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「愛人……ね」
「ごめんなさい……」
拘束を解かれて解放された頃には、足腰に力が入らず、私は床にへたり込んだ。
殿下はごめんねと額に口付けをして、抱きしめきた。
今は二人で床に座りつつ、殿下の足の間に横座りさせられている。
ハインとの顛末を話し、ちらりと顔を見れば、こわっ……目だけ笑っていない。
抱きしめる腕にも力が入って、少し苦しい。
「それで、愛人として彼を受け入れると?」
「まさか!
私、そんな器用じゃない」
「断った時、彼は何と?」
「それは───あ」
断って…….ない。
答えは急がないと、部屋を出ていかれてしまったから、結局YESもNOも言えないままだ。
「モリガン」
「ひえ! ごめんなさい!」
「体調を崩していたと言っていたが、何故?」
「放牧柵に結界術式を組み込んで、付与させようとしたんです。
けれど、私は無属性が無かったので、ホーエナウ伯爵に転写を……」
「転写か。なるほど。
それなら倒れたのも頷ける。
まったく、貴女は無茶をする」
「ごめんなさい……」
「それで?
放牧柵への付与はうまくいったのか?
無属性の付与は、そう簡単に出来ると思えないが」
「何度も挑戦しているんだけど発動しないの」
「だろうね。
結界術式自体ややこしく、弄りづらい。
そこに付与術式を組み込むなんて、容易ではないだろう」
殿下は宙に指を滑らせ、結界術式を書き始めた。
白く光った文字の内容は、転写された術式とまるで同じだ。
中心に結界術式、付与術式がぐるっと円を描くように文字が並ぶ。
ここまでは私と同じだ。
「ここまでは描けたのか?」
「はい。一字一句全て同じです」
「モリガンが悩んでいるのは、何故これで成立しないか、だな?」
「他の属性はこれで付与できるので、何故かわからないのです……」
「貴女は案外頭が固いね。
無属性術式を有属性と同じ付与術式で成立すると思っているのか?」
「……あ!!」
「そう。無属性の難しさはそこだ」
魔術陣の中に書かれた付与術式を囲うように円を引き、更に新たな術式で囲っていく。
結界術式と付与術式、そして書き足した2種類の術式に線を通し、回路を繋げた。
出来上がった陣はとても大きなものになった。
「で、殿下!!
この魔術陣がもしかして」
「結界付与の術式だ」
「す、すごい……!!
これはなんという術式ですか?
初めて見ます」
新たに書き足した2つの術式を指差し、その文字をなぞった。
「属性変換と継続時間を示した術式だ」
通常、魔術陣には威力・範囲・時間を書き込み完成となる。
この3つが大きければ大きいほど難易度が上がり、魔力が必要となる。
殿下が書き足したひとつめ、属性変換は無属性を有属性に変換する術式らしい。
有属性にしては効果がないのでは? と疑問をぶつけると、結界術式を大きく描くことで上手く発動するとのこと。
ふたつめは継続時間を書いたというが……
「どのくらいなのですか?」
「無制限」
「え!?」
「貴女はどの程度まで可能かな?」
「試みたことがありません……。
常に魔力を流し、陣を維持して武器に付与させているので」
「なら、使いこなせるかもしれないね。
モリガン、こちらを向きなさい」
「え?あ、はい……」
身体を戻し、殿下に顔を向けると
「ンムッ……!?」
突然唇を塞がれた。
「っは、殿っ……ン」
殿下との口付けはいつも優しい鳥の求愛行動のようなもの。
先程荒々しいキスをされたことを忘れてしまいそうなほど、舌先が優しく動き、口の中に喜びを与えてくる。
「私の可愛いリンゴ。
そんな表情をされては止められなくなる」
「はっン……っ」
心がぽかぽか暖かくなって、でも気持ちよくて声が自然と漏れてしまう。
腰に響く殿下の声に身体が反応して跳ねる。
「ん、ッ!?」
その時だ。
殿下に与えられる快楽に溺れていた私の頭に、転写時と同じように術式の文字が流れ込んできた。
またあの痛みが襲うのかと、恐怖から殿下の胸を叩く。
すると、殿下の目元は優しく微笑んでいるように見えた。
「……ッ、ふぁ、んむ」
だが、強烈な痛みはいつまで経っても来ず、与えられるのは術式と快楽だけ。
殿下の舌が優しく口内を犯し、私の唾液を味わっている。
なのに背中に回された手は、赤子をあやすかのようにとんとんっと一定リズムを刻み、優しく触れている。
脳内で先程殿下が描いた結界付与術式の魔術陣が完成した所で、ようやく唇が解放された。
全身から力が抜け、酸素を求めて肩で呼吸を繰り返す。
涙ぐむ瞳で殿下を見れば、どちらかの唾液が濡らしたのかわからない唇を舐め上げ、微笑んだ。
「転写、上手くいったみたいだね。
痛みはなかっただろう?」
あれが転写?
