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最終章

第百八話 感じるぜ……正義の魂の共鳴を!

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 高町みさき一行がメガネちゃんを救出した後のこと、街の北門の前で一人戦う男がいた。体のラインにぴったり沿ったスーツに身を包み、フルフェイスヘルメットのような兜をかぶったその男とは――

 ――そう、天王ヒロトことジャスティスレッド、その人である!

「ジャークダーの戦闘員よりずっと弱いが……こう数が多くちゃキリがねえぜ!」

 腕の一振りごとにゴブリンを殴り倒しながら、ヒロトは思わずぼやいた。もう何時間も戦いづめなのだ。その上、周囲には味方の一人もいない。味方の兵は基本的に城壁の上で戦っており、地上に降りて敵を迎え撃つものなどいなかったのだ。

「オラァッ! 正義の音速拳ジャスティスマシンガンっ!」

 普通のゴブリンの2倍は大きいオーガゴブリンに目にも留まらぬ連打を叩き込む。オーガゴブリンは何体ものゴブリンを巻き込んで吹っ飛んでいった。

 もう何百体倒したかもわからないほどだが、敵が途切れる様子はまったく見られない。ヒロトが地上で戦っているのはスタンドプレーではあったが、それがなければ北門はとっくに陥落していただろう。

 決して意識して狙ったわけではない。前世の経験で集団戦には慣れており、そういうことには天性の勘が働くのだった。

「あっ、また攻城兵器か! くらえっ、神槍蹴撃グングニールキック!」

 わずか三歩で最高速に達し、弾丸のような速度で飛び蹴りを繰り出す。狙ったのは小屋付きの破城鎚だ。防備用の木板をたやすく貫き、粉砕する。

「それにしても……ずっと変身してても大丈夫なもんなんだな」

 着地先にいたゴブリンたちを素早いジャブとストレートの連打で次々に仕留めていく。武術大会で己の拙さを知ったヒロトは基本的な格闘技術を身に着けはじめていたのだ。無駄のない洗練された動きは、以前の殺陣のような華やかさはないが研ぎ澄まされた機能美を感じされる。

 変身に関してもそうだ。前世ではジャークダーが現れてから変身していたため、常時変身して戦うという発想がまったくなかったのだ。酒場で高町みさきに指摘されて以来、彼は暇さえあれば変身し、その姿のまま訓練や日常生活を送っていた。

 そのため、街の人間たちには「赤い人」の愛称で親しまれつつあった。

「そういえば、なんで前世じゃめったに変身しなかったんだっけ?」

 たしか、セイギネス様から言われたのは「正義のヒーローは正体を知られてはいけない」「人間時の姿を知られるとジャークダーに家族や友人を狙われる可能性がある」とかそういう理由だったと思う。

 ジャークダーとの争いが佳境に入ってからは正体は完全にバレていた。いまにして思えば、可能な限り変身状態で戦った方がよかったのではないか……。しかし、いまさら前世のことを考えてもどうしようもない。思考を切り替えて目の前の敵に改めて集中し直す。

 敵を殴り倒しつつ移動して、再び城門の前へ陣取る。すると、城門の上で叫びが上がった。

「上ももう限界だっ! ヒロト、戻って加勢してくれ!」
「わかった! 少し待ってろ! 爆熱疾走バーニングダッシュ!!」

 ヒロトの全身が炎に包まれ、凄まじい加速で走り出す。進路上にいた敵をすべて弾き飛ばし、城壁を駆けあがって上にいたゴブリンを蹴り飛ばした。

「みんな、大丈夫かっ!?」
「ああ、おかげさまで助かったぜ。だが、これはマジィぞ……」

 城壁のあちこちに敵が乗り込み、戦闘が発生している。壁を乗り越えて城門を内側から開けられてはどうにもならない。また、街の住民たちへの被害も避けられないだろう。

「くっ、加勢してくるぜ!」
「おう、頼んだ。だが無理はするなよ!」
「正義の魂に無理や不可能はないんだぜっ!」

 爆熱疾走バーニングダッシュで駆け出し、苦戦している持ち場を優先して敵をなぎ倒していく。その姿はまるで城壁の上を一個の炎弾が駆け巡っているかのようであった。

 しかし、いくら圧倒的な強さだと言ってもヒロトひとりでは到底手が足りない。苦戦する味方をひとり助ければ、その間にまた別の味方が苦境に陥る。さながら終わりのないモグラ叩き状態だった。

 そのとき、鳴り響き続けていた連絡用の半鐘のリズムが変わった。先程までの「徹底死守」とは内容が違う。続いて連絡兵たちの叫びが聞こえた。

「東西の門より敵奇襲! 急ぎ援軍を送られたし!!」
「なんだって!?」

 北門さえ全力で守って陥落寸前で持ちこたえている状況なのだ。いくらヒロトでも東西の門までカバーしきれるはずがない。

「この世界でも……おれは、守りきれねえのかよ!」

 前世での死因となったジャークダーとの最終決戦を思い出す。最高幹部たちとの戦いの中で、何人もの仲間たちが命を落としていった。最終的には自らも最高幹部のひとりと刺し違える形で命を失った。

 その後の戦いがどうなったかは知らない。きっと正義の勝利で終わったとは信じている。だが、それ以前に自分がもっと強ければ、自分にもっと力があれば一人の仲間も失うことなく戦えたのではないかと自問してしまう。

 ――そのときだった。北の天空から一体の巨人が降り立ったのは!!

「なっ、まるでジャスティスカイザー!?」

 力強い人間のフォルムに、鉄の翼を持ったその姿はヒロトにジャスティスカイザーを連想させた。それはジャスティスイレブンが最終兵器としていたロボットだ。強力無比だったが、11人の仲間全員の心が共鳴したときにだけ使用可能になる兵器のため、危機に陥るまでなかなか発動できないという難点があるものだった。

『『メガネチャンダイオー! 推っ参っ!!』』

 着地とともに大量の土砂を巻き上げ、無数のゴブリンたちがそれに飲み込まれていく。巨人の両肩の装甲が開き、内側から数え切れないほどのミサイルが射出されてゴブリン軍を吹き飛ばしていく。両目から熱線が発射され、ゴブリンの陣をずたずたに引き裂いていく!!

『メガネちゃんをいじめたやつは、絶対に許さん!!』
『メカクレちゃんを悲しませたやつは、絶対に許さん!!』

 ヒロトには、巨人から聞こえてくるの声に聞きおぼえがあった。高町みさきと一緒にいた二人の女の子だ。酒場で前世の話を色々と聞かれたからよくおぼえている。

 そうか……やはり二人も正義のヒーローだったんだ! この危機を知って援軍にやってきてくれたのだろう。もっと早く来てほしいというのは贅沢だ。おそらく、ジャスティスカイザー同様にむずかしい発動条件があったに違いない。

 なにより、この世界にもヒーローはやはり存在したという事実に胸が熱くなる。セイギネス様が言っていたとおり、正義の魂があるところには必ずヒーローが生まれるはずなのだ!

 思わぬ援軍の登場に勇気づけられ、ヒロトの動きが格段に良くなる。敵も味方も呆然としている中、凄まじいスピードで城壁を駆け巡ってゴブリンどもを城壁の下へと叩き落としていく。

 城壁からほとんどの敵を排除したころ、味方の兵士たちから悲鳴と驚きの混ざった叫び声が上がった。続いて大地を揺らす震動。何事かとメガネチャンダイオーの方を見やると、そこには異形の大怪獣と退治する姿があった。

 ゴブリンを巨大化させ、逞しい筋肉を身に着けさせたような姿。顎からは無数の触手が伸びている。膝下からは漆黒の毛のようなものが伸びており、戦場の広い範囲を覆っていた。全身が黒いもやで覆われており、邪悪な気配を発していた。

「ま、魔王だ。あの姿は魔王蛸髭だ!」
「蛸髭が巨大化しやがった……一体なにが起きたんだ……」

 魔王蛸髭の姿を知る兵士たちが口々に絶望の声を漏らす。ヒロトとしては敵のボスが巨大化するなんてことには慣れっこなのでこのこと自体にさして驚きはしない。だが、メガネチャンダイオーが押され気味であることに気が付き、ぎゅっと拳を握りしめた。

「くそっ……おれにもっと力があれば……」

 せめて、前世での愛機であるジャスティスファルコンだけでも呼ぶことができれば、あの巨大魔王相手でも意味のある加勢が可能だろう。身ひとつであの戦いに交じったところで足手まといにしかならない。

 と、そこまで考えたところで、

「って、あれ? そういえば試したことなかったな」

 この世界に転生してから、一度もジャスティスファルコンを呼ぼうとしていなかったことに気がついた。これも身に染み付いた習慣というもので、敵が巨大化してから呼ぶものだという決めつけがあったのだ。

 それならば、試す以外の選択肢はない!

「おれの正義の魂よ! 天に轟け、地に響け! 来いっ! ジャスティスファルコン!!」

 天王寺ヒロトが、否、ジャスティスレッドが天に向けて拳を突き上げる。

 ――そのとき、不思議なことが起こった。

 晴れていたはずの空に突如雷雲が巻き起こり、その雲を貫いて1体の巨鳥……いや、1機の鉄の鳥が現れたのだ!!

 鉄の鳥はヒロトに向かってまっすぐに飛んでくる。ヒロトはそれに合わせて空高く跳び上がってそれに乗り込む。コックピットのハッチは開いており、見事そこを通り抜けて座席に座った。

「感じるぜ……正義の魂の共鳴を!! これならいけるはずだ!!」

 ヒロトはジャスティスファルコンを操り、メガネチャンダイオーの上空へと舞い上がる。そして、変形合体機構のスタートボタンを押してメガネチャンダイオーに向かって急降下した。

『一緒に魔王をやっつけるぞ! 合ッ体だぁぁぁあああーーーッッッ!!!!』

 ジャスティスファルコンは燃え盛る炎をまとう兜と、悪を焼き尽くす正義のオーラをまとった翼となって、メガネチャンダイオーとひとつになった!!
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