます気になっちゃうな。ノアには絶対黙っとくから教えてよ」
これも良い機会かもしれない。
自分の気持ちにケリをつけるために。
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