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「あ、あの、今日は、本当にありがとうございます」
ニヤニヤとしたリックの視線は無視して、頭を下げる。その時ふと、蓮の腕に目が留まり、思わず「あ」と声が漏れた。
「蓮さん、ラババンめっちゃ着けて――お、俺のもある!」
そこにはRidiculousのロゴが入ったバンド名のものと、リック、透矢、将暉、そして大和、それぞれのメンバー名が刻まれた個人バージョンの、計五本のラバーバンドが並んでいた。
「全種類コンプした」
笑顔で腕をかざす蓮に、大和の心臓はぎゅうと締め付けられる。得意げな顔が最高に可愛い。かっこいいのに可愛い。そんな可愛くてかっこよくて魅力的すぎる能見蓮が、自分のラババンを身に着けている。大和の心臓はさらに苦しくなる。
「蓮さん、いると思わなかったから。びっくりしました」
「面白いから内緒にしてようって、透矢が」
悪戯をバラす子供みたいに目を細め、蓮が透矢を見る。
やっぱり皆で面白がってるじゃんと呆れるよりも、蓮とメンバーが楽しそうにしている姿に、胸がざわつく。
以前から、メンバーの蓮への気安い態度は、気分の良いものではなかった。けれどそれは、偉大な推し様に失礼だろ、という気持ちに過ぎなかったはずだ。今の大和の心境は明らかにそれとは違う。
――これは嫉妬だ。
バカか俺は、と心の中で呟いた。
蓮は推しであり、みんなの能見蓮だ。ちょっとプライベートで会ってもらっているからといって、蓮が他の奴と仲良くしていることに嫉妬するなんて、痛いオタクそのものだ。勘違いするなと、大和は自分を戒める。
「蓮、写真撮ろうぜ」
リックがスマホを構え、蓮を引き寄せツーショットで写真を撮った。
――おい、顔近すぎじゃね……?
大和は拳を握り、けれど必死に自身に言い聞かせる。だめだ。勘違いするな。俺は痛いオタクじゃない。
さらに透矢や将暉も蓮との撮影会を開催し始め、リックと同じような距離感で肩を組んだり、顔を寄せ合ったりしている。
――だから、近いんだよお前ら。
大和はぎりぎりと奥歯を噛み締め、どうしようもない苛立ちを押し殺す。
ようやく撮影会がひと段落したところで、将暉が口を開いた。
「この後なんだけど、NeonRageがまだ仕事入ってるらしくて。全体の打ち上げは後日だと」
「うえ、レイジこれから仕事?マジか」
主催バンドのハードスケジュールに同情しつつ、打ち上げ延期に透矢が肩を落とす。
「でも、行ける奴だけで適当に飲みに行くって話になってるよ」
「イエーイ」
将暉の言葉に、透矢は途端に元気になった。
「蓮も来いよ」
スマホから顔を上げたリックが、蓮を誘うのを聞いて、大和は複雑な気持ちになる。
マナーとかデリカシーなんて微塵も存在しないバンド野郎たちの飲み会に、彼を参加させるのは抵抗があった。
平気で下着まで脱ぐ奴もいるし、下ネタは当たり前だし、キス魔もいるし。綺麗だねかっこいいねと言って、酔っ払い達が蓮に触れたり、キスしたりする姿を想像して血の気が引いた。
「ごめん、俺は遠慮するよ。みんなで楽しんで」
だから、蓮が申し訳なさそうに誘いを断ってくれて、大和は心底ほっとする。もしもこの先、蓮がライブの打ち上げに参加するなんてことがあったら、片時も離れず隣にいて、絶対に彼を守らなければ。
堅く心に誓っていると、蓮が大和に視線を寄こした。
「大和、ライブすごくよかった」
「あ、ありがとうございます」
「もっとRidのファンになった」
蓮がバンドTシャツを軽く指差し笑う。
爪まで手入れの行き届いた綺麗な指が、バンド名のRの文字をなぞるみたいに触れるのを見て、大和の手もピクリと反応した。
誘われるように、蓮に手が伸びそうになる。その美しい指を捕まえて、引き寄せてしまいたい。そんな大それた衝動が沸き上がり、慌てて堪える。
けれど、抑え切れなかった衝動の欠片が、思わぬ形で溢れ出した。
「蓮さん。この後、暇ですか」
気づいたら、言葉が口からついて出ていた。
「この後?……俺は、特に予定ないけど」
「良かったら、俺の家来ませんか」
蓮は驚いた表情で大和を見る。
「だって、お前は打ち上げでしょ」
「参加しないんで」
「え?」
大和は他のメンバーに向け、「俺帰る。……疲れたし」と打ち上げ欠席を伝える。メンバー曰く、体力お化けな大和の取って付けたような言い訳に、リックが吹き出す。「OK。お前の分まで飲んでくるわ」と笑いながら手を振った。
蓮が心配そうに、大和の顔を覗き込む。
「疲れてるなら、俺行かない方が――」
「疲れてません」
即、前言撤回する大和に、蓮が怪訝そうに片眉を上げる。それでも「じゃあ、お邪魔しようかな」と言ってくれたから、大和はヘドバン並に力強く頷いた。
「蓮、またライブも飯も誘うよ。今日は来てくれてありがとな」
将暉が目尻を下げ、蓮の肩をポンと叩いた。メンバーたちが蓮に別れを告げ、蓮も一人ずつ挨拶を交わしていく。
大和は急いで荷物をまとめる。
