5 / 20
庭園での約束
しおりを挟む
サーフィス様に庭園を案内して貰った。
彼は花のこととなると嬉々として説明してくれる。
私はそんな彼を懐かしい気持ちで眺めていた。
私も色々な事を喋った。
主に、サーフィス様が数年後私に教えてくれる内容だ。
「サーフィス様、遠く離れた北東の地にネリング王国という国があるのをご存知ですか?」
「名前は聞いた事があるけど………。」
「ネリング王国という国は芸術の国って言われているんです。いつか一緒に行ってみたいですね。」
前世で彼が新婚旅行に行こうと提案してくれた。
「ネリング王国ではオペラという歌劇が盛んなのだとか。」
「オペラ?」
僅かに首を傾げる。サーフィス様のプラチナブロンドの髪がさらりと肩から落ちた。
「歌手が楽器の演奏で歌を歌いながら進行する演劇のようですよ?舞台の意匠も素晴らしいのだとか。違うジャンルの芸術家達が、台本に沿って造り上げるなんて、きっとサーフィス様は好きそうだと思って。」
「オペラか………。見てみたいな。」
「それから、ネリング王国には沢山の荘厳な建造物があるそうですわ。何百年にもわたり平和な時代が続いていて、昔造られた美しい様式の建築物が未だに残っていて、観光地になっているそうです。」
「へー、平和な国なんだね。……うん!僕調べてみるよ。いつか、一緒に行こう。」
少し幼さの残る笑顔を見つめる。
「ミアさんは年下なのに、しっかりしてて凄いな。」
「いいえ、そんなこと………。」
全てサーフィス様に教えて貰ったことばかりです。
「僕は好きなことばかりしてて……。もっと見聞を広げないと……。いつか、ミアさんに頼って貰えるように頑張るよ。」
そう言って私の顔を見てくれるサーフィス様はいつになく力強い目をしていた。
彼は兄と自分を比べて、人付き合いの苦手な自分を恥じていた。けれど、一旦目標を持つと、桁外れの集中力と粘り強さを持っていることを知っている。
何かが違っていたらきっと彼は凄い政務官になれると思っていた。
ネリング王国の事を初めて教えてくれた時、彼が悔しそうに呟いたのが聞こえた。
「もっと早くネリング王国の事を知りたかったな。」
彼のそんな表情は珍しいので印象に残っていた。
サーフィス様はネリング王国の事を話す時、いつも生き生きしていた。
いつもの憂いのある諦めたような笑顔じゃなく、それは心からの笑顔。
だから、私は彼にネリング王国の事を早く教えてあげたかった。
彼が少しでも希望を持って毎日を過ごしてくれればと思って伝えたのだが、それがあんなにも彼を変えるとはその時は想像もしていなかった。
庭園の案内も終わった頃には、彼はすっかり打ち解けて別れを惜しんでくれた。
「僕、ミアさんと婚約出来て良かった。嬉しいよ。」
「はい。ありがとうございます。」
彼の笑顔はふんわりしていて、優しさが滲み出ている。
「僕ね、庭園の案内をしててこんなに一生懸命聞いてくれる人は初めてだったよ。」
それは………サーフィス様が楽しそうにお花の説明をするのが嬉しかったから。
「ありがとう。ミアさん。」
「私も、サーフィス様との婚約は嬉しいです。」
サーフィス様の顔をみてニッコリ笑うと彼は目を丸くして驚いていた。
何をそんなに驚くのだろうと、その顔をじっと見ていたら、みるみる涙が目に溜まるのが見えた。
「僕、…そんな風に言ってくれるなんて思ってなくて……嬉しくて………。本当は少し怖かったんだ。また婚約者に嫌われたらどうしようって……。」
涙ぐんで、私の肩口に顔を埋めてしまった。
恥ずかしくて、離れて欲しくて彼の肩をそっと押すけど、彼はふるふると首を振って顔を上げようとはしなかった。
それでも、暫くして顔を上げた彼は、
「今度ミアさんに会う時は、もう少し男らしくなってるように頑張るよ。」
そう爽やかに宣言してみせた。
彼は花のこととなると嬉々として説明してくれる。
私はそんな彼を懐かしい気持ちで眺めていた。
私も色々な事を喋った。
主に、サーフィス様が数年後私に教えてくれる内容だ。
「サーフィス様、遠く離れた北東の地にネリング王国という国があるのをご存知ですか?」
「名前は聞いた事があるけど………。」
「ネリング王国という国は芸術の国って言われているんです。いつか一緒に行ってみたいですね。」
前世で彼が新婚旅行に行こうと提案してくれた。
「ネリング王国ではオペラという歌劇が盛んなのだとか。」
「オペラ?」
僅かに首を傾げる。サーフィス様のプラチナブロンドの髪がさらりと肩から落ちた。
