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4【side.タケル】――白
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しおりを挟むノアに謝罪したい。
今はその一心だった。
不真面目教師の弟だから、言葉や態度が悪いから、チャラチャラした不良生徒に決まっている――そんな偏見で人間性を断定し、ノアの本質を見ようともしなかった自分。
教師として情けない。
不甲斐ない。
恥ずかしい。
罪悪感が膨れ上がる。
そんな僕の心情が伝わったのだろうか。エリック先生が「今夜ウチにメシ食いに来るか?」と誘ってくれた。
お言葉に甘え、食事をご一緒させていただくことになった夜。家にお邪魔してすぐ、ノアに謝罪の意を伝えた。彼はやはり顔を真っ赤にして――。
「あれはマジでちげーっすから! オレは花なんてどうでもいいし!?」
「君は立派なことをしたのだから堂々としていればいいんだ。中庭の花壇など見向きもしない生徒が大多数だろう。そんななか君は、一本の花が倒れていることに気付いた。無視するという選択肢もあっただろうに、わざわざ割り箸を取りに行ってまで――」
「たまたまバッグに入ってたから使っただけっすよ!」
「君は鞄など持っていなかったと記憶しているが?」
「ま、間違えた、ポケットに入ってたんだった」
「善い行いを隠す必要はないんだ。花の命を救ってあげた君の心はとても純真で美しく――」
後方からエリック先生に耳を引っ張られた。「ホントのこと言うなよ」と忠告される。改めてノアを見下ろすと、激高した表情で僕を睨んでいた。
「美しいとか純真とか言うなっ! つーかアニキも『ホントのこと』ってなんだよ! オレはアニキみたいにチョイ悪でシブくてかっけー男だろ!?」
エリック先生と同時、「それはない」という返事が重なった。
可愛らしい顔からは想像もつかない粗暴な言動。
しかし、美しい心の持ち主。
接する時間が長くなるほどに彼の純真さが見えてきた。
……可愛い。
……愛しい。
……好きだ。
そう自覚してしまったとき、自身に絶望した。
自分は幼い頃から男女問わず人を好きになることがあったため、男性に恋情を抱いたこと自体に戸惑いはない。
――しかし。
相手は教え子。
教師が生徒にこんな感情を抱くなど赦されない。
絶対に。
絶対にいけない。
愛してはいけない。
触れたいと願うなど。
自分のものにしたいと願うなど。
教師として、大人として、身勝手極まりない。
忘れなければ。
僕は間違っている。
過ちを犯している。
こんな感情は消し去らなければならない。
絶対に。
絶対に。
己の中で何度も繰り返した。
そうして強く念じなければならないほど、深い愛情を抱いてしまった自分が憎い。
もはやエリック先生のことを教師失格などと言えない。校則違反する生徒を厳しく注意する資格があるのかさえ分からない。
ノアのことを愛している。
そんな罪深い事実をどうにか殺すために。
今日も僕は「絶対に赦されない」と心の中で繰り返す。
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