ホーエナウ伯爵とした転写とはかなり違いがあるような。
気付けば、殿下の手は金色の光を宿していた。
これは聖属性の光。
殿下は転写の痛みを聖属性魔術で逃がしてくれていたのだ。
「うん……きもちよかっ……ハッ!」
殿下はほくそ笑んで、私の顎をつかんだ。
「そう? ならもう一度する?」
「いえいえいえいえ!!
もうお腹いっぱいです!! んっ……もう! マクシミリアン!」
「ふふ、君は怒るとそう呼んでくれるんだな」
「え」
「名前」
「あ」
そういえば気付かなかった。
「ようやく、君の懐に入れた気がする」
ハプスブルの天使、全開の笑顔。
花が咲くどころか、羽が舞っているようにも見える。
「そんなことないです……。
あの、マクシミリアン様はやはり経験豊富なのでしょうか……」
「……なぜ?」
少し間がありましたが?
体調が優れてから、やはり経験を……。
これだけ綺麗な人だもの。
世の女性が放っておくわけないものね。
殿下は少し気まずそうに目を逸らし、髪をかきあげた。
胸がちくりと痛むが気付かないふりをしよう。
「だってハインとの口付けは少し怖かったのに、殿下のはとても……ひえ!」
「ヴァレンロード卿との口付け?
モリガン、詳しく話しなさい」
今度は私が目をそらす。
逸らすよりも泳いでいる。
肩を掴まれ、力強く引き寄せれ、目を見られる。
「ご、ごめんなさい……!
だってあんなことされるなんて、思ってもいないもの!」
「貴女は男に対して警戒が薄い。
自分がどれほど魅力的なのか知らないだろう」
「わ、私なんてただ力があるだけの女です!
殿下にそのように仰って頂けるような人間では……」
「ねぇモリガン。
私は貴女を愛している」
ドキッと胸が鳴った。
「だからもっと貴女自身の評価を改めて欲しい。
他ならぬ、私のために」
「マクシミリアン様、ん」
いつものように優しく唇が触れた。
リージーにも言われた言葉だった。
見た目だけではなく中身もプラスされてその人となりに惹かれるものだと。
「今の気配、分かった?
男が貴女の唇を奪う気配だ。
男はね、好きな女性には必ず合図を出す。
ヴァレンロード卿も出していたはずだ」
「合図……」
たしかにあの時、愛人志願の前振りがあった。
あれが合図……?
「これからは、すぐに気づき拒むくらい気配に慣れて欲しいものだね。
今回は事故として流してやろう。
そのかわり、次はない。
分かったね? モリガン」
何も言わせまいとする王族の威厳。
私は殿下のその言葉にただ頷くことしかできなかった。
「転写は先ほど虐めたお詫び。
ごめんね、モリガン」
───
放牧柵完成の知らせを受けて、ホーエナウ伯爵が飛んできた。
殿下の下、ホーエナウ伯爵が事業として展開できる継続時間術式を組み込み、転写を行なった。
勿論行なったのは殿下だ。
男同士の禁断な世界を目の当たりにしてしまうのではと、どきどきしていたが……
「ぎゃああ!! で、殿下!!
