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竹芦

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部活始動?

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 登坂フウは駅伝部の放送に興味を持っていた。
「足早くなれるのかな」
「やめときなさい。フウは運動音痴だし」
 後ろの席から姉のマキが言った。
 マキとフウは双子だが、強気でなんでもこなしてしまう姉に対して、フウは弱気でいろいろと不器用だ。
「うん、そうだね」
 口では姉に肯定しつつも、心はユキの言葉に動かされていた。
「でも放課後にちょっとだけ話してきてもいいかな」
 妹が自分から行動するのは珍しいことだったので、マキは少し驚いていた。
「じゃあ、あたしもついてくわ」
「無理についてこなくていいよ、お姉ちゃん部活入らないんでしょ」
 マキは突き放された気がして固まってしまった。マキはフウが可愛いすぎて過保護になってしまうことが昔からよくあった。そのせいでフウのやる事もマキが全部やってしまって不器用なフウが出来上がってしまったようだ。
「あたしも興味あるし」
 近くでフウを見ていたくて、つい言葉が出た。
「ほんと? じゃあ一緒に行こう」
 フウも内心、話を聞きに行くのも勇気のいることだったが、姉もついてくると聞いて安心してしまった。
 あぁやっぱり私だめだなぁ、と心の中でつぶやいた。甘えん坊はもう嫌なんだ。

 放課後の教室。
 アメたち三人は次の作戦としてポスターを作っていた。放送は学校中の人を注目させたのは明白で、いろいろなところで話題になっていた。
 しかし、部活に入りたいという生徒はまだ来ないままだ。
「ユキちゃんお昼から顔赤いね。もしかして熱ある?」アメが心配している。
「なんでもないの!」今日の放送は自分らしくないと思い、ユキは羞恥に駆られていた。
「ユキ、ポスターの絵描いてよ。気がまぎれるよ」
 ヒナタがマジックペンをユキに押し付けた。
「それもそうね」とユキもペンを受け取る。
「何描いてるの?」
「ネコ」
「陸上かんけーねぇ!」

 ただのお絵かき大会になってきたところで、教室の扉が開いた。見たことない二人だ。別のクラスだろうか。
「向風アメさんはいますか?」
「あっあたしでーす!」アメが立ち上がって、ピョンピョン跳ねながら手を挙げた。
「今日の放送聞いて、ちょっと話だけでも良ければと思って来たんだけど。ね」
「う、うん」フウはなんとか俯かないように耐えている。
「わーありがとう!」アメは両手でフウに強烈な握手をした。
 フウはされるがままになっているが、悪い気はしなかった。
「まあこっち座りなよ」ヒナタがこまねく。

 二人も近くに座ってとりあえず、みんな自己紹介を済ませた。
「それなに?」マキが机の上の紙を指差している。
「あー、」っとアメがユキの方に視線を移した。
「勧誘のポスターよ」ユキが答えたが、すかさずヒナタが「になる予定だったもの」と付け足した。

「駅伝部に入ったらどんなことするの?」マキが訊ねる。
「好きなだけ走るよ」アメが元気に答えた。
「ざっくりしすぎやろ」とヒナタが突っ込む。
「まあ、走るのはそうなんだけど、走るためのフォーム作りとか、スピード、持久力を鍛えるトレーニングとかいろいろやるつもりよ。最悪私が練習メニュー考えてもいいけど」ユキが捕捉した。
「お願いします! 監督」アメが机におでこをつけて懇願した。
「やめて。部活ができるなら顧問の先生もつくみたいだし。陸上のことわかる先生ならいいんだけどね」
「二人は足速いの?」アメが聞いた。
「あたしは普通かな。フウの方が興味ありそうなんだけど、この子が何かやりたいって言ったの初めて聞いたかもしれないし」
「わたしは、うーん、遅いと思うんだけどね」フウは自信がなさそうに斜め下に目線を泳がせて一度俯いたが、もう一度前を向きなおした。
「ユキさんの放送を聞いて、わたしも成長できるかもって思ったの。自分の中の何か1つでも変えたいの。だから、わたしにもできることなのか今日は聞きに来たかったんだ」
「フウが人前でこんなに話してるの初めて聞いたわ」マキは今日のフウがいつもと違って見えた。
 ユキは一瞬ポカンとしていたが、やっと口が動いた。
「もちろん、あなたがやろうと思えばできることよ」さっきまで恥ずかしくてしょうがなかったことが、一人の心を動かしていた事実を知り、無性に嬉しくなっていた。
「練習はつらいこともあるかもしれないけど、あなたも入ってくれたら、きっと楽しくなるわ」
 不安そうな表情だったフウの顔が晴れた。
「お姉ちゃん、部活入ってもいいかな。わたし、頑張ってみたい」
「ええ。もう決めてるんでしょ。あたしも入るわ」
「二人とも入部してくれるの!やったあ!」アメが声を上げる。
「じゃあいっきに5人そろったな」
「うん、改めてみんなよろしくね」

