イノセントワールド

山波斬破

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幽閉

第一話

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 水の中をぷかぷか揺蕩うような。水そのものになったような気分。僕は、薬でコントロールされている。能力もすべて、管理されていて自分では行使できない。

 酷く精神の安定を苛まれてしまいそうな過去が断片的に思い出されて混乱してしまう事が多いのが、僕の最近の悩みではある。

 白く無機質な部屋に、真っ白なベッド。意識が浮上していくのがわかる。息が弾む。右手で顔を覆いながら一人、自分の中で肯定するように頷いた。


「ちぃっ、やはり拘束されていると……第2門までしか精神の没入が出来ないようだ」

 自分の精神の世界に没入することを、門を突破すると僕らは口にする。僕ら魔術師は、秘密を知られると今の僕のような状況にたたされる。

「ほら、鏡だ」

 白衣を着ている、研究者姿の彼は鏡に僕を映した。

 右半分は、赤黒い脈打つ血管が浮き出ているし、ピクピクと筋肉が痙攣している。姿を定めるのが難しくなるのも、秘密を知られた魔術師の特徴だ。

 魔術師は、お互いを認識はしていないが存在を知っている。幼い魔術師でないかぎりは。

「ルッツ」

『はいよ。ご主人』

 僕が小さくルッツ、と喚ぶと応えるのが彼だ。僕の相棒、使い魔というやつだ。

 人間みたいに見えるけれど、まぁ人間と言っても違いはない。精神構造も主人から学び、取捨選択して作られたAIのようなものだ。実体がないというのは悲しいことだがね。

「さぁ、脱出路をさがしてね。ルミナは生き返らせた。あとはルミナのみぞ知る……という訳だ。僕はお役目は果たしたからね。一族に関係なく生きるんだ……もはや、僕には価値がないしね」

 力は限定されたが、魔術師としての宿命からも解放された。それだけで僕には意味のあることである。つまり、生きる意味。

「あとは余生をのんびりしたいねぇ」

 研究者姿の彼には、眠りの魔術にかかってもらった。魔術師の初歩的な技術だ。魔法でもなんでもない。ネンミの葉の水分をとばして乾燥させたものを磨り潰して粉末にした簡易的な睡眠薬みたいなものを吸わせただけだ。まぁ、ネンミの葉が希少なのは変わりないから魔術師が、栽培していることが多い。自分のアトリエ、工房、いろいろ持ち合わせているのが魔術師だ。
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