【君との夏休み】

一ノ瀬 瞬

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【君との夏休み】

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【君との夏休み】
8月31日 天気???
【今日は記念日だ】と先生が言いました
先生は無邪気に幸せそうに微笑って
ぼくの頭を撫でてくれました

先生に言われてつけていたこの日記
今書いているページの前は見つからなくて
ぼくは先生に破られたのだとわかりました

先生は、ぼくを笑顔にしてくれる
天使様みたいな人
いつも青い鳥のお話を聞かせてくれました
青い鳥なら先生を笑顔に【しあわせ】に

ぼくは、日記を書くのは上手くないから
先生が見ると思うから
書いておこうと思います。

先生はどうして泣いていたのか?
それだけが気がかりです
ぼくは、先生を笑顔にする
【しあわせ】を運ぶ
青い鳥にはなれなかったから

だから…どうか【次】があるなら
次の先生の【雛鳥】になれる子には
先生を【しあわせ】にしてあげてほしいな
なんて思います。

そろそろお迎えが来たようです
先生さようなら。
大好きな、ぼくを愛してくれた先生へ。

⚪︎×より


『……知っていたのかい?雛…。』
もう呼びかけても反応を示さない
小さな体、小さな君が書いた【俺宛の日記】

【青い鳥のように自由に2人で暮らそう】
『だから名前は【雛】
可愛いたった1人の愛しい子』

【8月10日】
皮肉な話だと思う
人間なんて醜くて、誰も彼もが嘘吐きだ
自己の保身や出世のためなら
人を利用し切り捨てる。
そんな醜い世の中に絶望していた
そんな醜い世界に雛が産まれてくれた
俺が長年研究に費やし産まれた【大切な命】
【人工生命】
俺の大切な娘を再現した【新しい命】

上司達がいうには奇跡だと誰もが称賛した
俺の雛ではなく
俺の人工生命を作る技術に執心していた事は
すぐにわかった

目先の利益にしか目がいかない醜い奴等
吐き気と嫌悪の暗闇の中
雛だけが俺の唯一の希望の光になった
これが大事な娘の誕生日の日の事だった

【8月13日】
妻を火事で、娘を事故で亡くした話をした
雛の喜怒哀楽…感情が出せるかの実験だと
上司に言われるがまま話していた

思い出したくもない
大切な宝者を失った話
俺が雛を創ると決めた【そんな日の話】

『…せんせいは、かなしい?ですか』

聞いてくる雛は、まだ何もわからない
赤子のような子なはずなのに
雛は俺に尋ねて涙をポロポロと
その綺麗な青い瞳から流す
涙を流す訳すらわからないのに
なんで暖かいんだろう

『…ぁあ…悲しい。今でも悲しい
また3人の頃に戻れたらなんて思うよ…。
でもね雛…俺は雛のおかげで
こんなにも救われてる…ありがとう
俺なんかのために泣いてくれて』

雛を抱きしめて、小さな鼓動を聞く
体温も暖かくて雛が例え娘を模して
俺が産み出したとしても
この子は娘とは違う【1人の女の子】なんだ
俺は例え何をしてでも
この小さな命を守ると決めた

雛はとても大切な俺の宝者だから。

【8月18日】
ある日【日記を見つけた】
雛が書いた、まだ拙い文字で
雛は全て理解していたのを知った

日記なんて俺以外に見つかりでもしたら
きっと雛は醜い奴らに利用される
それだけ雛が成長する人工生命として有能で
素晴らしいという物としてしか見ない
腐った奴らの材料になるとわかったから

雛が書いた日記は毎日俺が1番最初に読んで
破り捨てることにしていた

雛を誰にも利用なんてさせない
この子はたった1人俺の大切な子なんだから

【8月21日】
今日は研究室から呼び出しをくらった
内容は雛について俺から聞き出すこと
成長実験の結果や成果の報告はし続けていた
雛が産まれて、どんな表情仕草考えを示したか
利用されて奪われてしまうと考えたら
とても恐ろしかったけれど
【雛が処分されること】を避けるには
従って報告するしか無かった