お力を緩めて頂けますかな!?」
「男に優しくする義理はない」
「痛い痛い痛い!!」
そんなことはなかった。
殿下が鑑定と転写を使用していることに、ホーエナウ伯爵は驚いていたけれど、生涯口外しないと約束をし、転写を望んだ。
何せ愛するお嬢さんのためだものね。
放牧柵ができたことで、我が領も魔物を家畜として飼う酪農を始めた。
魔力を含む牧草の開発にも成功し、他の作物は収穫待ちだ。
結果が楽しみである。
そして今日は食堂の試験営業である。
テレルとスワイン、他従業員を集め、まずはテレルから朝礼だ。
「とうとうこの日がやって参りました。
私達ブルゴー民は明日への希望を失い、辛い日々を歩んできました。
ですが……うぅ……」
「テレルさん、泣かないでくださいよ!
もー相変わらず泣き虫なんだから。
皆さん、今日は試験営業です。
価格は全て低下の半額。
まずは魔物素材を使った料理の美味しさを知っていただき、リピートしてもらうのが目的です。
ここで失敗しては、今までの努力が水の泡。
気を引き締めて参りましょう!」
テレルさんは涙脆く、よくこうやってスワインさんにフォローされている。
テレルさんのワインも今日が初デビュー。
一度試飲したが、あまりの美味しさに何度も飲んでしまったほどだ。
どうやら肥料に秘密があるらしい。
「夜には各部門長と騎士団・魔術師団の長。
それとギルド関係者がいらっしゃいます。
夜は私が主に動きますので、皆さんは昼間の仕事に全力を注いでください」
全員の大きな返事と共に“勇者の食堂”が開店した。
驚くことに、開店前から行列ができており、扉を開けた瞬間、わっと歓声が上がったのだ。
「楽しみにしてたんだぜ!」
「いつもいい匂いがしていてたまらなかったのよ」
開店と同時に満席になり、店内はバタバタ大忙しとなった。
殺到する注文、見たこともない料理名が多いため、店内の壁には料理名の下に調理法と食材名を記載。
水鳥肉は食に困る領民に配布し、既に口にしたことのある者が多いためか、魔物食材への抵抗があまりないようだ。
店内には料理を褒める声が次々上がる。
その声に達成感を感じつつ、私は会計を急ぐ。
初めは領主にやらせるわけには……と困惑していた食堂従業員だが、目の回るほど忙しい為、今では私に指示を出すほどだ。
「お! 領主じゃねーか!」
「こんにちは。どう? 満足できたかしら?」
「おう! すげぇ美味かったぜ!
こんな料理、よく思いつくもんだな」
「そうでしょ? 代金は銀貨2枚と銅貸5枚よ」
「は!? あそこにゃ銀貨5枚って書いてあんぞ?」
「あら、知らないの?
今日は試験営業だから全部記載金額の半額よ」
「はんがく? なんだそりゃ」
「半分の値段ってこと」
「なんだと! そりゃすげえ」
料理名の下に分かりやすく、硬貨の絵を必要な枚数分描いてあり、子供でも分かりやすくした。
文字を読む書きする学習をした者してない者、それぞれいるからね。
「だから今日は気にせず飲んで食べていってね」
「お前さん、領主なのにすげぇな。
おっしゃ! ワイン追加だ!」
「ふふ、ありがと」
こうして、時間はあっという間に過ぎていった。
そして夜。
「もももももモリガン様、私達変じゃないですか!?」
「大丈夫大丈夫」
これからの時間は貴族に対する試験営業だ。
ブルゴー領には、元名門貴族の領民も多く、その多くは今現在モリガンの下で働いている。
今回、貴族向けレストランに問題点などないか見てもらう為、集まってもらうことになった。
各部門長の中にはベアリンのように平民もいるが、日頃の感謝を込めて今回はレストランへご招待だ。
昼間は普段着にエプロンと簡単な装いだが、相手が貴族となると話は別。
制服を用意し、特別感を演出。
執事の格好をしたのはテレルだ。
普通執事服は黒だが、ここはあえて白で作成。
“勇者のレストラン”の責任者であることが一発で分かる装いにし、優雅な立ち振る舞いができる元貴族のテレルは完璧である。
執事の格好することに抵抗はないかと問うたが、今や崩壊した国の元貴族などブライドがあっても無駄なもの。しかも私は男爵だったため、執事の方が高質だと笑っていた。
ワインの売上は8割テレルのものになるため、プライド<売上 のようだ。
ワインへの情熱が凄い。
壁面に飾っていたメニューは下ろし、花を添え、シンプルだが品ある仕様に。
骨董品を置く貴族志向の店とは反対に、品の良さで勝負だ。
「よし、みんな!
