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【鳥籠の華と髑髏】姫椿
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花魁 姫椿太夫
直轄妹 小雛
【鳥籠の華と髑髏】
【椿の空鏡】
嗚呼…なんて綺麗なのだろう…。
そう感じたのは私が東雲姉さんの花魁道中を観たあの日から
凛として歩く姿 艶やかな笑顔 揺れる簪
色とりどりの綺麗な着物に包まれた
大好きな姉さんの後ろを歩きながら
前を真っ直ぐと見つめる姉さんに憧れていた
いつか私も姉さんの様な遊郭一の花魁になりたい
そう想って居た無知な子供の私
禿として遊女の色葉を教え込まれて行くうち
私は気づいてしまった
【嗚呼…東雲姉さん…あの笑顔は全部】
《※襖が開き呼び出しに気づく》
嗚呼…如何したんだい…?小雛
此方へおいで…可愛い…わっちの小雛
《※優しく抱きしめて話しかける》
アンタは柔らかくて、小さい…本当に
小さな雛鳥みたいだね…。
わっちはね…アンタを…可愛い小雛を
此の腕の中で抱き締めてる時が一番好きなのさ
アンタの綺麗な黒い髪…首筋…アンタを抱くと
いつも椿の華の香りが漂っていて
アタシはね、アンタを抱き締めてると穢れすら
無くなっていくみたいで癒やされるのさ…。
《※話があると、告げられる》
如何したんだい?改まって…まさか水揚げ…
…は、未だ先立って楼主様が言ってらしたか
じゃあ…何か欲しいものでもあるのかい?
アンタの可愛い笑顔が見られるなら
何だって与えるよ
さぁさ、遠慮しないで言いなんし
《※好きな人ができたと告げられる》
…、小雛…前にも言っただろう?止めときな
アンタは未だ、男を知らない
籠の外を…廓の外を知らないから
夢を観てるだけさ、直ぐに醒める甘い夢をね
…廓の外にはアタシ達は出られないのさ
例え出たとしても…その先に良い未来が
…【良い未来】が有るとは限らないんだよ?
其れに…小雛…アンタの相手は
駆け落ちをする以外方法なんて無い
アンタを身請け出来るほどの御家柄でも無い
アンタは知らないだけなんだ…、
外の空に憧れてる雛鳥なんだよ…。
飛んだ先に何が有るかなんて分かってない
そんな雛鳥だ
だから…だからっ…
《※叩かれて 退けられてしまう》
っ…こ…ひな…。
小雛待ちなんしっ‼︎行ってはダメ…
小雛…っ…小雛ぁあ‼︎
あぁ…あぁ…だめ…だめなのよ…小雛
《※心の声》
無垢な雛鳥の見る空は、憧れる空は
きっと澄んで見えるのだろう
姉さんが【そうだった様に】
廓の外にも…幾人の幾許の相手すらも
自由な場所も幸せも必ず待っているわけでは無いというのに
鳥籠から逃げようとすれば
当然のように羽を摘まれる
足の腱は切られ、2度と走る事…
空へと飛び立つ事は出来ない
好いた相手と一緒になりたいと望んでも
私達は遊女だ、此の鳥籠の商品だ
誰が商品で有る私達を自由にしてくれる?
身請け出来るほどの金子を積める者だけだ
好いた相手と一時側にいられるとして
其れは一生では無いのだから
東雲姉さんは唯笑って私に言った
【恋をしてはいけないよ。
其れは身を壊す焔にしかならないの】
そう言って姉さんは其の日の夜
姉さんを好いて身請けした旦那様の
奉公人と駆け落ちを図った
けれど直ぐに、追い詰められて
2人は帯を固く結び手を強く握り合い
抱き合って、闇夜の水底に沈んで行った
禿だった私が観た最期の姉さんの
あの幸せそうな笑顔
私に【ごめんね】と空言を云い
2人で身投げをしたあの夜
私は全てを悟った逃げ道も幸せも
此の廓に、此の鳥籠の商品になった時点で
無いのだと…。
《※下の騒ぎに気づき楼主に呼び出される》
…嗚呼…楼主様…今参ります
《※悲しげに、涙を堪えながら》
…小雛…。
…えぇ…水揚げ前の事…どうか御寛大な処分を
髪結師に惚れたのでありんしょう…。
小雛は、わっちの下の妹でありんす
処分を受けるならば…わっちも一緒に
どうぞ、金子も幾分か…。これで今回は
まだ水揚げ前の身…傷をつけずに
太夫であるわっちが身に罰を受けましょう
《※なぜ庇うのかと問われる》
…そんなこと。分かっているのは
他ならぬ楼主様でありんしょう…?
