夫の裏切りの果てに

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 (セイディ視点)


 子供たちの成長と共に忙しい日々はあっという間に過ぎていく。
 相変わらず優しい彼と家族で過ごす時間は穏やか。彼は良い父親で子育てにも熱心。メリッサとのことを除けば、レオは完璧な夫だった。

 私自身も国内の貴族との関係も良くなり、国民からも受け入れられてきたように感じる。

「そう言えばメリッサ様を最近みかけませんねー」

 お茶会への案内状を確認していたティファがふと手を止めて考えるような仕草をした。

「そうなの?」

 紅茶を飲んでいた私はカップを置いて、最後に会ったのはいつだったかしら、なんて考えてみる。

 多忙な日々の中、私はメリッサの存在を忘れていた。多分まだレオとの関係は続いているのだろうけど、あまり興味は無い。

「ええ、最近は殿下も忙しいですし、何してるんでしょうね?」

 彼女は何歳になったのだろう?
 側室も無理だし、そろそろ本気で結婚相手を探した方が良いと思う。

「結婚出来るような相手との出逢いがあるといいわね」

「セイディ様、優しいですね」

「……可哀想だもの」
 
 レオとの閨はずっと拒否したまま。それでも私たちは夫婦らしくかった。レオは私と子供を優先させてくれていたし、私がメリッサを気に掛ける必要はない。

 レオに愛妾が居ると知った時のような胸の痛みはもうない。それでも、ぽっかりと空いた心の空洞は、子供たちが埋めてくれていた。



 ☆



「セイディ様、あの、……メリッサ様が社交界で自分が殿下の愛妾だったと噂を広めたらしくて……たまたま噂を聞いてしまったルー様とフィオ様がショックを受けております」

「そんな……」

 最近王宮で見ないと思っていたら、彼女はレオと別れて実家に戻っていたようだ。
 フィオは十歳、ルーは六歳。
 父親のこんな醜聞を聞いて、悲しい気持ちになっているだろう。
 私は私室に二人を呼び出した。

「お母様とお父様は政略で仕方なく結婚したのですか?」
 
 怒っているのはフィオ。
 ルーはフィオの後ろで黙って話を聞いていた。
 まだよく分からないのかもしれない。

「政略結婚ではあったけど、嫌では無かったわ。それはお父様も同じだと思うの」

「お父様は他にも恋人がいたんでしょ?お母様が二人を引き離したって……。愛妾が居るなんて不潔っ。お父様なんて大嫌いっ」

 多感な年齢になったフィオは、怒りが収まらないらしい。私は二人を抱き締めた。気持ちがちゃんと伝わるよう、言葉に力を篭める。

「少なくとも私はお父様だけを愛しているの。私にとって好きになった人は生涯たった一人。お父様だけよ。その気持ちに誇りを持ってる、本当よ。そしてそんなお父様と結婚出来て、フィオとルーを授かったことは幸せだと思っているわ。あなた達にも堂々と胸を張って欲しいの」

 真実を言う。
 決して後悔なんてしない。してやるものか。
 嫉妬や悔しさに、復讐に、心を囚われたりはしない。

「お母様はそんな人と結婚して本当に幸せなの?」

 疑うような眼差しでフィオが聞いた。

「ええ、誓うわ。お父様が大好きだもの。少し弱い所を含めて、よ。そしてフィオとルーがそばに居てくれて本当に嬉しいの」

 何度も何度も繰り返した。
 私は今でもレオが好きだし、彼を支えたいと思う。
 彼が私に見せてくれる笑顔をわざわざ嘘だなんて疑わない。


 私は子供たちにこの事をお父様には言わないよう口止めした。
 幼いけれど、彼らも王族。ここに住む以上、これからもたくさんの悪意ある噂を耳にするだろう。そんな噂話にいちいち心を惑わされてはならないのだから。

「目の前に居る、私とお父様を見なさい。そして真実は自分で判断するの」

 それきり。
 子供たちはもう何も言わなかった。フィオとルーが、レオに対する態度を変えることは無かった。

 メリッサを思う。
 彼女は醜い感情に支配されてしまった。今でも闇の中彷徨っているのだろう。
 気の毒な人。
 彼女がどんなに私を憎んでも、私には後ろめたいことなんて何も無いのだから。まっすぐ前を向いて立っていよう。


 そんな中、バッカス帝国の皇帝が病に伏せっているという噂が流れた。絶対的な独裁者が後継者を指名していない中、隣国の治安は悪化している。
 私は何だか嫌な予感がしていた。


    
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