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第76話 擦過傷と失血

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ひきずられている。
 手首の辺りに、ロープが絡んでいるのが分かる。
 なぜ、こんな事になっているのかも分かる。

 貴族令嬢に対して、無礼な声を掛けたから。

 平民が貴族に対して口を聞くことは、死を持って償う。

 引きずられている。
 腕の力で、身体を上げようとする。
 そうすると、でこぼこした道で身体のうち下半身だけが擦れていく。

 最初のうちは、ちょっとした切り傷、擦り傷が増えていく。
 傷からは、血がにじみ始める。
 傷は増えて、身体中が血だらけになっていく。

 傷が増えるということは、身体に力が入らなくなっていくこと。
 傷は増える。

 着ている服は、擦られ続けることであちこちに綻びができて、ぼろきれのようになって脱げていく。

 馬車が止った。
 肩から下には、多数の擦過傷や打撲、骨折している。
 それでも、生きてる。
 瀕死の重傷だ。

 だが、何もせずにそのまま、身体から発する大量の痛みが逆に痛みを感じなくなっていた。

 それが、キャパシティーオーバー。
 脳の処理が追いつかなくなった瞬間、意識が飛んだ。
 脳出血で死んでしまったというのは、その後、ともえ様に言われた。

「どうだった?」

 なんだか、嬉しそうな顔と口調だ。
 精神状態は、最悪に近い。
 以前のことも思い出したから、なおさらだ。

「まだ、するんですか?」
「最後に、もうひとつよ」
「本気で神族…」
「大丈夫!最後のは、痛くもかゆくもないから」
「そんな死に方ない!」
「経験者の事を信じなさい。では、行ってらっしゃーい」

 だれが経験者なんだ。
 と思いながら、アレ?っと思った。
 記憶封鎖がされていなかったからだ。

 気がつくと、どこかの病院のベッドに横たわっていた。
 身体には、無数のコードやチューブがくっついていた。
 そして、また動けない。

 今回の動けないのは、以前と違って脱力系。
 頭も、脱力しているのが分かるのか、力を入れる気にもならない。

 ベッドは、リクライニングシートのように上半身が起こせるもの。
 だからか、少しだけ上半身が上がっていて、それで周囲を見ることができた。
 意外と広い部屋になっていた。
 力が入らないと言うものの、視野いっぱいに見れば周りも見ることができる…そういう意味。

 時間がゆっくり流れる。
 気がついた。
 周囲が暗くなっていないか?
 夕方を見ることなく、夜になったような感じだ。
 実際、目の前で見える範囲も狭くなってる。
 狭い?
 耳鳴りもしてきた。
 耳鳴り?
 目の前の視野はどんどん狭く暗くなっていく。
 耳鳴りの音も大きく、キーンという音がしてくる。

 そんな中、眠くなってきて、瞼が落ちてしまった。

「おしまい」

 ともえ様が、目の前に居る。

「今のは?」
「失血死。厳密には、違うけれど」
「違うとは」
「献血中の事故?みたいなものね」
「本当にあったのですか?」
「死んではいないけれど、大騒ぎになったことはあったかしら」

 そう言うと、パンパンと手を叩くと
 トーコが抱きついてきた。

 さっきまで居なかったのに。

「ともえ様、休暇ください」

 トーコがともえ様の方に言う。

「いいわよ。ここの、使って良いから」

 そう言うと、壁が上にスライドし、隣室と一つの部屋に。
 電子情報体を生み出す、シートがすぐ横にきた。

 2つのシートは、すぐ横に並び、トーコは手を握ってきた。

「行きましょ」

 そんな声と同時に、2人で不思議な世界へ転移したのだった。


----------
著者注:
今回の2話は、著者の経験を参考にしたもので、実際の状態と違うはずです。
1つ目の、全身打撲は、交通事故で全身を地面に叩きつけられた際のお話。ある程度、動くのに10分。大したケガではなかったです。剥離骨折くらい。
2つ目の大量擦過傷ですが、小さい時は、治る前に傷を作るという面倒くさい…子どもでした。…今と変わらないような気もします。
3つ目は、失血ですが、成分献血により視野狭窄&耳鳴りで意識が落ちたことを参考にしました。実際は、血管迷走神経反射(=VVR)によるものです。
まぁ、これらにならないのが一番ですが。
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