上 下
25 / 43

25

しおりを挟む
あれから様々なお茶会に出席した。
公爵夫人主催のお茶会、隣領の侯爵家が開く夜会。
行く度に新作のドレスを仕立てては宣伝をしたため、寝具部門で活躍する針子さんたちだけでは足りず、いわゆる短期バイトのように社交シーズンのみ追加募集しなんとか間に合わせる暴挙に出ざる終えなかった。

けれどそのおかげか、ドレス部門は大盛況。
こちらでドレスを仕立てるわけではないので、たった二人の職人で構成される部門である。
“王妃様がお認めになられたドレス”というキャッチフレーズの力は絶大だ。

そして今夜はなんとヴァレンロード侯爵家からお招き頂いた夜会へ出席することになった。
しかも今回の夜会はヴァレンロード家に縁のある者のみ呼ばれる特別な夜会らしい。

入場条件はヴァレンロード家の者にエスコートされる、またはしている者のみ。
そして青き血の者のみ。

力を持つ血筋だからこそ出来る夜会なのだろう。

なので今夜のエスコートはハインがしてくれる。
ヴァレンロード家に許された、白調に青を差し色としている騎士服に身を包み、また黒い宝石のアクセサリーを付けていた。
分家当主の証であるラペルピンも忘れずに。

「……モリガン様」

「お待たせしました」

「美しい……。我がヴァレンロード家を意識してお作りに?」

「ええ。だって他ならぬハインのご家族からご招待されたのだから」

今夜のドレスは、青と白をアクセントにし、紺色のマーメイドドレスだ。
背中を大きく見せるため、コルセットは背中が空いたタイプを作成してもらった。
無着用だと印象悪そうじゃない?
だから、正面はしっかりコルセットで覆い、背面は腰から。
こんな服、日本じゃ自信持って着れないしね。
今の私ならいける! なにせ鍛錬の成果は凄いんだぞ。
まるでフィギュアスケート選手のような体つきになったもん。
じゃないと、早く動けないからね。

「こんな無防備に背中を晒して……」

「ひゃ! こ、こら……何してるの」

「誘ってるんだろ?」

「誘ってない!」

もう! いたずらはやめてよね!
ハッキリ形を示す肩甲骨にキスされ、ハインの胸を押してお仕置き。
こら、お仕置きなんだから嬉しそうな顔しないでよ。

片膝をつき、手を差し出されれば受け取ってしまうのは、私が女だからだろう。
イケメンにそんなことされれば心が弾むじゃない。

侯爵家の大きなホールへ足を運べば、ハインと同じ騎士服を着ている紳士が多く、ヴァレンロード家の歴史を感じる。
最年少分家当主になったハインは、若き騎士達の憧れ。
入場すると直ぐに若い騎士達が目を輝かせこちらを向いていた。

「おお、ハインリヒじゃないか」

「ご無沙汰しております」

「今宵はなんとも素晴らしい華を抱えているではないか」

「はじめまして、ホーエナウ騎士団長様。
モリガン・ブルゴーと申します。
今宵は素敵な方が集まり、胸が躍るようですわ」

「初めてお目にかかります、ブルゴー伯爵」

手を取られ甲に口付けをされるフリをする。
貴族間の挨拶は何度受けても慣れないね。

「魔王討伐を果たした美しき勇者様の慈悲は、我が騎士団に大きな影響を与えましたぞ」

「ありがとうございます。
ですが、慈悲なんてそんな……。 
私は自領のために商売を始めただけに過ぎませんもの」

「ご謙遜を」

こちらのヴァレンロード卿はホーエナウ領の騎士団長をされているお方で、年齢的にはホーエナウ伯爵と同じくらいに見える。
ホーエナウ騎士団には、放牧柵の売上が良かったこともあり、羽毛寝具をプレゼントしたから、そのことだろう。

最年少分家当主とブルゴー伯爵の入場を聞きつけると、まわりには人だかりが。
気分はパンダだ。
けれど、嬉しいことに今回の夜会で着られているドレスは我が商会商品が多い。
ここまで浸透してきたのかと思うと、ちょっと感動。