「歌手が楽器の演奏で歌を歌いながら進行する演劇のようですよ?舞台の意匠も素晴らしいのだとか。違うジャンルの芸術家達が、台本に沿って造り上げるなんて、きっとサーフィス様は好きそうだと思って。」
「オペラか………。見てみたいな。」
「それから、ネリング王国には沢山の荘厳な建造物があるそうですわ。何百年にもわたり平和な時代が続いていて、昔造られた美しい様式の建築物が未だに残っていて、観光地になっているそうです。」
「へー、平和な国なんだね。……うん!僕調べてみるよ。いつか、一緒に行こう。」
少し幼さの残る笑顔を見つめる。
「ミアさんは年下なのに、しっかりしてて凄いな。」
「いいえ、そんなこと………。」
全てサーフィス様に教えて貰ったことばかりです。
「僕は好きなことばかりしてて……。もっと見聞を広げないと……。いつか、ミアさんに頼って貰えるように頑張るよ。」
そう言って私の顔を見てくれるサーフィス様はいつになく力強い目をしていた。
彼は兄と自分を比べて、人付き合いの苦手な自分を恥じていた。けれど、一旦目標を持つと、桁外れの集中力と粘り強さを持っていることを知っている。
何かが違っていたらきっと彼は凄い政務官になれると思っていた。
ネリング王国の事を初めて教えてくれた時、彼が悔しそうに呟いたのが聞こえた。
「もっと早くネリング王国の事を知りたかったな。」
彼のそんな表情は珍しいので印象に残っていた。
サーフィス様はネリング王国の事を話す時、いつも生き生きしていた。
いつもの憂いのある諦めたような笑顔じゃなく、それは心からの笑顔。
だから、私は彼にネリング王国の事を早く教えてあげたかった。
彼が少しでも希望を持って毎日を過ごしてくれればと思って伝えたのだが、それがあんなにも彼を変えるとはその時は想像もしていなかった。
庭園の案内も終わった頃には、彼はすっかり打ち解けて別れを惜しんでくれた。
「僕、ミアさんと婚約出来て良かった。嬉しいよ。」
「はい。ありがとうございます。」
彼の笑顔はふんわりしていて、優しさが滲み出ている。
「僕ね、庭園の案内をしててこんなに一生懸命聞いてくれる人は初めてだったよ。」
それは………サーフィス様が楽しそうにお花の説明をするのが嬉しかったから。
「ありがとう。ミアさん。」
「私も、サーフィス様との婚約は嬉しいです。」
サーフィス様の顔をみてニッコリ笑うと彼は目を丸くして驚いていた。
何をそんなに驚くのだろうと、その顔をじっと見ていたら、みるみる涙が目に溜まるのが見えた。
「僕、…そんな風に言ってくれるなんて思ってなくて……嬉しくて………。本当は少し怖かったんだ。また婚約者に嫌われたらどうしようって……。」
涙ぐんで、私の肩口に顔を埋めてしまった。
恥ずかしくて、離れて欲しくて彼の肩をそっと押すけど、彼はふるふると首を振って顔を上げようとはしなかった。
それでも、暫くして顔を上げた彼は、
「今度ミアさんに会う時は、もう少し男らしくなってるように頑張るよ。」
そう爽やかに宣言してみせた。
12
お気に入りに追加
1,486
あなたにおすすめの小説
離婚して、公爵夫人になりました。
杉本凪咲
恋愛
夫の浮気を発見した私は彼を問い詰める。
だが、浮気を認めた夫は、子供の親権だけは譲らないと私に叫んだ。
権力を盾に脅され、渋々条件をのむ私。
失意の中実家に帰るが、公爵家から縁談が舞い込んできて……
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
愛と浮気と報復と
よーこ
恋愛
婚約中の幼馴染が浮気した。
絶対に許さない。酷い目に合わせてやる。
どんな理由があったとしても関係ない。
だって、わたしは傷ついたのだから。
※R15は必要ないだろうけど念のため。
死にたがり令嬢が笑う日まで。
ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」
真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。
正直、どうでもよかった。
ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。
──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。
吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる