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はじまり!
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アメはいつものように早朝トレーニングにでた。まだひんやりとした空気の中、靴紐を結んで歩きだす。
私は走るのが好きだ。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も、走るのが好きだ。特に長い距離が好きだ。
吸い込む空気は季節を教えてくれる。踏んだ地面は今日のコンディションを教えてくれる。今日は春、快晴、中学校の入学式だ。
いつもは近所の道を走っているが、念のため中学校までの通学路を走ってみようと思った。
中学校までは2キロほどだ。この道が通学路になるのかと思うと少し胸が高鳴った。特にこれといって立ち寄れる店があるわけでもない。むしろ田畑が多い。
でも朝焼けに染まる田園風景や朝もやの上がる畑は綺麗で大好きな景色だ。
しばらく走ると中学校に面する通りに出た。もう少しで校門だと思ったところで、わき道から一人の少女が中学校に向かって走っていく姿が見えた。
背丈はアメより頭ひとつ高い。腰まで伸ばした髪をたなびかせて走る姿は、アメにとってはかっこよく見えた。
「わたしの他に朝走ってる人初めて見たな。ちょっと話しかけてみてもいいかな」アメは好奇心に駆られて、彼女を追いかけてみた。
しかしなかなか速い。アメはいつもよりペースを上げ始めた。
ユキは後ろから近づいてくる足音に気づいた。つい朝の空気が気持ちよくて快調に飛ばしているところだったが、この速度で追いついてくるなんて、変質者かしら。
「後ろ振り向くのもちょっと危ない(怖い)し、このまま巻いてやるほうがいいわね。中学校の下見に来たのだけど、まあ桜並木の下を走れるならいいか」
中学校のグラウンド沿いには桜並木があり、それを抜けると校門だ。
桜が舞っていて、空気はおいしくて、だけど、足音が近づいてくる。
ユキはさっきからかなりペースを上げて走っていたのだが、それでも近づいてくるものに若干恐怖しだした。
校門前では校長が入学式のためになにやら飾りつけをしていたが、その前を2人の少女が物凄い勢いで走り抜けていった。
ユキのスピードが落ち始めた。
「さっきのおじさんに助けを求めたほうがよかったかな」そう思った瞬間、横から「ねえ」と声をかけられた。ひっと変な声が出たが、見えた顔は明るく笑う少女だった。
ユキは驚いて立ち止まってしまった。アメはユキに気を取られてずてっと転んだ。
「もう急に止まらないでよ」
「いや、思ったのと違うのが来たから」
「へ?」
「というか、なんで追いかけてくるのよ。怖かったじゃない」ユキは若干うるうるしている。
「あ、ごめんなさい。でも、走ってる人がいるなと思って。かっこいいなと思って。仲良くなれるかなと思って」アメはたどたどしく、だんだんと声が小さくなった。
泣きそうなユキを見てアメは「あっ自動販売機がある。ジュース飲も」と慌ててユキの手を引いた。
「泣いてないんですけど」
「えっ何も言ってないよ」
自動販売機があったのは学校のすぐ近くの公園だった。
アメが飲み物を買ってくると、四阿の椅子に二人腰かけて休憩した。
「これでチャラってことで」とアメが飲み物を差し出してくる。
ユキは怪訝そうな表情を見せたが、「まあ、私も変なこと考えて逃げちゃったから」と含み笑いをしていた。
「何考えてたの」
「そこはつっこまなくていい」二人ともペットボトルの飲み物を一気に半分くらい飲んで、大きくため息をついた。
「あたし、向風アメ。中学校までの通学路を下見してたらあなたを見つけて、つい追いかけちゃった。ごめんね」
「ううん、ってことは同級生になるの?!私は森道ユキよ。えっとーよろしくね」
ユキはアメのことを明らかに年下だと思っていたが声には出さなかった。
「よろしくね。ユキちゃん同級生なんだー」アメはすごくうれしそうにしている。
「走るの好きなの?」アメは興味津々で尋ねた。
「ええそうね。アメも足速いわね」
「そうかな。中学校では陸上部入りたいんだー。そうだユキちゃん、入学式おわったら部活見学行こうよ」
「そうね、行ってみようかな」
「やった、じゃあまた学校でね」
アメはそう言うと元気にまた走って行った。
「嵐が通り過ぎたみたいね」
ユキもジュースを飲み干すと、また走り出した。ユキはこの町に引っ越してきたばかりで不安をかき消すためにも走っていたのだが、帰り道は自分でも信じられないくらい、期待感であふれていた。
「早く学校に行こう」
私は走るのが好きだ。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も、走るのが好きだ。特に長い距離が好きだ。
吸い込む空気は季節を教えてくれる。踏んだ地面は今日のコンディションを教えてくれる。今日は春、快晴、中学校の入学式だ。
いつもは近所の道を走っているが、念のため中学校までの通学路を走ってみようと思った。
中学校までは2キロほどだ。この道が通学路になるのかと思うと少し胸が高鳴った。特にこれといって立ち寄れる店があるわけでもない。むしろ田畑が多い。
でも朝焼けに染まる田園風景や朝もやの上がる畑は綺麗で大好きな景色だ。
しばらく走ると中学校に面する通りに出た。もう少しで校門だと思ったところで、わき道から一人の少女が中学校に向かって走っていく姿が見えた。
背丈はアメより頭ひとつ高い。腰まで伸ばした髪をたなびかせて走る姿は、アメにとってはかっこよく見えた。
「わたしの他に朝走ってる人初めて見たな。ちょっと話しかけてみてもいいかな」アメは好奇心に駆られて、彼女を追いかけてみた。
しかしなかなか速い。アメはいつもよりペースを上げ始めた。
ユキは後ろから近づいてくる足音に気づいた。つい朝の空気が気持ちよくて快調に飛ばしているところだったが、この速度で追いついてくるなんて、変質者かしら。
「後ろ振り向くのもちょっと危ない(怖い)し、このまま巻いてやるほうがいいわね。中学校の下見に来たのだけど、まあ桜並木の下を走れるならいいか」
中学校のグラウンド沿いには桜並木があり、それを抜けると校門だ。
桜が舞っていて、空気はおいしくて、だけど、足音が近づいてくる。
ユキはさっきからかなりペースを上げて走っていたのだが、それでも近づいてくるものに若干恐怖しだした。
校門前では校長が入学式のためになにやら飾りつけをしていたが、その前を2人の少女が物凄い勢いで走り抜けていった。
ユキのスピードが落ち始めた。
「さっきのおじさんに助けを求めたほうがよかったかな」そう思った瞬間、横から「ねえ」と声をかけられた。ひっと変な声が出たが、見えた顔は明るく笑う少女だった。
ユキは驚いて立ち止まってしまった。アメはユキに気を取られてずてっと転んだ。
「もう急に止まらないでよ」
「いや、思ったのと違うのが来たから」
「へ?」
「というか、なんで追いかけてくるのよ。怖かったじゃない」ユキは若干うるうるしている。
「あ、ごめんなさい。でも、走ってる人がいるなと思って。かっこいいなと思って。仲良くなれるかなと思って」アメはたどたどしく、だんだんと声が小さくなった。
泣きそうなユキを見てアメは「あっ自動販売機がある。ジュース飲も」と慌ててユキの手を引いた。
「泣いてないんですけど」
「えっ何も言ってないよ」
自動販売機があったのは学校のすぐ近くの公園だった。
アメが飲み物を買ってくると、四阿の椅子に二人腰かけて休憩した。
「これでチャラってことで」とアメが飲み物を差し出してくる。
ユキは怪訝そうな表情を見せたが、「まあ、私も変なこと考えて逃げちゃったから」と含み笑いをしていた。
「何考えてたの」
「そこはつっこまなくていい」二人ともペットボトルの飲み物を一気に半分くらい飲んで、大きくため息をついた。
「あたし、向風アメ。中学校までの通学路を下見してたらあなたを見つけて、つい追いかけちゃった。ごめんね」
「ううん、ってことは同級生になるの?!私は森道ユキよ。えっとーよろしくね」
ユキはアメのことを明らかに年下だと思っていたが声には出さなかった。
「よろしくね。ユキちゃん同級生なんだー」アメはすごくうれしそうにしている。
「走るの好きなの?」アメは興味津々で尋ねた。
「ええそうね。アメも足速いわね」
「そうかな。中学校では陸上部入りたいんだー。そうだユキちゃん、入学式おわったら部活見学行こうよ」
「そうね、行ってみようかな」
「やった、じゃあまた学校でね」
アメはそう言うと元気にまた走って行った。
「嵐が通り過ぎたみたいね」
ユキもジュースを飲み干すと、また走り出した。ユキはこの町に引っ越してきたばかりで不安をかき消すためにも走っていたのだが、帰り道は自分でも信じられないくらい、期待感であふれていた。
「早く学校に行こう」
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