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8【side.ノア】――パスカル/黒

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 パスカルは掴んでいるオレの手を自らの下半身へと誘導した。

 ……反応している。
 こいつのことがまるで理解できない。
 パスカルから見たオレは、タケルを奪った憎き相手じゃないのかよ……。

「もしかしてお前、ヤれるなら誰でもいいのか?」

「そんなわけないでしょ。好きな人か、それが無理ならキミみたいに可愛い男の子が好み。嗜虐しぎゃく心を煽られるよね」

「お前、男が好きだったんだ」

「キミはエリックのことが好きでしょ」

「な、なんでお前にもバレてんだよっ!」

「キミの顔に書いてあった」

「そんなわけないだろっ!」

「キミはエリックが特別なだけで、男が好きなわけじゃないもんね。俺みたいな奴、変とか気持ち悪いってのが本音でしょ?」

「そんなこと思うわけないじゃん」

「……なにそれ。自分が襲われても当たり前みたいな顔して即答できちゃうんだ」

「それとこれとは話が別だろ!? 無理やりヤろうとしてきたら男女関係なくキレるに決まってんじゃん!」

嘲笑あざわらってくれるくらいがちょうどよかったのに……ホント真っ白すぎて嫌になっちゃう。キミも少しくらい黒くなりなよ」


 ソファに押し倒される。
 パスカルはオレと重ねるようにして下半身をこすりつけてきた。鬱陶しいサボり魔に犯されようとしているのに、抵抗する気力が湧いてこない。

 むしろ……もっと気持ちいい部分に当たってほしくてもどかしい。パスカルなんかにこんな感情……ありえないだろ……。

「ノア、ホント可愛い。タケル先生が本気になるのも無理ないや」

「だ、黙れサボり魔っ!」

「パスカルって呼んでよ」

「ぜってーやだ!」

「タケル先生のことは名前で呼んでるくせに」

「お前なんか嫌いだって――」

「いいから黙って感じなよ。もう限界でしょ? 直接触ってあげる」

 ……相手がこんなヤツだというのに。
 痺れるような快感でぞくぞくする。
 自分が自分でなくなっていくような感覚がする。

 全てはあの怪しいシャンプーのせいだ。
 アレを使わなければタケルに手を出されることもなかった。

 ……最悪だ、オレ。
 こんな状況でタケルのことを考えている。
 アニキじゃなくてあんな教師のことを。

 ……昨夜繋がったとき。
 タケルは何度もオレの名を呼んだ。

「好きだ」
「愛してる」
 そう繰り返した。

 心だけでなく、身体の奥底にまで激しく「君は僕のものだ」と訴えてきた。

 オレはひたすらアニキのことを考えて、あの行為を乗り切ったけれど。耳だけはずっと、タケルの声を捉えていた。あの強い独占欲が、タケルの押し殺してきた本音――変なシャンプーのせいで顕在化したあいつの心。

 もしオレが、頭のイカれたパスカルに押し倒されていると知ったら……タケルはどうなってしまうのだろう。恥ずかしさなのか悔しさなのか罪悪感なのか。じわっと瞳が熱くなる。

「泣きそうな顔で上目遣いに俺を見ちゃって……。必死なキミには悪いけど、その顔すっごくそそられる」

「……あとでぜってーぶっ飛ばす」

「さてどうかな」

 どうしてこんなことになったんだよ。
 オレが大好きなのはアニキだけなのに。
 そのはずだったのに。

 本当に欲しい人は手に入らなくて、自分の初めてを奪った教師を意識して――そして今、大嫌いなヤツにまで犯されようとしている。

 それなのに拒めない。
 もうめちゃくちゃだ。

 パスカルから漂う花の香り。
 自分の意思と裏腹に性欲が掻き立てられ、身も心もなし崩しになっていく――。


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