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2章 市街戦

1話 基地での生活

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あの訓練から1ヶ月が経過した。
あれから、この基地での生活を始めたわけだが…………

まず、俺の両親には基地のスタッフが連絡してくれている。色々と事情もあって、諸々隠しながらの報告になるらしい。
とりあえず俺が住み込みで働いていることだけは連絡してくれていて、お金は両親に振り込まれているみたいだ(一度見てみたが目の眩むような額だった)

ジュンさんは、日本政府との話し合いがあるらしく、(一応守護者達は政府公認の組織のようだ)毎日ほとんど基地にはいない。

その間俺は毎日のように、シュミレーション室に通っている。相手は……

「おー、傑ー。おつー」

葵さんだ。本来現場にほとんど出向かない葵さんは暇らしく、また俺との近接戦闘が刺激があって楽しいらしく………
この1ヶ月ずーっとボコボコにされている。

一度、『拒絶』の能力を使ってもらって対決してみたけど………
うん。無理。
強すぎて話にならない。こんな便利な能力なら葵さんしか戦力いらないのでは?と思い聞いてみると

「そうでもないよ。あー、みんな私の能力誤解してるからねー。私の『拒絶』って実はすっごい緻密な計算で編まれてる術式なんだよー。自分が経験した1つ1つの事象をどういうものか理解して術式に組み込むの。そんで、組み込まれたものと同じものなら自動で弾いてくれる。だから私が未経験の事は防げないからね。不完全な万能なんだよ」

と説明してくれた(いいのかな?俺なんかに話して?)

でも、長い戦闘経験を積んできた葵さんなら、戦闘に関する大概の事は経験済みだろうし、やっぱり破格の能力といっていいだろう。


ミユさんは(名前で呼ぶように言われた)俺とは別行動で任務にあたっている。
なんでも守護者にはランク付けっていうのがあって、ミユさんはAランク。
かなり、上位のランクというのもあってか、本来ならずっと任務に出てるくらい多忙なんだそうだ。

ちなみに俺のランクはC。一番下がDだから少しはマシな程度。というのも……

「傑は『眼』の能力は強力だけど、それ以外は普通の人より身体能力的に優れているだけだから、これくらいでしょ!」

とジュンさんの言葉。
まあ、それ以外取り柄もないしね。妥当なところと思う。

今は実戦に向けて修行中。
でも相手が葵さんじゃ自分が強くなってるかがわかりにくい。

「そんなことないよ。近接戦闘だけなら、私も危ないと思うこと増えてきたしね」 

葵さんはそう言ってくれるけど……
ちなみに余談になるが、葵さんに初めて挑んだ時、彼女は近接戦闘では蹴り技しか使ってこなかったのだが………本当は中国拳法のなんちゃって発勁が得意のようで危ないから封印してたらしい(めっちゃ手ぇ抜かれてる!)
だから、今日は

「葵さん。この間話してた発勁、見せてくれませんか?」

二回くらいボコボコにされた後に、そう言ってみた。
すると葵さんは

「いいけど……受けるのはお勧めしないよ?多分耐えられないし……」

とマジな顔!いやいや、どんだけの威力なの?

「うーん、この間戦った、バージェスだっけ?あいつをワンパンしたのがこの発勁だし?」

えーーーー!
危な!!

「まあ、勁力落とせばいけるかな?それでもかなりのダメージと思うよ?」

私のは我流だしねーと、葵さんが構える。
やるんですね?

「じゃあこうしようか、今から格闘戦をして、途中で発勁入れるから、避けてもいいし、受けてみてもいいよ」

「……わかりました」

拳と拳で語ろうみたいな漫画のノリだ。
最初は取っ付きにくい印象の葵さんだったけど、こうして話していると独特な雰囲気のせいか、妙に和むんだよなー。

「考え事?余裕だね!」

フッと消える葵さん。
俺は度重なる訓練のおかけで、今から戦うと自分で意識するだけで眼の能力を自然に発動出来るところまできている。

葵さんは……右!