 ここに新たなチームが結成された。やっとここから物語が始まる。


 ユキが部活の申請書をすぐに提出してくれたおかげで来週には顧問の先生を協議するようだ。

 翌日の放課後にはまた集まって少し走ってみようということになった。


 翌日、それぞれ走りやすい格好に着替えてグラウンドに集合した。
「ユキちゃん、初めて会った時のジャージだー。それかっこいいよね」アメがユキを見て言った。
「ありがと」ユキは適当に返事して緩みそうな顔を引き締めた。
 アメとヒナタは半袖短パンだ。
「とりあえず、体操着着てきたんだけど、他に何か準備するものとかあるの?」マキが質問したのに合わせてフウもうんうんと身動きしている。
「最初は体操着と走りやすい靴があれば大丈夫だと思うけど、ランニングシューズとか腕時計とかは必要になるはずよ」ユキが答えた。
「明日お休みだからスポーツ用品店とか見に行ってみようか」マキは形から入るタイプだ。
「うん行きたい」フウも口数は少ないが目は輝いている。

 みんなで準備体操やストレッチをして、ゆっくりとジョギングし始めた。
 学校のグラウンドは300メートルのトラックだ。
 まずは1キロ8分のペースでユキが先導した。
「ユキちゃん、遅くない?」アメが物足りなさそうだ。
「初心者もいるんだから、最初はこのくらいが丁度いいんじゃない?みんなきつくない?」
 全員大丈夫そうだ。
「これなら私もついていけそう」
 フウも安心して走っている。
 初日だったので3キロで終了した。
「ユキけっこうみんなのこと考えてるのな」
 ヒナタがユキに話しかける。
「そうかしら」ユキは褒められるのが慣れてない。
「こなせる練習をするのは基本でしょ。それに、最初の練習でつまづいたら楽しくないじゃない」
「さすがユキちゃんだね」アメもユキを尊敬の眼差しで見ている。

 最後にまたストレッチをしていると、担任の先生がやってきた。
「おぉ頑張ってるな。こんなに早く部活を立ち上げるとは大したもんだ」
 先生の隣には女性が一人ついてきていた。
「あ、先生、もしかして顧問の先生連れてきてくれたんですか? 早いですね」
「ああ、まだ先生じゃないが、コーチって事で君らをサポートしてくれる。娘のツムギだ」
「えー先生の娘さん!」
「中学校の先生じゃ人手不足だって聞いて、引き受けちゃいました。みんなよろしくね」

 ツムギは大学の2年生だ。学校の先生になりたいと教員免許の取れる大学に通っていた。
 早速、中学校の生徒たちと交流を持つことができ、少し先生に近づけている気がした。

「娘は学校の先生目指してるし、高校まで長距離走ってたから、ちょうどいいと思ったんだ」
 担任が紹介してくれる。

 陸上経験者というだけでアメ達にとっては偉大な先輩のように感じた。これからどんなことを教えてくれるのだろうと、期待が高まる。
 今日のところは顔合わせということで、来週の頭から放課後の練習を見てくれることになった。
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