上 下
312 / 356
2018年

思い出のカケラ

しおりを挟む
あなたへ

 

先日、あの子と一緒に出掛けた帰りのことでした。

 

ラーメン食べて帰ろうよ

 

あの子の提案から、帰りに、ラーメン店へ寄ることにしました。

 

あなたを見送ってから、初めてラーメン店へ入った私は、

あなたが聞かせてくれた、

数々のラーメン店での話を、思い出していました。

 

仕事中のお昼には、ラーメン店へ行くことが多かったあなた。

ラーメン好きな同僚に連れられて、色々なラーメンを食べに行っては、

話を聞かせてくれましたね。

 

店主が、フレンドリー過ぎて、笑っちゃうお店の話。

無口な店主だけれど、味は絶品のお店の話。

 

あれは、いつかのバレンタインデーの頃でした。

 

ハート形のチョコレートを持って帰って来たあなた。

テーブルに無造作に置かれた、

ピンクや赤の可愛い柄に包まれたそれらを見つけた私は、

ちょっぴり、焼いてしまったのでした。

 

これ、何?

 

男性ばかりの職場へ勤めていたあなたには、

縁遠いと思っていたハート形を指差しながら、

出来るだけ、平然を装い、感情を込めずに聞いたつもりでした。

 

あぁ、それね、今日行ったラーメン屋さんで貰ったの

何?ヤキモチ?

 

私が必死で隠したはずの感情を見透かしたあなたは、

嬉しそうに、私をからかいましたね。

 

誰から貰ったと思ったの?って。

 

あなたと過ごした日々の中の、

ラーメン店にまつわる私たちの、思い出のカケラたちは、

尽きることなく、溢れ出しました。

 

今度、連れて行きたいラーメン屋があるんだ

 

いつか、そんな話をしてくれたあなた。

 

あの時、あなたが言ってくれた、

「今度」を、私は、とても楽しみにしていたのでした。

 

場所も、店の名前も聞くことが出来なかった、

いつも、早くに店仕舞いをしてしまうそのお店には、

一緒に行くことができないまま、

あれから数ヶ月前後に、あなたは、安らかな最期を迎えました。

 

いつの頃からか、

友達と、色々なラーメン店へ出向くようになったあの子。

 

いつか、あの子が、見つける日が来るのかも知れませんね。

 

いつかあなたが、連れて行きたいと話してくれた、その店が、

知らずとも、

あの子にとっても、お気に入りのラーメン店になるのかも知れません。

 

そうして、いつの日か、

あの子に誘われて、

私も、そのお店に行く日が来るのかも知れませんね。

 

その時、私は、気付くことができるでしょうか。

 

あの時、あなたが連れて行きたいと話してくれたお店は、

きっと、此処だったんだなって。




 2018.12.07
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

天空からのメッセージ vol.97 ~魂の旅路~

天空の愛
エッセイ・ノンフィクション
そのために、シナリオを描き そのために、親を選び そのために、命をいただき そのために、助けられて そのために、生かされ そのために、すべてに感謝し そのためを、全うする そのためは、すべて内側にある

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

処理中です...