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18,それから(終)

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「うん?どうした?珍しいな。執務室まで来るなんて。」

珍しく執務中に「話があるから訪室したい」とケイトから先触れが届いて待っていると、はにかんだような複雑な面持ちでケイトが入ってきた。

「陛下、今日…昼食中に気分が悪くなりまして………。」

「毒か?何を呑気に。診察は受けたのか?」
驚いて思わず立ち上がる。

「……。」 
「いいえ。毒では無くて、その……。」
「…??」
「…その…赤ちゃんが………。」
「……。懐妊したのか?」
「……ええ。」
「……。」

嬉しい、勿論嬉しいのだが何て声を掛けたら良いのだろう。でかした!は変だし、おめでとうも違うような気がする。
迷って声を掛けられずにいると、ケイトが不安げな表情で私を見ていた。

「喜んでくださいますか?」
「勿論。どう声を掛けようか迷って一緒詰まってしまった。嬉しいよ。」
「良かった。」
「触っても?」
「ええ。」
ケイトのお腹をそっと撫でる。
このお腹に新しい命が宿っていると思うと感慨深い。
「出産は身体に大変な負担がかかると聞く。公務を減らそう。それと、君が気兼ね無く産めるように女性の王位継承も進めたい。」
「ええ。」
「調べると、他国の王配を巡る争いも熾烈な物だ。法を急いで整備したい。今度グレンシア辺境伯が来て相談する事になっている。君も同席してくれ。勿論体調が最優先だが…。」
話をすると、やらなければならないことの多さに愕然とする。
それでもやらねば。
私は執務に戻り、愛するひとと我が子を守るためにやることを整理し始めた。


★☆★


「……まだか?」
「はい、まだでございます。」

・・・・・

・・・・・

「ケイトは大丈夫か?」
「はい、大丈夫でございます。」

・・・・・
・・・・・

「時間がかかり過ぎているのではないか?」
「陛下!初産は時間がかかるものにございます。」

・・・・・

ぉんぎゃあ…おんぎゃあ、おんぎゃあ、

「!!!!」

ガチャリ

「陛下、おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」
「…ありがとう。…中へ入っても?」
「後処置がありますので、もう暫くお待ちください。」

・・・・・

忙しなく室内を歩いて待っていると、女官長が呼びに来て室内へと案内された。

「ケイト、…ありがとう。」

私を見てケイトはふんわりと柔らかく笑った。
疲れているに違いないが、その表情は達成感に満ちて満足そうだ。
ケイトの胸には産まれたばかりの赤ん坊がおくるみに包まれてスヤスヤと眠っている。

「テオ…見て可愛い。」

ケイトの胸で眠る赤ん坊はびっくりするほど小さくて壊れてしまいそうだ。
手をギュッと握り締め、口元がむにゃむにゃ動いている。その薄い唇がとても愛らしい。

「可愛いな……。」

家族のために頑張れる私は何て幸せなのだろう。

「ケイト、愛してるよ。」

ケイトの頬にキスをすると、彼女は擽ったそうに目を細めて笑う。

私の好きで好きで堪らなかった笑顔がここにある。
愛の言葉が彼女に真っ直ぐに届く。
それだけの事がこんなにも嬉しい。
    
ケイト視点

すっかり仲良くなったレイダ親子を招いてお茶会をたのしんでいる。

レイダ様はパトリック様と結婚され、フスタス伯爵婦人となった。
レイダ様の息子アーサーは、私達の息子のイフューの一つ年下の四歳だ。

アーサーとイフューは庭園の向こうでかけっこをしていて、子供特有の甲高い声が響いている。

レイダ様は以外とお喋り好きで、私はパトリック様の惚気をかれこれ一時間近く聞いている。

私の膝には二歳になったばかりのレティがクッキーを頬張ってご満悦だ。

「おかあさま、僕かけっこ勝ったよ!」
イフューは嬉しそうに報告しながら此方に向かって駆けてくる。
「アーサーは年下だからね。」

アーサーはレイダの元へ戻ってくるなり、ピョンと膝に座っている。
「おかあさま、イフュー様に負けちゃった。」
「残念だったね。」
レイダに慰められ、アーサーはニコニコしている。 

「あっ!おとうさま!」

執務が一段落したのか、陛下が此方に向かって歩いてきた。
陛下は私の頬にキスをすると、隣の席に座る。
「私も一緒にいいかい?」
それを見て、イフューが頬を膨らませて文句言いたげだ。
「レティとおとうさまばっかりずるい。僕、おかあさまのお膝に乗る。」
駄々を捏ねると長いので、レティを陛下の膝へ預けイフューを抱っこするとイフューは満足した様子だ。
「これも一種の嫉妬だね。ケイトは怖いかい?」
陛下にそう言われ、イフューの可愛らしいやきもちが嫉妬の一種であることに気が付いた。
「いいえ。怖くないわ。」
「そう、なら良かった。」
陛下は私を見て柔らかく微笑む。その目には確かに愛情が宿っている。大好きな笑顔だ。

「あっちで、けんたつごっこしようぜ!」
「おー。」

抱っこに飽きたのか、イフューとアーサーは再び向こうに走って行ってしまった。

「けんたつごっこって?」
「剣の達人ごっこだって。必殺技の名前を考えて勝負するみたいよー。」
「ははは、楽しそうだな。」

「トリプルミラクルアタックー!!」
「ローリングストリームサークル!!」

イフューとアーサーの考えた必殺技の名前が聞こえてくる。
「あれはどうやって勝敗が決まるんだ?」
テオが尤もな事を言って頭を捻っている。

その声を聞きながら、三人で笑い合う。

子供が生まれてから、感情豊かな子供たちに引きずられるように、私もよく笑い、よく怒るようになった。
子供たちに甘いテオに文句を言う事もある。
それでも、怒る私をテオは嬉しそうに眺めている。

この感情はテオと子どもたちが私に取り戻してくれた物だ。だから怒っていても、泣いていても、疲れていても幸せだと思える。

テオの顔を見る。
感情を失くしていた頃には感じなかった愛しさ。この人を守りたいと強く思う。
きっとテオも同じ思いでいるのだろう。 
だからこそ、雑多で大変な毎日をより良く生きようと思うのだ。
貴方がいるから。
(完)
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