すれ違い様のローキックを叩き込んでくる!
俺はそれをジャンプして躱すとバック宙をきり、距離をとるが……

(また消えた………左!)

今度はハイキック!
しゃがんでこれも躱すと、やり返しのローキックを繰り出す!

躱されるか?
と思ったけど、葵さんはまさかの間合いを詰めてくる。距離が近くなりすぎて中途半端になった蹴りを足で受けられ

「がんばれー!」

先程の宣言通り、掌底を放ってくる。
俺はそれを眼で捉えながら

(それほど威力はない?…!!いや、全力で防御だ……!)

嫌な寒気に襲われ
両腕をクロスし全力の力を込めて耐える!

ドッ!!

と葵さんの手の平が触れるが……

(よし!耐え…………ッ!!!!)

腕には本当に当たっているのか?と思うくらいの感触しかなく
代わりにその衝撃が腕を通り抜けたように俺の「上半身」を襲った!!

グン!!!
と俺の身体が吹き飛ぶ!

あまりの速度に受け身を取り損ね、背中から壁に強打する!

「ガ……ハッ!!!?」

口からは血が出ている。
予想以上のダメージに頭も朦朧とする。

「あち………ー、す……る、大………夫?」

近くにきている葵さんの声も途切れ途切れにしか聞こえない。
視界も回っている。

深呼吸を心がけて、何とかダメージを押さえようとするが、なかなか治らない……
どうやら、脳震盪を起こしているようで、自分が立っているか倒れているかもわからない。

視界が………暗転する………




(ん?なんかすごく甘い、良い匂いが…………)

「あっ、起きた?」

!!!!!!!?

深緑色の瞳と超至近距離で目が合う!
あ…葵さんが……俺のおでこに自分のおでこを当ててる!?

良かった良かったと距離を離していく葵さんだけど……屈んでいる状態からだから薄いTシャツの谷間が見えそうです!

なんか、一緒にいる時間が長いから意識しなくなってたけど……改めて見ると葵さんって超絶美少女だよな……
さらりとした銀髪に、大きな深緑色の瞳。見た目よりも大人びたアンバランスな雰囲気。訓練が終わったからだろうけど、ラフなTシャツとズボンを履いて、これがまた普段の戦闘服との差でよりいっそう可愛く見える。普通の人ではありえない。漫画に出てくるヒロインみたいだ。

「むー、何かジロジロ見られてる?………傑のエッチ」

ちょっと恥ずかしそうにするその仕草は…………可愛いすぎる!……ってまた心読まれてる!そんなに読みやすい顔してるのかな?

「ごめんね、傑。もともと発勁のほうは実戦でしか使ったことないから上手く加減出来なくて………」

葵さんが少し申し訳なさそうにしょんぼりしている。
よく見ると、どうやら基地の医務室のベッドの上のようだ。

「いや、あれは俺が頼んだことですし……でも確かにガードしたはずなんですけど、どういう技だったんですか?」

「あれは『遠当て』っていって、打点をずらす技なんだけど……わかりやすくいうと、当たったのが傑の腕だったけど、全然感触なかったでしょ?腕じゃなくて遠当てで傑の上半身に力の力点をずらしたんだー」

と、難しい説明を受ける。
要約すると当たったのが腕でも力の打点を俺の身体にずらしてたから、防御出来なかったということかな?

「そうそう、そんな感じー。本来はあれに私の魔力を乗せるから威力は5分の1くらいには収まってたと思うけど……」

あれで………!?
バージェスよく生きてたな……

「今日はもうゆっくりしときなー。あ、でも連絡事項で、夕方に守護者は会議室に集合らしいからそれまで寝といていいよ」

とさっさと部屋を出ていった。
新しい任務かな?
他の守護者とは初対面だから緊張するな……

夕方

俺は会議室に向かうと、もうすでに俺以外の人間はだいたい揃っているようで、皆席に座っていた。

「やあ、傑。よく眠れたかい?」

おっと、ジュンさんもいる。長い出張だったみたいだけど、帰ってきてたみたいだ。
ただし…

(ジュンさんもいるということは、何か任務の話かな?)