……こほん。みなさま、時間です。
夜、最高のひとときをお楽しみいただけるよう、おもてなしをしましょう」
「ヴァレンロード子爵、ホーエナウ伯爵ご一家、並びに部門長がご到着されました」
「時間通りね」
アンナが到着の知らせをする。
私はオーナーとして、先頭でのお出迎えだ。
貴族相手のためドレスを着て、ブルゴー商会長として立つ。
アンナが扉を開けると同時に、私はドレスの裾を持ち、礼をした。
「此度はお時間いただきありがとうございます。
わたくしたち、勇者のレストランが皆様にご満足いただけるよう素敵な夜に致します。
どうぞ、今宵は時を忘れお寛ぎくださいませ」
顔を上げ、にこりと挨拶すれば、唖然とした顔のベアリンなど平民部長さん。
普段の私とは違う姿に驚いているといった感じね。
少し驚いた顔のホーエナウ伯爵と……こちらが奥様にお嬢様だ。
そして、初めて見る貴族としてのハインの姿。
うっ、かっこいい……あれが正装姿なんだ。
ヴァレンロード家には代々伝わる騎士服がある。
ヴァレンロード家当主の正装であり、侯爵家だから出来る高級質な仕立てで、青く染めた騎士服は貴族の“青”を示す。
いつも自然に下ろしている髪も、今晩は違う。
髪全体を後ろへ流し、綺麗にまとめていた。
「招待ありがとう。モリガン様」
ホーエナウ伯爵が挨拶すると、エスコートしている奥様がにこりと笑った。
「はじめまして、わたくし妻のデルミーラと申します。
我が領に手を差し伸べてくださり、拝謝の念も堪えません」
「はじめまして、ホーエナウ伯爵夫人。
ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げますわ」
「いえ、ブルゴー伯爵様は主人の主。
私達は伯爵様の配下と言っても差し支えないですわ。
お詫びはわたくしたちが申し上げる立場です」
綺麗な人だ。
だからこそ、瞳に迫力がある。
「モリガン様にまだ挨拶をしていなかったな。
娘のクレイトンだ」
「は、はじめまして。
ブルゴー伯爵。
わたくし、娘のクレイトンと申します」
「娘はブルゴー伯爵に憧れているのです。未熟な娘をお許しくださいませ」
「え? 私ですか?」
「えぇ」
夫人に似て綺麗な顔立ちのご令嬢は、頬を赤く染め俯いていた。
礼も緊張のせいか少しブレているところを夫人が未熟だと仰っているのだろう。
「モリガン様。
皆様にお席をご案内して宜しいですか?」
「あら、私としたことがごめんなさい。
どうぞ皆様、お席へご案内いたします」
テレルが指示を出し、席へとご案内する。
部門長が着席する中、ハインはクレイトン様の前に立ち、手を差し伸べた。
「可愛らしいレディ。
私がお席までエスコートしても?」
「は、はははい!!」
わぉ、騎士様のエスコートなんて女子の夢。
クレイトン様のお顔が真っ赤だ。
お一人で席につくことになるであろう令嬢を気遣った行動、さすがは紳士。
大人の余裕で令嬢を席までエスコートし、ホーエナウ伯爵とご夫人に一礼。
ひらりと体を翻し、自分はテレルに案内され席につく。
その際、目が合った私にウィンクしてきた。
うぐ……惚れてまうやろ。
「ごめんなさい……」
拘束を解かれて解放された頃には、足腰に力が入らず、私は床にへたり込んだ。
殿下はごめんねと額に口付けをして、抱きしめきた。
今は二人で床に座りつつ、殿下の足の間に横座りさせられている。
ハインとの顛末を話し、ちらりと顔を見れば、こわっ……目だけ笑っていない。
抱きしめる腕にも力が入って、少し苦しい。
「それで、愛人として彼を受け入れると?」
「まさか!