わっちの可愛い雛鳥でありんす
ただの…髪結師の甘言に
…誑かされただけ…唯それだけでありんす
事実、楼主様も髪結師の彼の坊やを
問い詰めたのならば、解るはず
此れは唯の【子供の飯事】
わっちの教育不足でありんす
ならば、わっちが責を受けるも罰を受けるも
わっちの責任でありんしょう…
だから…今回だけは…わっちの雛鳥を
どうか、責めないでくださんせ…
《※了解され、部屋に戻るよう言われ
部屋に戻る》
…此れで当分は店を休む事はできないよ?
たっぷり扱かれそうだがね…困った事があれば
いつでもアタシの所へおいで…?
アンタを必ず守ってあげるからね…。
まぁ…其れで一段楽か…アンタが無傷なら
…アタシは其れでよかっ…
《※泣きながら抱きつかれる》
小雛…、どうし…怖かったのかい…?
もう大丈夫…流石に溜め込んどいた金子を
積んで、アタシが可愛がってる小雛を
楼主様も無下にはしないさ…昔から…あの人
…、アタシに謝ってるのかい…?
アタシは怒ってなんかいないよ…?
アンタが無事でよかっ…、
ちゅ…ん…っ…
こ…ひな?…ん。
《※安心させるように抱き締めながら話す》
…大丈夫だよ…小雛…。
アンタが無事で…私も此の体に傷ひとつ
付いちゃいないじゃないか?
アンタが分かって…また、アタシの元に
唯…此の腕の中に戻ってきてくれただけで
其れだけで…アタシには夢みたいな話さ
アンタを…大事な小雛を失わずに済んだ…
それ以上望んだら罰当たりってもんさ
だから。
…ね?泣かないでおくれ小雛…。
またアタシはアンタの、アタシだけの可愛い
可愛い笑顔が見たいのよ…。
だから微笑っておくれ…小雛
アタシはこの身ある限り…
アンタのそばにずっと居るから…。
《※部屋の格子窓から、見える夜空を眺め》
嗚呼…如何か…この身がある限り
私の雛鳥を守れるように…。
此の子が1人でも此の地獄のような鳥籠で
強く生きて咲いていけるように
私は椿の華…椿の華は口堕ちる定めだから
せめて此の子の側にいられる今だけは
此の子の為に…私の全てを
空に浮かぶ月を見上げながら願う
如何か…。如何かと…。私は願い続ける
直轄妹 小雛
【鳥籠の華と髑髏】
【椿の空鏡】
嗚呼…なんて綺麗なのだろう…。
そう感じたのは私が東雲姉さんの花魁道中を観たあの日から
凛として歩く姿 艶やかな笑顔 揺れる簪
色とりどりの綺麗な着物に包まれた
大好きな姉さんの後ろを歩きながら
前を真っ直ぐと見つめる姉さんに憧れていた
いつか私も姉さんの様な遊郭一の花魁になりたい
そう想って居た無知な子供の私
禿として遊女の色葉を教え込まれて行くうち
私は気づいてしまった
【嗚呼…東雲姉さん…あの笑顔は全部】
《※襖が開き呼び出しに気づく》
嗚呼…如何したんだい…?小雛
此方へおいで…可愛い…わっちの小雛
《※優しく抱きしめて話しかける》
アンタは柔らかくて、小さい…本当に
小さな雛鳥みたいだね…。
わっちはね…アンタを…可愛い小雛を
此の腕の中で抱き締めてる時が一番好きなのさ
アンタの綺麗な黒い髪…首筋…アンタを抱くと
いつも椿の華の香りが漂っていて
アタシはね、アンタを抱き締めてると穢れすら
無くなっていくみたいで癒やされるのさ…。
《※話があると、告げられる》
如何したんだい?改まって…まさか水揚げ…
…は、未だ先立って楼主様が言ってらしたか
じゃあ…何か欲しいものでもあるのかい?
アンタの可愛い笑顔が見られるなら
何だって与えるよ
さぁさ、遠慮しないで言いなんし
《※好きな人ができたと告げられる》
…、小雛…前にも言っただろう?止めときな
アンタは未だ、男を知らない
籠の外を…廓の外を知らないから
夢を観てるだけさ、直ぐに醒める甘い夢をね
…廓の外にはアタシ達は出られないのさ
例え出たとしても…その先に良い未来が
…【良い未来】が有るとは限らないんだよ?