「ハインリヒ様! お久しぶりですわ」

「お久しぶりです。相変わらず小鳥のように可愛らしいですね」

「まあ……ハインリヒ様」

目をハートにさせたご令嬢たちがハインを囲い始めました。
さて、婚活する若者のために、部外者は離れましょうかね。
って……こら、腰を放しなさい。

「我が主、どちらへ」

「可愛いご令嬢方とのひとときを楽しまれては? 私は挨拶に行きますわ」

だから放しなさいってば!
扇子を広げて口元を隠しひと睨みするものの、ハインの手は緩まない。
逆に身体をぴったり付けてくるもんだから、まわりが固まっているじゃないの!

「ハインリヒ」

「では皆さん、また後ほど」

こらー!! 人の話を聞け!
この場で愛称を呼ぶのはいかんと思って名で呼んだのに、一瞬眉が吊り上がったのは気のせいじゃないよね?
私にも建前があるのよ。わかってる?

「はっはっは。さすがブルゴー領騎士団長。
主人以外、興味がないときた」

「ツェントルム騎士団長、父上。
ご無沙汰しております」

「そんなんじゃいつまで経っても結婚できないと言っているだろう」

「何度申し上げたら分かるんですか。
私はブルゴー騎士団長として着任して間もない。
すぐ結婚など出来ません」

ツェントルム騎士団とは、王族に仕える騎士団で王城の隣に位置し、常に王家の剣と盾。
つまり、ヴァレンロード本家だ。
その騎士団長ということは、ヴァレンロード侯爵御本人ということ。

私は身についた淑女の礼をし許可を待った。

「美しい挨拶をありがとう。ブルゴー伯爵。
我がヴァレンロード家でここまで若く分家したいと申し出た者はハインリヒが初めてでね。
そこまでして支えたい領主はどのような人間なのかと、一族皆気になっていたのだ」

「若者故、失礼も多いかと思いますが息子はいかがですかな?」

そしてこちらがハインのお父様。
御夫人の姿が見えないから後でご挨拶に伺うとしましょう。

「我が騎士団、そして私にとってもなくてはならない存在ですわ。
彼と同じ時を過ごせることに感謝しております」

「おお……なんということか」

「オットー、君の息子はとんでもない主人を見出した様だね」

練習に練習を重ねた淑女スマ~~イル!
部下を立て、価値を示せば親も安心。
私の言葉に、ハインは微笑み手の甲に口付けをした。
その行動に驚くお父様。

「主人は、私を喜ばす事も得意なのですね」

ぐはっ!! 今日一甘い笑顔です。
まわりにいる女性も巻き込み、イケメンオーラ全開だ。

「これはこれは。
オットー、結婚は諦めるべきかもな?」

「よりによって殿下の婚約者に溺れるとは……」

お父様、頭を抱えています。
そりゃそうだよね。
絶対の忠誠を誓う王族の婚約者に心惹かれているなんて。
って、一発でバレちゃってるし!

「ハインリヒは魔王討伐後、こちらで育てる予定だったのですよ。
ブルゴー伯爵」

なるほど。
ヴァレンロード侯爵家の本家は私の正体を知っているわけですか。
魔王討伐隊は陛下と宰相、そしてツェントルム騎士団長が人選をしたということね。
実力を図るために派遣したルーキーがまさか分家を申し出るとは予想外だった。
ということですね? ツェントルム騎士団長様。

「おやめ下さい。
モリガン様は温情深きお方です。
そのようなことを申されては心配なさる」

「ふふっ、大丈夫よ。
今更貴方を手放すなんてできないわ。
我が領の安全は貴方頼りだもの」

「おやおや」

「ハインリヒ、ブルゴー伯爵の期待を裏切ぬよう精進なさい」


その後、ハインのお母様にもご挨拶させて頂いた。
ご両親としては早く世継ぎが欲しいらしく、見合い肖像画を今夜も持ってきていたらしい。
見せてもらったら? と言えば「貴女以外に興味ない」とスッパリ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される

吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...