私、そんな器用じゃない」
「断った時、彼は何と?」
「それは───あ」
断って…….ない。
答えは急がないと、部屋を出ていかれてしまったから、結局YESもNOも言えないままだ。
「モリガン」
「ひえ! ごめんなさい!」
「体調を崩していたと言っていたが、何故?」
「放牧柵に結界術式を組み込んで、付与させようとしたんです。
けれど、私は無属性が無かったので、ホーエナウ伯爵に転写を……」
「転写か。なるほど。
それなら倒れたのも頷ける。
まったく、貴女は無茶をする」
「ごめんなさい……」
「それで?
放牧柵への付与はうまくいったのか?
無属性の付与は、そう簡単に出来ると思えないが」
「何度も挑戦しているんだけど発動しないの」
「だろうね。
結界術式自体ややこしく、弄りづらい。
そこに付与術式を組み込むなんて、容易ではないだろう」
殿下は宙に指を滑らせ、結界術式を書き始めた。
白く光った文字の内容は、転写された術式とまるで同じだ。
中心に結界術式、付与術式がぐるっと円を描くように文字が並ぶ。
ここまでは私と同じだ。
「ここまでは描けたのか?」
「はい。一字一句全て同じです」
「モリガンが悩んでいるのは、何故これで成立しないか、だな?」
「他の属性はこれで付与できるので、何故かわからないのです……」
「貴女は案外頭が固いね。
無属性術式を有属性と同じ付与術式で成立すると思っているのか?」
「……あ!!」
「そう。無属性の難しさはそこだ」
魔術陣の中に書かれた付与術式を囲うように円を引き、更に新たな術式で囲っていく。
結界術式と付与術式、そして書き足した2種類の術式に線を通し、回路を繋げた。
出来上がった陣はとても大きなものになった。
「で、殿下!!
この魔術陣がもしかして」
「結界付与の術式だ」
「す、すごい……!!
これはなんという術式ですか?
初めて見ます」
新たに書き足した2つの術式を指差し、その文字をなぞった。
「属性変換と継続時間を示した術式だ」
通常、魔術陣には威力・範囲・時間を書き込み完成となる。
この3つが大きければ大きいほど難易度が上がり、魔力が必要となる。
殿下が書き足したひとつめ、属性変換は無属性を有属性に変換する術式らしい。
有属性にしては効果がないのでは? と疑問をぶつけると、結界術式を大きく描くことで上手く発動するとのこと。
ふたつめは継続時間を書いたというが……
「どのくらいなのですか?」
「無制限」
「え!?」
「貴女はどの程度まで可能かな?」
「試みたことがありません……。
常に魔力を流し、陣を維持して武器に付与させているので」
「なら、使いこなせるかもしれないね。
モリガン、こちらを向きなさい」
「え?あ、はい……」
身体を戻し、殿下に顔を向けると
「ンムッ……!?」
突然唇を塞がれた。
「っは、殿っ……ン」
殿下との口付けはいつも優しい鳥の求愛行動のようなもの。
先程荒々しいキスをされたことを忘れてしまいそうなほど、舌先が優しく動き、口の中に喜びを与えてくる。
「私の可愛いリンゴ。
そんな表情をされては止められなくなる」
「はっン……っ」
心がぽかぽか暖かくなって、でも気持ちよくて声が自然と漏れてしまう。
腰に響く殿下の声に身体が反応して跳ねる。
「ん、ッ!?」
その時だ。
殿下に与えられる快楽に溺れていた私の頭に、転写時と同じように術式の文字が流れ込んできた。
またあの痛みが襲うのかと、恐怖から殿下の胸を叩く。
すると、殿下の目元は優しく微笑んでいるように見えた。
「……ッ、ふぁ、んむ」
だが、強烈な痛みはいつまで経っても来ず、与えられるのは術式と快楽だけ。
殿下の舌が優しく口内を犯し、私の唾液を味わっている。
なのに背中に回された手は、赤子をあやすかのようにとんとんっと一定リズムを刻み、優しく触れている。
脳内で先程殿下が描いた結界付与術式の魔術陣が完成した所で、ようやく唇が解放された。
全身から力が抜け、酸素を求めて肩で呼吸を繰り返す。
涙ぐむ瞳で殿下を見れば、どちらかの唾液が濡らしたのかわからない唇を舐め上げ、微笑んだ。
「転写、上手くいったみたいだね。
痛みはなかっただろう?」
あれが転写?
