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お人好しメイド
しおりを挟むチャンドラー伯爵は身の回りの事は自分でする人で、自分の世話をするメイドは置かなかった。
いつも険しい表情で忙しそうに仕事をしている仕事人間って感じ。私たちメイドと話すことなんて殆ど無い。
ただ、時折強烈な視線を感じることがある。
田舎訛が酷いと思われているのかな?
チャンドラー伯爵が美女に囲まれて酒池肉林を繰り広げてるって噂は嘘だったみたい。
確かメイドが薬漬けにされたってのは本当だって聞いたけど……。村に住む人の娘さんが療養院で働いていて、その薬漬けにされたメイドさんを見たそうだ。
領主邸には思ったより大勢の人が住み込みで働いていて人の出入りも多かった。チャンドラー伯爵が設立した商会に働く人や、領主運営に関わっている秘書官や私設警備官たち。
私たちメイドの仕事は掃除や洗濯が殆どだけど、とにかく部屋の数が多くて大変だった。
「リリアーナ、応接間の掃除は終わったの?」
「リリアーナ!別棟のシーツの回収は終わった?え?まだなの?愚図ね!早くして」
先輩メイドたちは少し怖いけど、それは仕方が無いと割り切っていた。領主邸のメイドなんて普通は女性の憧れの仕事。中には男爵家や子爵家の令嬢だっている。
みんな美しくて洗練されていて、私だけがちょっと浮いた存在だった。平民育ちで田舎訛の私となんて令嬢たちは仲良くしたくないだろうと思う。
もちろん平民のメイドもいた。平民で年の近いメイド3人とは仲良くなった。他にも庭師のおじさんとか、警備官にも親切な人がいて、時折会話するようになった。
朝起きると鏡を見て笑顔の練習をする。
平気、平気、私は元気だし大丈夫。
お母さんに言われた通り笑顔を絶やさないように、今日も頑張るんだ。
~・~・~・~・~
領主邸に来て半年が過ぎた頃、同僚のニナが泣きそうになりながら私のところへ相談に来た。
「リリアーナ、どうしよう。エントランスに飾ってあった花瓶を落として割っちゃたの」
「え?」
「私、きっと暇を出されるわ、もうおしまいよっ……」
泣きじゃくっているニナを宥めながら話を聞いた。
「きっと大丈夫。正直に謝ったら?」
「実は……私、前にも何回か調度品を壊していて、次は無いって言われてたの」
ニナは少しそそっかしい。力も無くて手荒れもしやすいから力仕事や水仕事は頼まれるとよく代わってあげていた。
ニナは一つ年下で少し甘えん坊だから妹みたいに思っていた。そのニナがこんなに泣いて……可哀想。
「でも、正直に話すしか……。私も一緒に謝りに行ってあげるわ」
そう言ってもニナの表情は晴れない。顔を覗き込むと唇が真っ青になっていて小刻みに震えていた。
「お、お願い。リリアーナが花瓶を割った事にして欲しいの」
「え?」
さすがにそれは……。
「初めて調度品を壊した時は私もそんなに怒られ無かったもの。だからリリアーナならきっと大丈夫だと思う」
ニナは涙を流しながら必死に頭を下げてきた。
こんなに必死の懇願を私は断ることが出来ない。
「分かったわ。旦那様に謝ってくるわね」
そう言うとニナは私に抱きついてきた。
「リリアーナありがとう。やっぱり頼りになる。大好き!」
もう、しょうがないなー。
甘ったれだけど、可愛いニナ。
ニナのために一肌脱ぐか……。
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