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第一章 縛者の跳躍《スプリング・オブ・バインダー》
12世界樹
しおりを挟む「これは一体……」
目の前の光景に言葉が出ないカイ。
シュミルの言う通りここは山頂なのだろう。
だが、山頂であるにも関わらずその空は見ることが出来なかった。
湖の中心にそびえるその巨大な木が空を覆いつくしているからだ。
カイはその木が生えている湖の中心部分を見る。
其処に土地は無かった。湖に直接その巨大な木が生えているのだ。
その幹もとても太かった。直径が五十メートルにも届きそうなくらい太いのだ。
そんな木の高さは計り知れない。
首が痛くなるほど見上げても頂上を見ることは出来そうに無かった。
はじめて見る木だ。だが、知っている。
何故だか知らないがカイはこの木のことを知っていた。
この木を見ていると懐かしい思いが湧き上がってくる。
この木は――
「――世界樹」
「正確に言えばその若木だけどね」
隣に来たシュミルがカイの言葉に補足を加える。
シュミルもカイと同様、木を見上げていた。
「世界樹の本体は十五年前、世界中がある土地の領有をめぐった国家間の戦争に巻き込まれて焼かれてしまっているからね。これはその世界樹の苗木。世界樹が生み出した自分の子供だよ」
シュミルはそこで言葉を区切ると、湖に向かって歩き出す。
「こういった苗木は世界に六つあるんだ。普通ならばたとえ本体が倒されようとも、この苗木から養分を吸い上げ世界樹本体は再生していくはずだったんだ。だけど――」
「――再生されなかった」
「そう、世界樹は焼かれた後再生しなかったんだ。そもそも、世界樹が焼け落ちること自体ありえないのに、焼け落ちた後再生の兆しが一切ないから、戦争していた国も戦争を中断することになったんだ。今ではその国が協力して世界樹の再生に尽力しているけど効果はほとんどないに等しいみたいだよ。でも、また何かのきっかけで再生するかもしれない。そのときのためにダスバーダ領の領主は定期的に此処を訪れて世界中の苗の状態を確認しているんだ。それが――って、カイ!?どうしたの!?」
湖のふちまで歩いたシュミルはカイを見て驚きの声をあげる。
「え!?」
「何で泣いてるの?」
「……俺が泣いてる?」
カイは自分の目元に手をやる。湿った感触がカイの手に感じられた。
カイは自分でも何で泣いているのかが分からなかった。気づかないうちに泣いていたようだ。
悲しいような、嬉しようなそんな思いがカイの胸で渦巻いていた。
カイは自分が何故このような感情を抱いているのかが分からなかった。だが悪い気はしなかった。
「もしかしたらカイは世界中に関わる仕事をしていたのかもね。もしかして記憶も少しは戻った?」
シュミルはカイが元々世界樹に関わる仕事をしていたのではないかと、そしてその記憶が先ほどの涙に繋がったのではないかと想像する。
記憶喪失にはなっていないカイにとって、その推理は全くといっていいほど見当違いだ。
それがおかしくて笑ってしまう。
「カイ!!何で笑うのさ!!僕おかしなこと言って無いだろ?」
「ごめんごめんシュミル。騙していた俺が悪いんだから。ちゃんと説明するよ。俺は別に記憶喪失になっちゃいないんだよ。俺はな―――」
シュミルなら話しても大丈夫だろうと思い、自分の過去について話す。
孤児だったこと、メルのこと、騎士学校でいじめを受けていたこと。
騙されてダンジョンの奈落に落とされたこと、そして魔道具でできた体になったことまで。
コルアやラディール、ダンジョンマスターについての秘密などラディールを困らせるような話題以外はありのままに伝えた。
魔道具な体になったことについては伝えることに躊躇いがあった。
だが、シュミルならと思い打ち明けることにした。
メルにも打ち明ける勇気が無かったのにシュミルには伝えることにした。
会ってまだ二日とたっていないのに、随分とシュミルのことを信用しているのは、彼の正直な性格と人柄によるものだろう。
全てを伝え終えた後のシュミルの反応は次のようなものだった。
「………騙された」
シュミルは仰向けに寝転がる。
「悪かったな……」
「いいって。カイの事情も分かったし、正直に話してくれたことは嬉しいから。僕は嘘を見抜けなかったことがただ悔しいだけさ」
よっと、という掛け声とともに跳ね起きたシュミルはカイに向け手を差し出す。
「それより、改めてよろしくなカイ」
「……俺が怖くないのか?」
カイの体について何の反応も見せないシュミルにカイは恐る恐る聞く。
「魔道具な体のこと?俺も似たようなもんだから。そのせいで友達もできなかったし……」
「似たような体って……」
カイはシュミルの体を見る。
だが、その体に特におかしなところは見当たらない。
もしかして、カイと同じように魔道具な体になっているのかと思うがそれは無いと否定する。
そもそもマスターの部屋へたどり着くことが困難なのに、たどり着いて更に魔道具な体にされるなんて事態は早々起きはしないだろう。
それならば一体……
「あれ?カイは魔力視できるんだよね?僕を魔力視してみてごらん」
カイは言われたとおりに右目に魔力を込めて魔力を可視化する。
そして絶句する。
「なんだこれ………」
シュミルが見えなかった。シュミルのいる方角は真っ白な光で多い尽くされていたのだ。
シュミルがいるであろう場所を中心に沢山の白い光がリボンのように揺らめきながら放出されていた。
「僕の魔力だよ。自然に流れ出る魔力」
「嘘だろ!?どんだけ濃い魔力なんだよ!?」
魔力を可視化すると半透明のリボンのような状態として映し出される。
それが幾重にも重なったことでシュミルの姿が見えなくなっているのだろう。
「僕の魔力量は宮廷魔道師の千倍は越すと思う。それほどの魔力を保持しているんだ」
カイは再び絶句する。
カイも昔から魔力量が異常だといわれてきた。
その魔力量ゆえに騎士学校へ通うことにもなったのだ。
だがそんなカイの魔力量ですら宮廷魔道師の約二十倍程度なのだ。
「さっき魔力視したときにはなんとも無かったのに」
カイは先ほど――走っているときの事を思い出す。
そのときもシュミルの魔力を右目の魔眼で確認したが今ほど魔力はあふれていなかった。
「うん、魔力をコントロールしていたからね。小さいころから魔力操作の訓練を最低五時間はやっていたから、今となってはこの膨大な魔力を操ることは造作でも無いんだよ」
「すごい操作能力じゃねえか……」
今のシュミルの話が本当ならば、シュミルの魔力操作技術はカイをはるかに上回る。
カイも、魔力操作の訓練は毎日欠かさずやっておりそれなりの操作技術はあると確信しているが、それでも自分のの五十倍もの魔力を操る自身は無かった。
「この魔力量ゆえかな、小さいころから体の隅々に常に魔力が染み込んで勝手に自分の体を強くしていったんだ。おかげで人ではありえないほどの身体能力を保持することになったよ」
シュミルが自嘲気味に話す。
先ほどの山登りで見せた驚異的な身体能力はその魔力量に起因するものだったと聞きカイは納得した表情を浮かべる。
自嘲気味なのはその身体能力が周りとの壁を作ることになったからだろう。
子供なのに大人顔負けの身体能力を発揮してしまえば、周りから恐れられ嫌煙されるきっかけになってしまうからだ。
そういった苦労がシュミルには会ったのだろうとカイは推測する。
「そういうことか。じゃあ俺達は同じだな」
カイは伸ばされたままだったシュミルの手を握る。
「改めましてよろしくシュミル。いい友達になれそうだ」
「こちらこそだよ。よろしくね」
世界樹の葉がゆらゆらと揺れる。
まるで二人のことを祝福しているかのようだった。
******************
「お前はどうするんだ?」
世界樹を背に、崖の上に座りカイはシュミルに尋ねる。
この崖は昨日の夜に見たあの崖のようで、眼下には小さくだが先ほどいた町――ダスバーダ領の中心都市――が見える。
「僕は、何とかお父さんを説得して冒険者になることを許してもらうよ。カイも冒険者になるんだろう?」
「ああ、それ以外選択肢が無いしな。貴族とかに目をつけられないように、目立たないように活動して安定してきたらメルを迎えに行く。そして終極の地を目指すことになるな」
いつかはメルを迎えに行き、打ち明けなければならない。
だが、今はその勇気が無い。だからその勇気を後押しする何かを手に入れたいのだ。
「終極の地か。僕達の最終目的地だからね」
シュミルはそういうと空を見上げる。
理由は分からないが、シュミルも終極の地を目指しているのだ。
その理由をカイは聞いてみたが教えてはくれなかった。
まあ、カイも自分が其処へ行く理由を教えていないので特に気にしていない。
「ああ、だが其処にいくにはお前が説得させるのが前提条件だぞ。俺はそれに関してはほとんど何もできないからな」
地方領主とはいえ貴族の跡取りに関する話題だ。
部外者のカイがおいそれと干渉できる話題ではない。
「うん、任せてよ。なんとしてでもやり遂げて見せるから」
「はははは、頼もしいな。ところで話は変わるがこれからの俺達の予定って決まっているのか?」
「いや、特に決まって無いよ。元々この山は6時間かけて上る予定だったからね。カイが予想外の身体能力を発揮したお陰でその半分で済んだから時間が余っているんだよ」
シュミルがハハハと笑いながらそういう。
どうやら、此処までの道のりは普通であれば六時間近くかかる道のりだったそうだ。
シュミルもカイの身体能力を考慮してゆっくり上る予定だったのだろう。
「ちなみに降りる時間は?」
「そっちも六時間。まあ、帰りも三時間だと仮定して夕飯までには帰りたいから……あと四時間ほど余裕があるね」
「分かった。帰りは俺に名案があるから考えなくていい。つまり合計七時間の時間があるわけだ」
「う、うん。そうだけど………」
「じゃあ訓練だ」
「え!?」
「無詠唱の訓練。昨日お前が習いたいって言っていただろう。此処ならラインさんが来る心配も無いし、思う存分練習できるじゃないか」
カイは自分の周りに光の玉を十個ほど浮かびあがらせて自分の周囲を回転させる。
「覚悟しろよ、俺は甘い指導はしないからな」
カイはそういって笑みを――シュミルから見ると恐ろしく感じるような笑みを浮かべたのだった。
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