ホーエナウ伯爵とした転写とはかなり違いがあるような。
気付けば、殿下の手は金色の光を宿していた。
これは聖属性の光。
殿下は転写の痛みを聖属性魔術で逃がしてくれていたのだ。
「うん……きもちよかっ……ハッ!」
殿下はほくそ笑んで、私の顎をつかんだ。
「そう? ならもう一度する?」
「いえいえいえいえ!!
もうお腹いっぱいです!! んっ……もう! マクシミリアン!」
「ふふ、君は怒るとそう呼んでくれるんだな」
「え」
「名前」
「あ」
そういえば気付かなかった。
「ようやく、君の懐に入れた気がする」
ハプスブルの天使、全開の笑顔。
花が咲くどころか、羽が舞っているようにも見える。
「そんなことないです……。
あの、マクシミリアン様はやはり経験豊富なのでしょうか……」
「……なぜ?」
少し間がありましたが?
体調が優れてから、やはり経験を……。
これだけ綺麗な人だもの。
世の女性が放っておくわけないものね。
殿下は少し気まずそうに目を逸らし、髪をかきあげた。
胸がちくりと痛むが気付かないふりをしよう。
「だってハインとの口付けは少し怖かったのに、殿下のはとても……ひえ!」
「ヴァレンロード卿との口付け?
モリガン、詳しく話しなさい」
今度は私が目をそらす。
逸らすよりも泳いでいる。
肩を掴まれ、力強く引き寄せれ、目を見られる。
「ご、ごめんなさい……!
だってあんなことされるなんて、思ってもいないもの!」
「貴女は男に対して警戒が薄い。
自分がどれほど魅力的なのか知らないだろう」
「わ、私なんてただ力があるだけの女です!
殿下にそのように仰って頂けるような人間では……」
「ねぇモリガン。
私は貴女を愛している」
ドキッと胸が鳴った。
「だからもっと貴女自身の評価を改めて欲しい。
他ならぬ、私のために」
「マクシミリアン様、ん」
いつものように優しく唇が触れた。
リージーにも言われた言葉だった。
見た目だけではなく中身もプラスされてその人となりに惹かれるものだと。
「今の気配、分かった?
男が貴女の唇を奪う気配だ。
男はね、好きな女性には必ず合図を出す。
ヴァレンロード卿も出していたはずだ」
「合図……」
たしかにあの時、愛人志願の前振りがあった。
あれが合図……?
「これからは、すぐに気づき拒むくらい気配に慣れて欲しいものだね。
今回は事故として流してやろう。
そのかわり、次はない。
分かったね? モリガン」
何も言わせまいとする王族の威厳。
私は殿下のその言葉にただ頷くことしかできなかった。
「転写は先ほど虐めたお詫び。
ごめんね、モリガン」
───
放牧柵完成の知らせを受けて、ホーエナウ伯爵が飛んできた。
殿下の下、ホーエナウ伯爵が事業として展開できる継続時間術式を組み込み、転写を行なった。
勿論行なったのは殿下だ。
男同士の禁断な世界を目の当たりにしてしまうのではと、どきどきしていたが……
「ぎゃああ!! で、殿下!!