其れに…小雛…アンタの相手は
駆け落ちをする以外方法なんて無い
アンタを身請け出来るほどの御家柄でも無い
アンタは知らないだけなんだ…、
外の空に憧れてる雛鳥なんだよ…。
飛んだ先に何が有るかなんて分かってない
そんな雛鳥だ
だから…だからっ…
《※叩かれて 退けられてしまう》
っ…こ…ひな…。
小雛待ちなんしっ‼︎行ってはダメ…
小雛…っ…小雛ぁあ‼︎
あぁ…あぁ…だめ…だめなのよ…小雛
《※心の声》
無垢な雛鳥の見る空は、憧れる空は
きっと澄んで見えるのだろう
姉さんが【そうだった様に】
廓の外にも…幾人の幾許の相手すらも
自由な場所も幸せも必ず待っているわけでは無いというのに
鳥籠から逃げようとすれば
当然のように羽を摘まれる
足の腱は切られ、2度と走る事…
空へと飛び立つ事は出来ない
好いた相手と一緒になりたいと望んでも
私達は遊女だ、此の鳥籠の商品だ
誰が商品で有る私達を自由にしてくれる?
身請け出来るほどの金子を積める者だけだ
好いた相手と一時側にいられるとして
其れは一生では無いのだから
東雲姉さんは唯笑って私に言った
【恋をしてはいけないよ。
其れは身を壊す焔にしかならないの】
そう言って姉さんは其の日の夜
姉さんを好いて身請けした旦那様の
奉公人と駆け落ちを図った
けれど直ぐに、追い詰められて
2人は帯を固く結び手を強く握り合い
抱き合って、闇夜の水底に沈んで行った
禿だった私が観た最期の姉さんの
あの幸せそうな笑顔
私に【ごめんね】と空言を云い
2人で身投げをしたあの夜
私は全てを悟った逃げ道も幸せも
此の廓に、此の鳥籠の商品になった時点で
無いのだと…。
《※下の騒ぎに気づき楼主に呼び出される》
…嗚呼…楼主様…今参ります
《※悲しげに、涙を堪えながら》
…小雛…。
…えぇ…水揚げ前の事…どうか御寛大な処分を
髪結師に惚れたのでありんしょう…。
小雛は、わっちの下の妹でありんす
処分を受けるならば…わっちも一緒に
どうぞ、金子も幾分か…。これで今回は
まだ水揚げ前の身…傷をつけずに
太夫であるわっちが身に罰を受けましょう
《※なぜ庇うのかと問われる》
…そんなこと。分かっているのは
他ならぬ楼主様でありんしょう…?
わっちの可愛い雛鳥でありんす
ただの…髪結師の甘言に
…誑かされただけ…唯それだけでありんす
事実、楼主様も髪結師の彼の坊やを
問い詰めたのならば、解るはず
此れは唯の【子供の飯事】
わっちの教育不足でありんす
ならば、わっちが責を受けるも罰を受けるも
わっちの責任でありんしょう…
だから…今回だけは…わっちの雛鳥を
どうか、責めないでくださんせ…
《※了解され、部屋に戻るよう言われ
部屋に戻る》
…此れで当分は店を休む事はできないよ?
たっぷり扱かれそうだがね…困った事があれば
いつでもアタシの所へおいで…?
アンタを必ず守ってあげるからね…。
まぁ…其れで一段楽か…アンタが無傷なら
…アタシは其れでよかっ…
《※泣きながら抱きつかれる》
小雛…、どうし…怖かったのかい…?
もう大丈夫…流石に溜め込んどいた金子を
積んで、アタシが可愛がってる小雛を
楼主様も無下にはしないさ…昔から…あの人
…、アタシに謝ってるのかい…?
アタシは怒ってなんかいないよ…?
アンタが無事でよかっ…、
ちゅ…ん…っ…
こ…ひな?…ん。
《※安心させるように抱き締めながら話す》
…大丈夫だよ…小雛…。
アンタが無事で…私も此の体に傷ひとつ
付いちゃいないじゃないか?
アンタが分かって…また、アタシの元に
唯…此の腕の中に戻ってきてくれただけで
其れだけで…アタシには夢みたいな話さ
アンタを…大事な小雛を失わずに済んだ…
それ以上望んだら罰当たりってもんさ
だから。
…ね?泣かないでおくれ小雛…。
またアタシはアンタの、アタシだけの可愛い
可愛い笑顔が見たいのよ…。
だから微笑っておくれ…小雛
アタシはこの身ある限り…
アンタのそばにずっと居るから…。
《※部屋の格子窓から、見える夜空を眺め》
嗚呼…如何か…この身がある限り
私の雛鳥を守れるように…。
此の子が1人でも此の地獄のような鳥籠で
強く生きて咲いていけるように
私は椿の華…椿の華は口堕ちる定めだから
せめて此の子の側にいられる今だけは
此の子の為に…私の全てを
空に浮かぶ月を見上げながら願う
如何か…。如何かと…。私は願い続ける
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