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邪族の村―タダシ人間らしさを説く

第十話

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 時が解決してくれる、なんて。この状況には合わない言葉だ。だけど、みんなの気持ちが上手くまとまるならそれも1つの到達点である。まだまだ、先は続く山道の経過点にすぎないけれど。

 心を病んだとして、精神療法が必ず上手くいくとは限らない。壊れそうなら、引っ張り上げてやればいいと思うかもしれない。だけど、彼らにはそれは通じないのだ。無理矢理に起こすのはよくない。良い方向に転ぶ確率なんて無いに等しいからだ。

「君らには今は仕事は与えない。ゆっくりして欲しい。仲間と話してみろ、喋れなくても通じることもあるから」

 彼らには喪った哀しみを乗り越えて欲しい。死神の行列が押し寄せてきたような悪夢を乗り越えて、甘い死への誘惑を断ち切る。精神の停滞。自我の崩壊、無くしたものを穴を埋めるように今は静かに目を閉じて、誰かの微笑みを優しい掌を……。思いだして欲しい。涙の向こうにきっと道を作ろう一緒に。

 亡くなった人が遺した伝えたいことが、きっと君らを救うから。

 食べられそうな物をかき集めて、今日は胃に優しい食べ物を作ろう。家畜も、どうやらいたらしい。乳が出る牛みたいな生き物から、ミルクを調達。畑には野菜があったから、採取して塩は岩塩があった。ふむ、質は悪かろうが、ちょっとは塩分も摂れるな。毒性物質があるとかも聞いたことがあるが、何となく大丈夫だと曖昧に思う。

 にわか知識じゃ、どうせ確信なんて持てないから。

「貴方はどうしてそんなに自信を持てるの?」


「そう見えるなら僕は成功しているようだ」

「なにをよ?」

「いや、こちらの話だ。気にするな」

「……私は世界が闇黒に満ちていて闇の住人しか生きていけない世界にしか思えない」

「見方を変えれば、闇に染まれば生きていけるってことだろ」

 彼女は俯くだけで、やはりあきらめきれないらしい。邪族に支配された世界が彼女の支えでもあり、苦しみでもある。

 日常になってしまえば、それは奴隷だとしても仕事いきるってことにつながってしまうんだ。残飯や馬の糞でも、食べられるだけ幸せなんだと。これが、普通のことだと安心するようになってしまう。生まれたときからなら、それが当たり前になってしまう。私たちは支配家畜におかれているのだと。

 人間としては、彼女たちには夢をもって欲しい。魂を震わせるような夢を。叶わないような夢でも、折れないで欲しいから。

「さ、食事にしよう。人間らしく生き物らしく自由な生活だ」

 材料でスープっぽいものを適当に作った。これでも美味いとは思うから。我慢して欲しい。彼女たちは、ゆっくりおそるおそる食べ始めた。よく味わって欲しい。

 戦いが待っているから。
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