お力を緩めて頂けますかな!?」
「男に優しくする義理はない」
「痛い痛い痛い!!」
そんなことはなかった。
殿下が鑑定と転写を使用していることに、ホーエナウ伯爵は驚いていたけれど、生涯口外しないと約束をし、転写を望んだ。
何せ愛するお嬢さんのためだものね。
放牧柵ができたことで、我が領も魔物を家畜として飼う酪農を始めた。
魔力を含む牧草の開発にも成功し、他の作物は収穫待ちだ。
結果が楽しみである。
そして今日は食堂の試験営業である。
テレルとスワイン、他従業員を集め、まずはテレルから朝礼だ。
「とうとうこの日がやって参りました。
私達ブルゴー民は明日への希望を失い、辛い日々を歩んできました。
ですが……うぅ……」
「テレルさん、泣かないでくださいよ!
もー相変わらず泣き虫なんだから。
皆さん、今日は試験営業です。
価格は全て低下の半額。
まずは魔物素材を使った料理の美味しさを知っていただき、リピートしてもらうのが目的です。
ここで失敗しては、今までの努力が水の泡。
気を引き締めて参りましょう!」
テレルさんは涙脆く、よくこうやってスワインさんにフォローされている。
テレルさんのワインも今日が初デビュー。
一度試飲したが、あまりの美味しさに何度も飲んでしまったほどだ。
どうやら肥料に秘密があるらしい。
「夜には各部門長と騎士団・魔術師団の長。
それとギルド関係者がいらっしゃいます。
夜は私が主に動きますので、皆さんは昼間の仕事に全力を注いでください」
全員の大きな返事と共に“勇者の食堂”が開店した。
驚くことに、開店前から行列ができており、扉を開けた瞬間、わっと歓声が上がったのだ。
「楽しみにしてたんだぜ!」
「いつもいい匂いがしていてたまらなかったのよ」
開店と同時に満席になり、店内はバタバタ大忙しとなった。
殺到する注文、見たこともない料理名が多いため、店内の壁には料理名の下に調理法と食材名を記載。
水鳥肉は食に困る領民に配布し、既に口にしたことのある者が多いためか、魔物食材への抵抗があまりないようだ。
店内には料理を褒める声が次々上がる。
その声に達成感を感じつつ、私は会計を急ぐ。
初めは領主にやらせるわけには……と困惑していた食堂従業員だが、目の回るほど忙しい為、今では私に指示を出すほどだ。
「お! 領主じゃねーか!」
「こんにちは。どう? 満足できたかしら?」
「おう! すげぇ美味かったぜ!
こんな料理、よく思いつくもんだな」
「そうでしょ? 代金は銀貨2枚と銅貸5枚よ」
「は!? あそこにゃ銀貨5枚って書いてあんぞ?」
「あら、知らないの?
今日は試験営業だから全部記載金額の半額よ」
「はんがく? なんだそりゃ」
「半分の値段ってこと」
「なんだと! そりゃすげえ」
料理名の下に分かりやすく、硬貨の絵を必要な枚数分描いてあり、子供でも分かりやすくした。
文字を読む書きする学習をした者してない者、それぞれいるからね。
「だから今日は気にせず飲んで食べていってね」
「お前さん、領主なのにすげぇな。
おっしゃ! ワイン追加だ!」
「ふふ、ありがと」
こうして、時間はあっという間に過ぎていった。
そして夜。
「もももももモリガン様、私達変じゃないですか!?」
「大丈夫大丈夫」
これからの時間は貴族に対する試験営業だ。
ブルゴー領には、元名門貴族の領民も多く、その多くは今現在モリガンの下で働いている。
今回、貴族向けレストランに問題点などないか見てもらう為、集まってもらうことになった。
各部門長の中にはベアリンのように平民もいるが、日頃の感謝を込めて今回はレストランへご招待だ。
昼間は普段着にエプロンと簡単な装いだが、相手が貴族となると話は別。
制服を用意し、特別感を演出。
執事の格好をしたのはテレルだ。
普通執事服は黒だが、ここはあえて白で作成。
“勇者のレストラン”の責任者であることが一発で分かる装いにし、優雅な立ち振る舞いができる元貴族のテレルは完璧である。
執事の格好することに抵抗はないかと問うたが、今や崩壊した国の元貴族などブライドがあっても無駄なもの。しかも私は男爵だったため、執事の方が高質だと笑っていた。
ワインの売上は8割テレルのものになるため、プライド<売上 のようだ。
ワインへの情熱が凄い。
壁面に飾っていたメニューは下ろし、花を添え、シンプルだが品ある仕様に。
骨董品を置く貴族志向の店とは反対に、品の良さで勝負だ。
「よし、みんな!