その推察は当たりのようで

「よし、全員集まったみたいだし早速任務の話にするよ。傑も座ってくれ」

「はい」

俺が席に着くと部屋が暗くなり、スクリーンに映像が写し出される。
どこかの街?かなり広範囲のようだ。

「これが先程確認された遮絶の結界だ。現在結界発生後から4時間が経過してる。見てもらえばわかるようにかなり広範囲の結界だね。正方形型で縦横それぞれ20km。これほど広範囲の結界は最近ではあまり確認されていなかった」

20km!広いな。
俺が遭遇した遮絶の倍はある。

「あちらもかなりの戦力を配備してることが考えられるので、こちらもスリーマンセル…三人一組のチームを2つ派遣するよ。まずA班、リーダーは仁、メンバーは傑と大樹」

そう言われて俺とそれ以外の2人が立つ。

「リーダーの仁だ。よろしく頼む」

そう言って俺達2人を見る仁と呼ばれた人は俺よりも歳はかなり上だろう。ただ引き締まった身体に黒のシャツとズボン、目も開いているのかわからないくらい細い……印象的にはカラスに似ている。

「俺が大樹だよ。君が新人の傑?よろしくな!」

もう一人の大樹が握手を求めてくるので応じる。明らかに何かスポーツをしてたであろう筋骨隆々とした逞しい身体つきをしていて角刈りで歯もめっちゃ白い。ラグビー選手のような人だ。歳は大学生くらいかな?

「次にB班、リーダーはミユ。メンバーは翼とカナ」

「ミユです。よろしく」

ミユさん以外の2人は軽く会釈する。
翼と言われた少年は俺よりも年下だろう。短髪の、だが眼光が鋭くネックウォーマーを口まであげており顔の全貌は見えない。

 一方、カナと呼ばれた少女は…

「……………」

何か言いたそうに身体をモジモジさせている 。歳は少し下だろうか?茶髪のショートカットで前髪が目のところまでかかっており、正確にはわからない。

「2つのチームの編成を見てもらえば何となくわかると思うけど、Aチームはゴリゴリの近接戦闘が得意な面子だ。主に遮絶内の敵の掃討に当たってもらいたい。今回の遮絶の規模を考えると向こうも何か作戦があるに違いないから、ナンバーズは間違いなく来ていると思う。心してかかるように!」

「Bチームは逆に能力的に隠密行動や中・遠距離を得意とする面子だ。状況によっては戦闘もやむを得ないだろうが、Aチームの陽動を利用して遮絶の解除を最優先してほしい」

なるほど…俺達が暴れて敵を引き付け、その間にミユさん達のチームで遮絶を解除するということか。

「あと、傑!」

「えっ、はい!」

ジュンさんに急に呼ばれたのでビックリして立ち上がる。

「傑は特殊な眼だから、相手を掃討する間に全体の流れをよく見てくれ。今回のこの攻撃は何か向こうの企みを感じる……嫌な感じがしたら、すぐに仁に相談してくれ」

「……わかりました」

「仁と大樹は自分の力についてよく傑と話しておいてくれ」

「それは、傑の能力に関係するからか?」

仁と呼ばれた人がジュンさんに聞く。

「そ。傑は情報があるほど未来視の精度が上がる。何かあった時は傑の力を上手く引き出してくれ」

「承知」

うーん、何かわからんが、結構重要なポジションを任されそうだぞ?

「傑、大丈夫。私との訓練思い出せば大概の相手はなんとかなるよ。今回は仁達がついてるしなお安心」

葵さんが俺の不安を読んで声をかけてくれる。
よし……!俺に出来ることをしっかりしよう!

「出撃は30分後!遮絶の結界定着まで約24時間だ!みんなの武運を祈る!解散!」






    
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