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17,庭園にて
しおりを挟む離宮から戻ってから初めて二人で庭園を散歩した。
私は眩しさに少し目を細め、庭園を見回して、スゥーっと大きく息を吸い込む。
「庭園ってこんなに葉っぱの匂いがするのね。いつも来てたのに気付かなかったわ。」
陛下も私と同じように大きく息を吸い込む。
風が肌を撫でるように吹いて、緑の匂いを運んでくる。
小鳥の囀ずりも木々のざわめきも、何だか無性に懐かしくてツンとする。
「いつも、とりさん達こんなに鳴いていたかしら?」
耳を澄ませば小鳥の囀ずりが心地よく響く。
「意識しないと聞こえないものだね。」
「ねぇテオ、私こんなに庭園が美しいなんて忘れていたわ。ずっと美しさもとりさん達の可愛さも、この濃い木々の匂いも、何も感じずに過ごしていたの。」
「そうだね。今の君は別人のように表情豊かだ。」
「私も嬉しい。テオと過ごすとこんなにも全てが色付いて見えるなんて。歌い出したいくらい気分が良いわ。」
「歌えば良い。昔は良く歌っていたよ。」
「もうっ!今では淑女だわ。しないわよ!」
「ははは、昔のケイトが戻ってきたようで、嬉しくて揶揄ってしまった。」
昔の私のよう?
テオも幼い頃に一緒に過ごした日々を大切に思っていてくれたのだろうか?
「テオも昔の事懐かしく思っていてくれたの?」
「勿論、思い出さない日は無かった。ケイトはこの庭園に来ると眩しそうに笑うんだ。その笑顔が大好きだったよ。」
テオはずっと私の事を好きでいてくれた。嬉しくて胸がいっぱいになる。
抱えきれない喜びで胸が押し潰されそう。
「私、少し気取ってエスコートするあなたが大好きだったわ。」
「気取ってたかな?」
「ええ。不思議ね。こんなにも簡単に思い出せるのに…ずっと思い出さなかったの。何にも感じないように心に蓋をしていたのね。」
「うん。」
「セリーヌ様のね、気持ちが少し解るの。周りが見えなくなる程の恋。ねぇ、嫉妬に狂ったら私もあんな風になるのかしら?だんだんテオへの思いが強くなるようで少し怖いわ。」
「ならないよ。きっと君はまた感情を失くしてしまうんだろう。そんな事にはさせない。グレンシア辺境伯の協力も取り付けた。側室制度は廃止してみせるよ。」
陛下の目は力強く確かな意志を宿している。
ふと視線を移すと入り口から陛下の護衛のラッドが此方に歩いて来ているのが見えた。
彼は陛下の腹心だ。
特に気を遣う必要は無いのだが、自然と口調が皇后としてのものに変わる。
「陛下、わたくしもレイダ様と協力して私の嫌がらせに協力した貴族の皆様の中でも取り込めそうな方は取り込んでいきます。数は力ですもの。」
「君に嫌がらせした?大丈夫なのかい?」
陛下は不安げに私を見ている。
「逆らえ無かった人たちだけを。二心のある方は避けます。わたくし、随分腑抜けておりましたから、皆様警戒しておりませんのよ。レイダ様も後宮では裏事情を目撃されていて、色々と詳しいの。わたくしたちの事は皆が侮っております故、動き易いですわ。」
「まあそうだね。君が賢く立ち回るなんて様は想像出来ないよ。」
陛下はまだ不安そうだが、私の意見を尊重してくれるようだ。
「本当に。お蔭で警戒されなくて。賛同を得られた奥方様の名簿はお渡ししますので、吟味してくださいませ。」
「分かった。」
「それと、レイダ様がヒットン伯爵婦人のお茶会に招かれましたの。悪い噂も聞きませんし、表面上はとても友好的ですわ。でも、家柄としては正妃を望めませんし、側室制度の廃止に賛成だとも思えませんの。」
陛下は少し考えると
「そうだね。調べてみるよ。」
そう返事すると、表情を引き締めた。
少しずつ、私も出来る事をしていきたい。私達とこれから産まれる子供のためにも。
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