雛が助かるならなんだってしてやるから

【8月25日】
今日は雛の部屋じゃなくて
ベンチに座って日陰で童話を読み聞かせた
娘が好きだった童話しかないけど
雛はいつも読み聞かせの時は笑顔を向けてくれる

俺はその時間が何よりも大切だった
雛と過ごす時間は
俺にとって絶望しかなかった
【夏を塗り替えてくれる】キラキラした
宝石のような毎日だ

雛が前に興味を示した名前の由来
娘が好きで俺に読み聞かせを強請っていた
【しあわせ呼ぶ青い鳥の話】
雛は、まだ発達段階だ
難しい話はわからないけど
理解しようと一生懸命に聞いてくれる姿は
本当に娘のようで
俺はまた雛の前で涙を流していた

雛を守らなきゃいけない

【8月28日】
突然の話に
俺は手に持ったコーヒーを落とした
同僚が目を逸らしながら
【実験体0087】雛の処分を言い渡されたと俺に言ってきた

俺は同僚の胸ぐらを掴み何故だと問い詰めた
同僚は言いにくそうにポツリポツリと話した

雛が俺のいない研究中に
俺以外の研究員を拒んだから
雛が俺以外に対しては感情や行動関心を
示さなかったから

【俺のいない、俺の所為で?】
同僚が言うには
俺のことを嫌っていた上司の1人が
雛には成長の傾向が見られない
俺の報告が偏っていると周りに言ったと言う

相変わらず顔を合わせない同僚は
俺に一枚の紙を手渡した
それは

雛を処分するようにと書かれた
【処分通知書】だった

【8月30日】
……俺はどうしたらいいのだろうか
眠りもせず雛の横で雛を抱きしめ考えた

あれから研究や周りのことには
一切手がつかなかった
雛は、そんな俺のことも心配してくれた

不安そうに頭を撫でて
元気の出るおまじないだと
微笑って教えてくれた

そんなこの子が処分?
ちゃんと此処にいて、鼓動も息もあって
泣くのも微笑うのも全部……。

もう覆ることも
何かを変える事も俺に出来ないなら
せめて。

雛だけを1人では、いかせなどしないない。

【8月31日】

雛の処分が行われた

それは俺の目の前で
俺に雛の最期を見るようにと
ガラス板の向こうには愛しい雛が

雛にこちらは見えない
雛の涙を堪える顔
怖いのだ当たり前なんだ
どうして助けてやれないのだろう

俺は何度も板を叩き叫んだ【やめてくれ】と
手から血が出ようが皮膚が裂け痛みがあろうが
雛が苦しむなら…。

誰の耳にも叫びは届かず
雛は眠らされた後に……。

俺にはそれが理解できなかった
雛が何をしたのだろう?雛は俺達と変わらない
鼓動も息も感情もある生命だ

頽れた俺に
その場にいた研究者達が
【次を楽しみにする】そう言った

次?雛の代わり?俺にまだ【造れ】と?
雛も娘も妻も何もかも失った俺に
たった1人の希望すら目の前で奪われた俺に

次を求める化け物達?

俺は流れていた涙に気づかず

もう誰もいない
雛の小さな体だけがある部屋に入って
失われた温もりを探すように強く抱きしめた
もう温もりを感じることも
もう笑顔も見る事も出来ないけれど

雛を俺と雛が過ごした雛の部屋に連れ帰る
雛を、あんな冷たく固い台の上に
ずっと居させたくなかった

『…ひな…雛…もう微笑いかけてくれない?』

『雛…今日は記念日なんだって言ったろ?』

『雛が初めて俺に反応を示してくれた
あの水槽にいた時から数えていてね
雛が産まれた日は8月10日にしたけど
1ヶ月記念だったんだよ
プレゼントも用意したんだ』

もう冷たい、綺麗な髪に青い鳥のヘアピンを

『星空見たいな青で
雛によく似合うと思ってさ
店員さんに聞くのかなりハードルがあったよ
雛が喜んでくれるのを見つけに行こうって
その店に今度は雛と一緒に行こうって
サプライズしようとしてたんだ』

もう聞こえない君に話す
雛…俺の大事なたった1人の宝者

『雛は次のって書いていたけど
俺は我儘なんだよ雛。お前以外はいない。
だからね雛…先生も側にいさせて。』

雛とお揃いの青い鳥のタイピンをつけて
雛の手を握って頭を撫でる
いつも雛が喜んでいたのを思い出す

『雛…産まれてきてくれてありがとう
俺をしあわせにしてくれたのも
しあわせにしてくれるのも雛しか居ないんだよ』

だから…雛
次また一緒に…そんな願いが叶うなら

『次はしあわせに、一緒に生きようね雛』

俺は笑顔で
メスを引いた
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