さっきまでの嫉妬にかき乱されていた心は、すっかりと上昇していた。
ニヤニヤとしたリックの視線は無視して、頭を下げる。その時ふと、蓮の腕に目が留まり、思わず「あ」と声が漏れた。
「蓮さん、ラババンめっちゃ着けて――お、俺のもある!」
そこにはRidiculousのロゴが入ったバンド名のものと、リック、透矢、将暉、そして大和、それぞれのメンバー名が刻まれた個人バージョンの、計五本のラバーバンドが並んでいた。
「全種類コンプした」
笑顔で腕をかざす蓮に、大和の心臓はぎゅうと締め付けられる。得意げな顔が最高に可愛い。かっこいいのに可愛い。そんな可愛くてかっこよくて魅力的すぎる能見蓮が、自分のラババンを身に着けている。大和の心臓はさらに苦しくなる。
「蓮さん、いると思わなかったから。びっくりしました」
「面白いから内緒にしてようって、透矢が」
悪戯をバラす子供みたいに目を細め、蓮が透矢を見る。
やっぱり皆で面白がってるじゃんと呆れるよりも、蓮とメンバーが楽しそうにしている姿に、胸がざわつく。
以前から、メンバーの蓮への気安い態度は、気分の良いものではなかった。けれどそれは、偉大な推し様に失礼だろ、という気持ちに過ぎなかったはずだ。今の大和の心境は明らかにそれとは違う。
――これは嫉妬だ。
バカか俺は、と心の中で呟いた。
蓮は推しであり、みんなの能見蓮だ。ちょっとプライベートで会ってもらっているからといって、蓮が他の奴と仲良くしていることに嫉妬するなんて、痛いオタクそのものだ。勘違いするなと、大和は自分を戒める。
「蓮、写真撮ろうぜ」
リックがスマホを構え、蓮を引き寄せツーショットで写真を撮った。
――おい、顔近すぎじゃね……?
大和は拳を握り、けれど必死に自身に言い聞かせる。だめだ。勘違いするな。俺は痛いオタクじゃない。
さらに透矢や将暉も蓮との撮影会を開催し始め、リックと同じような距離感で肩を組んだり、顔を寄せ合ったりしている。
――だから、近いんだよお前ら。
大和はぎりぎりと奥歯を噛み締め、どうしようもない苛立ちを押し殺す。
ようやく撮影会がひと段落したところで、将暉が口を開いた。
「この後なんだけど、NeonRageがまだ仕事入ってるらしくて。全体の打ち上げは後日だと」
「うえ、レイジこれから仕事?マジか」
主催バンドのハードスケジュールに同情しつつ、打ち上げ延期に透矢が肩を落とす。
「でも、行ける奴だけで適当に飲みに行くって話になってるよ」
「イエーイ」
将暉の言葉に、透矢は途端に元気になった。
「蓮も来いよ」
スマホから顔を上げたリックが、蓮を誘うのを聞いて、大和は複雑な気持ちになる。
マナーとかデリカシーなんて微塵も存在しないバンド野郎たちの飲み会に、彼を参加させるのは抵抗があった。
平気で下着まで脱ぐ奴もいるし、下ネタは当たり前だし、キス魔もいるし。綺麗だねかっこいいねと言って、酔っ払い達が蓮に触れたり、キスしたりする姿を想像して血の気が引いた。
「ごめん、俺は遠慮するよ。みんなで楽しんで」
だから、蓮が申し訳なさそうに誘いを断ってくれて、大和は心底ほっとする。もしもこの先、蓮がライブの打ち上げに参加するなんてことがあったら、片時も離れず隣にいて、絶対に彼を守らなければ。
堅く心に誓っていると、蓮が大和に視線を寄こした。
「大和、ライブすごくよかった」
「あ、ありがとうございます」
「もっとRidのファンになった」
蓮がバンドTシャツを軽く指差し笑う。
爪まで手入れの行き届いた綺麗な指が、バンド名のRの文字をなぞるみたいに触れるのを見て、大和の手もピクリと反応した。
誘われるように、蓮に手が伸びそうになる。その美しい指を捕まえて、引き寄せてしまいたい。そんな大それた衝動が沸き上がり、慌てて堪える。
けれど、抑え切れなかった衝動の欠片が、思わぬ形で溢れ出した。
「蓮さん。この後、暇ですか」
気づいたら、言葉が口からついて出ていた。
「この後?……俺は、特に予定ないけど」
「良かったら、俺の家来ませんか」
蓮は驚いた表情で大和を見る。
「だって、お前は打ち上げでしょ」
「参加しないんで」
「え?」
大和は他のメンバーに向け、「俺帰る。……疲れたし」と打ち上げ欠席を伝える。メンバー曰く、体力お化けな大和の取って付けたような言い訳に、リックが吹き出す。「OK。お前の分まで飲んでくるわ」と笑いながら手を振った。
蓮が心配そうに、大和の顔を覗き込む。
「疲れてるなら、俺行かない方が――」
「疲れてません」
即、前言撤回する大和に、蓮が怪訝そうに片眉を上げる。それでも「じゃあ、お邪魔しようかな」と言ってくれたから、大和はヘドバン並に力強く頷いた。
「蓮、またライブも飯も誘うよ。今日は来てくれてありがとな」
将暉が目尻を下げ、蓮の肩をポンと叩いた。メンバーたちが蓮に別れを告げ、蓮も一人ずつ挨拶を交わしていく。
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