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【Case2】仕入れの謎と、お客様の謎

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「彼女の表情からは動揺が感じられた」

「そういえば……目が泳いでましたね」

「彼女は『ご迷惑になりますから』と繰り返したけど、妙に焦った様子で早口になっていた。〝あなたに迷惑をかける〟と言うより〝そこまでされると困る〟という雰囲気に見えたんだよね。浮遊霊の性質を鑑みると、未練を解消できるかもしれない可能性を拒絶するとは考えにくい。言葉にしないだけで、何かしら他者に隠したい事実があるはず」

「話の腰を追ってすみませんけど、本当に探偵のお知り合いが?」

「厳密に言うと探偵ではないんだけどね。ちょっとした〝情報屋〟みたいなものだと思っておいて?」

 そんな都合のいい便利屋が現代日本に存在するのだろうか。と言っても、それ以上に非現実的なもの(幽霊)は実在した。情報屋というものが存在しても不思議ではない……のかもしれない。自分の中の常識が次々と崩壊していきそうだ。

「最後に一点。何故お姉さんまで亡くなってしまったのか、という部分が謎なんだよね」

「……言われてみれば」

「お帰りになる際、ちょっとだけ探りを入れてみるよ」

 話の続きはお客様が帰ってからということで、菜園の水やりを頼まれた。裏庭の隅には水道設備がある。ホースを畑まで引っ張れば簡単に水やりできそうだが、「ジョウロを使ってね」と指示があった。ホースだと水の勢いが強かったりまばらになったりして、植物や土に良くないらしい。

 ジョウロに水を汲み、菜園+花壇を五往復。ハンドタオルで汗を拭いながら店内に戻ると、瑞月さんが食器を片付けていた。お客様が帰ったようだ。

「水やり終わりました。次は何をすれば……?」

「お昼には少し早いけど一旦お店を閉めたよ。ピザトーストを作るね」

 瑞月さんは食材の準備を始めている。朔也は戻らないと言われたため、食器棚からグラスを二つ取り出した。カトラリーケースにはフォークとナイフを入れ、フロアへと運ぶ。今日は雲ひとつない青空が美しい。窓際の席にトレイを下ろした。

 香ばしいピザトーストと瑞々しいサラダをいただきながらの話題はもちろん、さっきの浮遊霊のことだ。

「なんだか推理ドラマみたいな展開になってきたね」

「こういうこと、よくあるんですか?」

「最初に話したけど、浮遊霊の来店は年に一回あるかないかってところ。その上こんなミステリー話が飛び込んでくるなんて……キミがお店の結界を潜り抜けたことも含め、イレギュラーな出来事が続くな」

 私が面倒事を運んでしまったかのようで申し訳ない気持ちになる。視線をテーブルに落とすと、瑞月さんは「勘違いしないでね?」と口にした。

「僕は璃乃さんとの出会いを嬉しく思ってるんだ。そうじゃなきゃ、人手不足でもないのにアルバイトに誘ったりしない」

「……お気遣いありがとうございます」

「それじゃあ話を戻そう。お客様の帰り際、新たな情報を得たんだ」

 彼女は約五年前から、美濃加茂市内にあるワンルームマンションに住んでいる(現在は〝取り憑いている〟と言った方が正しい)。そして彼女は〝妹の死の真相〟を求め彷徨っている。彼女にとって、それは生きがいのようなものらしい。

 幽霊に対し〝生きがい〟と表現するのも矛盾している気がするが……。細かいことを気にしても仕方がないため、彼女の死因に繋がるヒントを得られたのか否か訊ねた。

「死因に繋がる情報は残念ながら。妹さんの死が約半年前だから、お姉さんの死がそれよりあとなのは間違いないね。仮に殺人事件ならニュースになってると思うけど、インターネットではそれらしき情報を拾えなかった」

「病気か事故、それとも自殺……? でも彼女、自分が死んだことに気付いてないですもんね。自殺の可能性はないのかな」

「いや、そうとは言い切れないよ。死を選ぶほど苦しい出来事・死に至る経緯――本人にとって消したいであろう記憶を失った状態で浮遊霊になるケースも多数ある」


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