……こほん。みなさま、時間です。
夜、最高のひとときをお楽しみいただけるよう、おもてなしをしましょう」
「ヴァレンロード子爵、ホーエナウ伯爵ご一家、並びに部門長がご到着されました」
「時間通りね」
アンナが到着の知らせをする。
私はオーナーとして、先頭でのお出迎えだ。
貴族相手のためドレスを着て、ブルゴー商会長として立つ。
アンナが扉を開けると同時に、私はドレスの裾を持ち、礼をした。
「此度はお時間いただきありがとうございます。
わたくしたち、勇者のレストランが皆様にご満足いただけるよう素敵な夜に致します。
どうぞ、今宵は時を忘れお寛ぎくださいませ」
顔を上げ、にこりと挨拶すれば、唖然とした顔のベアリンなど平民部長さん。
普段の私とは違う姿に驚いているといった感じね。
少し驚いた顔のホーエナウ伯爵と……こちらが奥様にお嬢様だ。
そして、初めて見る貴族としてのハインの姿。
うっ、かっこいい……あれが正装姿なんだ。
ヴァレンロード家には代々伝わる騎士服がある。
ヴァレンロード家当主の正装であり、侯爵家だから出来る高級質な仕立てで、青く染めた騎士服は貴族の“青”を示す。
いつも自然に下ろしている髪も、今晩は違う。
髪全体を後ろへ流し、綺麗にまとめていた。
「招待ありがとう。モリガン様」
ホーエナウ伯爵が挨拶すると、エスコートしている奥様がにこりと笑った。
「はじめまして、わたくし妻のデルミーラと申します。
我が領に手を差し伸べてくださり、拝謝の念も堪えません」
「はじめまして、ホーエナウ伯爵夫人。
ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げますわ」
「いえ、ブルゴー伯爵様は主人の主。
私達は伯爵様の配下と言っても差し支えないですわ。
お詫びはわたくしたちが申し上げる立場です」
綺麗な人だ。
だからこそ、瞳に迫力がある。
「モリガン様にまだ挨拶をしていなかったな。
娘のクレイトンだ」
「は、はじめまして。
ブルゴー伯爵。
わたくし、娘のクレイトンと申します」
「娘はブルゴー伯爵に憧れているのです。未熟な娘をお許しくださいませ」
「え? 私ですか?」
「えぇ」
夫人に似て綺麗な顔立ちのご令嬢は、頬を赤く染め俯いていた。
礼も緊張のせいか少しブレているところを夫人が未熟だと仰っているのだろう。
「モリガン様。
皆様にお席をご案内して宜しいですか?」
「あら、私としたことがごめんなさい。
どうぞ皆様、お席へご案内いたします」
テレルが指示を出し、席へとご案内する。
部門長が着席する中、ハインはクレイトン様の前に立ち、手を差し伸べた。
「可愛らしいレディ。
私がお席までエスコートしても?」
「は、はははい!!」
わぉ、騎士様のエスコートなんて女子の夢。
クレイトン様のお顔が真っ赤だ。
お一人で席につくことになるであろう令嬢を気遣った行動、さすがは紳士。
大人の余裕で令嬢を席までエスコートし、ホーエナウ伯爵とご夫人に一礼。
ひらりと体を翻し、自分はテレルに案内され席につく。
その際、目が合った私にウィンクしてきた。
うぐ……惚れてまうやろ。
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