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しおりを挟む大昔、恋をした魔女が戒律を破り国に大災害を齎した。
それ以来、魔女にはずっと秘密の魔法が伝わっている。それが恋心を封じる魔法。しかし、実際は恋心を失うだけで無く、感情の幅が狭くなってしまうそうだ。
本来、感情を操作する魔法は禁忌。身体には計り知れない負担がかかる。
病はジニアの身体を蝕んでいて、もうすでに手の施しようがなかった。
彼女は屋敷から自分の荷物を全て引き上げて、さっさと郊外の別荘に移り住んでしまった。
まるで、俺になんの未練もないかのように。
俺は面会を禁止された。
もう会いたくも無いというふうに、手紙を書いても返事が無い。
俺は彼女の身の回りの世話をする侍女に彼女の様子を報告するように頼んだ。
死まで遺された最期の時間はゆっくりと優しく流れていった。ジニアは死への恐怖も寂しさもなく、いつも微笑んでいたそうだ。
「新しく迎える奥様が私の荷物を見るのは気分が良く無いでしょう?」
そう言って彼女は私物を全て処分した。
残されたのは抜け殻になった屋敷と俺。
彼女が亡くなったと連絡を受け、駆け付けるとランディーが母親の手を握っていた。ランディーだけは面会を許されていたそうだ。痩せこけたジニアはとても穏やかに笑っていて……。
まるで俺から開放されたのを喜んでいるみたいだった。
遺品整理をしていると、愛用していた机から手紙と古びた日記が出てきた。
日記を広げると僅かに彼女の香水の匂いがして、胸が締め付けられる。
少し丸みのある整った文字。
魔女の森に行く前の日記は豊かな感情がそのまま書き連ねられていた。そこには俺への恋心も、その切なさも自分に芽生える醜い感情も、全てが記されていた。
魔女の森に行った日の日記は一行だけ。
「魔女の魔法で私の世界が色褪せてしまった」そう掠れた文字で書かれていた。
三日後から再開された君の日記はまるで報告書のようで。事実だけが淡々と書いてある。
家族旅行の記述。
花が満開だった事。その種類。
何を食べて、何が美味しかったか。
その記述に感情は篭もらない。
誰よりも俺を好きだった君の、花の咲くような笑顔を思い出す。
君の最期の手紙
「私の事は忘れて、自由な恋をしてください」
涙が溢れた。
誰よりも大切だったことに気付かず、俺が傷つけた。
俺は、君に何をしてあげられたのだろう。君の世界から色彩を奪った俺は……。
繰り返し思い出すあの笑顔。
ああ、初めて分かった。
俺はあの屈託のない笑顔に恋してたんだ。
そして、俺は君の居ない世界をずっと後悔しながら生きていく。
※こんな終わり方でごめんなさい。次はジニア視点。
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