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5【side.ノア】――パスカル/灰

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「オレ、タケルと三日間うまくやっていけるかな。小言のオンパレードにブチギレて思わずぶっ飛ばしちまったらどうしよう」

「ただの保護者役だから放っておけばいい。『課題を頑張るから邪魔しないで』とでも言って部屋にこもればやり過ごせるだろう。土日は遊びに出掛けとけ」

 バカ真面目なタケルの性格を考えれば、アニキの提案が一番かもしれない。



+ + +



 ――迎えた翌日。
 昼休み、タケルに呼び出されて職員室を訪れた。

「タケル先生。話ってなんすか?」

「エリック先生にも伝えておいたが、君の家へお邪魔する件だ」

「やっぱり。念のため言っておくけど、オレはマジ一人で大丈夫っすよ?」

「君にはエリック先生以外、連絡を取ることのできる身内がいない。万が一、何か起きてからでは取り返しがつかないんだ」

「……オレはアニキだけいてくれればいいんで。大人ってのはすぐ、オレを邪魔者扱いするからな」

「君の心の傷は理解している。だからこそ、エリック先生や僕は君のことを守りたいと思っているんだ」

「……そっすか。でもオレ、留守番くらい一人でできるっすけどね」

「〝兄代理〟に関してはエリック先生と話し合って決まったことだから。反故ほごにはしない」

 ……なかったことにできればいいと淡い期待を抱いたが無駄だ。諦めよう。

「今夜から君の家のキッチンを貸してくれるか? 保護者役とはいえ僕は邪魔する立場だ、食事の支度くらいできればと」

「そういやタケル先生、料理が得意なんだっけ? でも気ィ遣わなくていいっすよ。オレ、毎日メシ作ってるんで」

「まったくエリック先生は。子供に炊事を任せきりだなんて――」

「子供扱いすんなっ!」

「……すまない。君が嫌がることだと分かってはいるんだがつい」

「家事はオレがやるんで。タケル先生は適当に来てください」


 職員室を出て教室に戻る途中、廊下でパスカルと鉢合わせた。左肩にスクールバッグを携え、右手でロリポップを握っている。顔面は相変わらずニヤニヤ……本当にいつ見ても笑っていて気持ち悪い。

「やぁどうも、おチビなボウヤ」

「チビとかボウヤとか言うなっ! キュートも禁止!」

「まだ〝キュート〟とは言ってないんだけど」

「ぜってー追加するもん。お前のねじ曲がった性格と腹黒さはよーく知ってるからな」

「じゃああえて言わないでおくよ。さっき屋上でエリック・・・・に会ったんだけど、今日からタケル先生が泊まりに来るんだって?」

 パスカルはアニキのことを呼び捨てにしている。昔はちゃんと〝エリック先生〟と呼んでいたはずなのに、いつの間にかそうなっていた。

 馴れ馴れしくするなと警告したが、パスカルは「サボり仲間だもん」と笑うだけ。

 こいつに言っても無駄ならアニキに、と抗議した。でもアニキは「生徒から呼び捨てされようがタメ口きかれようが気にしない」と……。


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