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8【side.ノア】――パスカル/黒
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しおりを挟むパスカルはニタリと腹黒さ全開の笑みを浮かべ、レジ袋から紫色のボトルを取り出した。お菓子の群れのなかに並んだ異質なボトル――見覚えのあるものだ。
「それ、サボり魔が押し付けてきたシャンプー」
「ちゃんと使ったよね?」
「……まぁな。やっぱ胡散臭いから捨てちゃおうか迷ったけど――」
「ごめん、胡散臭いんじゃなくて嘘だよ。シャンプーで背が伸びるわけないでしょ」
「ちょ、お前っ! またオレをバカにしたな!?」
「ごめんってば。でも代わりに素敵な夜を堪能できたんじゃない?」
「……えっ」
「コレが特別なモノだってことは事実だよ。俺が秘密のルートで手に入れた、特殊配合のシャンプー。その成分と人間のフェロモンが混ざり合うことで発する魅惑の香り――ちょっぴりエッチな気分になったんじゃない?」
「マジ、かよ……。全部そのシャンプーのせいで……?」
「タケル先生といやらしいことをしたんだね? キミも何だかんだで気持ちよくなっちゃったんでしょ」
昨夜、タケルがオレの髪を乾かしてくれた。
妙な流れになったのはそこからだ。
オレの髪をすくいながらドライヤーを扱っていたタケルには、シャンプーの匂いが直撃していたはず。あいつは「魅力的な香りがする」と言い、さらに「限界だ」と言ってオレの身体を――。
混乱と衝撃で返事ができず立ち尽くした。パスカルがソファを離れ、オレに近付いてくる。
「俺も今朝、このシャンプーをたっぷり使って頭を洗ったよ。キミのこと、エッチな気分にさせられるかな」
「待っ――」
パスカルがオレの腕を掴み、半ば引きずられるようにして壁に押し付けられた。体勢だけで言えば女子が喜びそうな壁ドンだが、オレにとっては嫌悪しかない。
「お前っ……オレとタケルになんの恨みがあって変なシャンプーを!?」
「へぇ。呼び捨てにする仲まで進展しちゃったんだ」
「ちげーよっ。あんなヤツもう二度と〝先生〟なんて呼んでやらない。そんなことより、お前がなんの目的でオレたちをハメたのか。ちゃんと理由を言えよっ」
「あのシャンプーにどのくらい効果があるか実験してみたかっただけ」
「実験?」
「タケル先生はノアのことを本気で愛してる……俺には分かるんだ。でも真面目なあの人はひたすら我慢するだけ。毎日悶々としてただろうね」
「……」
「あのシャンプーに含まれる特殊なアロマはね、普段押し殺している欲が強ければ強いほど、理性を叩き潰す力も強くなる――要するに、タケル先生みたいに真面目で忍耐強い人ほどガッツリ効いちゃうの。たぶん今も、何が何だか分からないままエッチなことばかり考えてるんじゃないかな。卑猥なアイテムでしょ」
やはり、昨夜のタケルは異常だったのだ。
オレも混乱していたから全て記憶しているわけじゃないが、確か「気持ちを殺せない」とか「絶対消し去らないと」とか言っていた。
タケルは真面目すぎるから。
他人だけでなく、自分にも厳しすぎるから。
自分の願望を表に出さないよう――生徒のオレを好きにならないよう、今まで必死に目を背けてきたのかもしれない。
行為を終えたあとのタケルは「記憶が断片的に途切れている」と言い、愕然とした様子だった。
その姿を見たオレは〝性欲を抑えられず生徒を犯してしまった動揺〟と受け取ったが。実際はシャンプーの影響で錯乱し、記憶が曖昧になっていたのだろう。
あいつの我慢し続けた欲。
そしてオレへの想いが。
変なシャンプーのせいで爆発してしまったのだ。
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