5 / 12
ご
しおりを挟む「あ、ありがとうございました」
リリィが去った後、私は茶色い髪の男性にお礼を言った。
「ああ、助けになったのなら良かった。お二人の会話が聞こえてきて、貴女が困っているようだったので……かえって余計な口を挟んでしまったかと不安でしたが。……良かったです……」
「はい。助かりました」
「盗み聞きするつもりは無かったのですが、貴族には戻りたくないと……。本当に?」
「そうです。色々とあって、実家とは縁を切りたいんです。お願いです。どうかこのまま私と恋人って事にしてもらえませんか?私……連れ戻されることだけは避けたいんです」
「ええ、それはもちろん。僕が言い出したことですから」
彼は不自然に言葉を切り、そして小さく息を吐いた。
「それで、えっと……レオナさんの心配事が解決したら、本当に僕と付き合ってもらえませんか?」
「えっ?」
冗談かと思って彼の顔を見るけど、その目は真摯に私に向けられている。
徐々に顔に熱が集まり赤いのが分かる。
「わ、わたしなんか……」
こんなに間近で男の人に見つめられることには慣れてなくて……恥ずかしくて目を伏せた。
化粧っ気も無くて、地味なわたしをどうして?
「僕はずっとレオナさんのことが良いなって思ってて……。一度デートに誘おうと思ってました。あの図書館、座って無駄話してて働かない人が多いでしょ?でも、レオナさんが来てから雰囲気が変わって。一人で一生懸命働いているのが印象的だったんです。普通そういう時、人って大概不機嫌になったり、サボってる人に文句を言ったりすると思うんです。でも貴女にはそういう所が無くて……。他の人がサボっててもいつも自分の仕事だけに集中してて、そういう所が好ましいなって。いつからかレオナさんに会うのを楽しみに図書館に通うようになっていました。だから、僕と結婚を前提に付き合って欲しいんです」
「私で……本当に良いのですか?」
「はい。でも、本当に貴女の気持ちが整理出来てからで構いませんよ。僕はいつまでも待ちますから」
彼の誠実な告白に心を動かされ、私は彼の申し出を受け入れた。
それから私達は互いに自己紹介をした。
彼の名前はグレッグ・メエリタ。
近くの貸家に独り暮らししているそうだ。仕事はまだしていなくて、いつか事業を起こすために今は勉強中らしい。
「私はレオナです。レオナ・アウァールス。一応男爵家の生まれなんですけど、家を出てきたんです」
グレッグさんは誠実で親身になって私の身の上話を聞いてくれた。
私は安心して彼に今までのことやトラウマになっていることを話した。
母親から一人だけ暴行されていたこと。
腕に残る傷跡も見せた。
私は母親に偏屈者として扱われ、碌な教育も受けていないこと。
そして、他の家族は私の受けていた仕打ちを知らないことも……。
人見知りだったのに、何故か彼には何でも話せた。彼の眼差しは温かで、相槌を打つ声は優しかった。
「そう……だったんですか」
「私ね、男爵令嬢なのに、ちゃんとした躾をされていないの。だから、マナーとか何も知らないし迷惑を掛けるかもしれないわ。母と妹からは身だしなみの整え方も知らないって……」
「大丈夫です。そのままのレオナさんで。僕と一緒にゆっくりとやりたい事を見つけましょう」
急かさない言葉が嬉しかった。
だから、彼となら人生をやり直せると思った。
192
お気に入りに追加
2,945
あなたにおすすめの小説
わたくしのせいではありませんでした
霜月零
恋愛
「すべて、わたくしが悪いのです。
わたくしが存在したことが悪かったのです……」
最愛のケビン殿下に婚約解消を申し出られ、心を壊したルビディア侯爵令嬢。
日々、この世界から消えてしまいたいと願い、ついにその願いが叶えられかけた時、前世の記憶がよみがえる。
――すべては、ルビディアのせいではなかった。
※他サイトにも掲載中です。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる