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第三章 稼ぐぞ! 学術都市
第六十三話 それほどの力を持つ神など聞いたことがありません
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用務員さん的な人に「商いの神の神殿」とやらまでの道を教えてもらい、わたしとサルタナさんは学院を後にした。そういえば、いつもミリーちゃんと一緒にいたからサルタナさんと二人きりになるのは初めてのような気がする。ま、何か違和感はあるけれど、いまさらそんなことで緊張するような間柄でもない。
「みさき様、以前からひとつお聞きしたいことがあったのですがよろしゅうございますか?」
まばらに通行人がいる街路を歩いていると、サルタナさんが口を開いた。おや、一体なんだろう。バストサイズについては話さんぞ。って、サルタナさんがそんなセクハラ発言するはずもないけれど。
「地球や日本というのは何なのでございましょう? 大神殿でのことや料理や武器に関する知識など……到底、辺境などとは思えぬのです」
ありゃー、ついに来たかその質問。うーん、どうやってごまかそう……あれ? そもそもごまかす必要あるのかな? もともと普通に話したら頭おかしいと思われそうな内容ではあるけれど、いまならそんな心配もないんじゃなかろうか。ここはひとつ、さらっと暴露してみよっかな。
「うーん、実はこの世界……惑星? 宇宙? とはぜんぜん違うところなんだよね。なんか性格も頭も悪そうな自称女神に誘拐されて、こっちに放り込まれちゃったんだ」
「惑星や宇宙というのはよくわかりませんが……なるほど、にわかには信じがたくはありますが、そういうことでございましたか」
ありゃ、ずいぶんあっさりとした反応。信じがたいとは口にしているものの、そんなに疑われているという風でもない。もともと転移者は大量にいるみたいだし、その手の噂が広まっていたのかな?
「皇都で学んでいた際に似たような話を耳にしたことがあるのです。民話や伝承のたぐいとして、ではございましたが」
なるほーど、そういうことか。日本の感覚に合わせて考えるなら、「月から来たかぐや姫は実在した!」みたいなかんじかな? いや、それでも十分通院を勧められる案件だけど。こっちは魔法がある分、そういう不思議現象が受け入れられやすいのかもしれない。
「むしろ気になるのはその女神を自称する存在でございますね。それほどの力を持つ神など聞いたことがありません」
ありゃ、そうなの? こっちでもそれなりに神様は信仰されてそうだし、なんでもできる超パワーを持つ存在だと思われてるわけじゃないのかな。
「みさき様のいた世界ではそのような認識だったのですね。しかし、このようなことを言うと角が立ちますので大きな声では言えませんが……一般的に、神は精霊様より格が落ちるもの、と考えられております」
おう、そうだったのか。神の格が低いのか、あるいは精霊様が凄すぎるのか……。ドワーフ村で色々見てきたわたし的には、後者のような気がする。
「学問的にも神という存在はある程度明らかになっておりますして、人々の想いや信仰を核にして魔素や霊素が寄り集まった常とは違う生物、という見方が通説でございますね。これも熱心な信者に聞かれると気分を害しますので、神殿では他言無用でお願いいたします」
はーい、了解であります。地球では宗教を原因とした戦争なんてあちこちで起きてたし、日本でも宗教と野球と政治の話はやめろと言われていたくらいだ。わざわざそんなセンシティブな話をして自分から地雷を踏み抜きたくはない。
でも、どうしてそこまでわかってるのに信仰が廃れないんだろう。宗教なんてミステリアスな要素がないと成り立たない気がするんだけど。まさしく「神秘」にこそ人は惹かれるのだ。
「様々な神がおりますので一概には申せませんが、商いの神の場合はこれでございますね」
と言ってサルタナさんが襟元からペンダントのようなものを取り出して見せてくる。銀色で透かし彫りが施されており、上品なシルバーアクセって感じだ。デザインは天秤をモチーフにしてるのかな?
「商いの神の神殿にある程度の寄進をし、さらに信頼をいただけるとこのようなものがもらえるのでございます」
なんだ、グッズ収集みたいなものか。日本でも神社が作った色んなグッズが人気だったり、朱印を集めるのが趣味の人が結構いたけどそんなところかな。
「いえいえ、もっと俗な理由でございますよ。これを身に着けていると商いの神の加護が授かり、少しだけ計算が速くなったり、物の目利きがしやすくなったりするのでございます」
おお、バフアイテムみたいなものだったのか。それならたしかに欲しいだろう。
「それにこういったものを身に着けておりますと商人としての信頼が高まるのです。わたくしもこの学術都市に伝手はございませんので、まずは神殿で地元の商人との顔つなぎを、と思いまして」
商いの神の神殿って言うくらいだし、地元の商人が集まってたりするのかな。「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんなあ」なんて揉み手をしながら会話をする人々の情景が脳裏に浮かぶ。うーん、神殿に抱いていた神聖なイメージがどんどんなくなっていくな。ま、日本にだって商売繁盛の神社はあちこちにあったし、そこまで極端なことはないだろう。
そんなことを話しながら歩いていると、行く手に白亜の建物が見えてきた。なんというか、ローマの遺跡とかにありそうな雰囲気だ。建築様式には詳しくないからよくわからないけれど。
「さて、そろそろこの話も切り上げましょうか。みさき様の故郷についてはまた詳しく教えていただけますと幸に存じます」
新商品の種になるお話がいくつも聞けそうでございますからね、とサルタナさんはいたずらっぽく微笑んだ。
「みさき様、以前からひとつお聞きしたいことがあったのですがよろしゅうございますか?」
まばらに通行人がいる街路を歩いていると、サルタナさんが口を開いた。おや、一体なんだろう。バストサイズについては話さんぞ。って、サルタナさんがそんなセクハラ発言するはずもないけれど。
「地球や日本というのは何なのでございましょう? 大神殿でのことや料理や武器に関する知識など……到底、辺境などとは思えぬのです」
ありゃー、ついに来たかその質問。うーん、どうやってごまかそう……あれ? そもそもごまかす必要あるのかな? もともと普通に話したら頭おかしいと思われそうな内容ではあるけれど、いまならそんな心配もないんじゃなかろうか。ここはひとつ、さらっと暴露してみよっかな。
「うーん、実はこの世界……惑星? 宇宙? とはぜんぜん違うところなんだよね。なんか性格も頭も悪そうな自称女神に誘拐されて、こっちに放り込まれちゃったんだ」
「惑星や宇宙というのはよくわかりませんが……なるほど、にわかには信じがたくはありますが、そういうことでございましたか」
ありゃ、ずいぶんあっさりとした反応。信じがたいとは口にしているものの、そんなに疑われているという風でもない。もともと転移者は大量にいるみたいだし、その手の噂が広まっていたのかな?
「皇都で学んでいた際に似たような話を耳にしたことがあるのです。民話や伝承のたぐいとして、ではございましたが」
なるほーど、そういうことか。日本の感覚に合わせて考えるなら、「月から来たかぐや姫は実在した!」みたいなかんじかな? いや、それでも十分通院を勧められる案件だけど。こっちは魔法がある分、そういう不思議現象が受け入れられやすいのかもしれない。
「むしろ気になるのはその女神を自称する存在でございますね。それほどの力を持つ神など聞いたことがありません」
ありゃ、そうなの? こっちでもそれなりに神様は信仰されてそうだし、なんでもできる超パワーを持つ存在だと思われてるわけじゃないのかな。
「みさき様のいた世界ではそのような認識だったのですね。しかし、このようなことを言うと角が立ちますので大きな声では言えませんが……一般的に、神は精霊様より格が落ちるもの、と考えられております」
おう、そうだったのか。神の格が低いのか、あるいは精霊様が凄すぎるのか……。ドワーフ村で色々見てきたわたし的には、後者のような気がする。
「学問的にも神という存在はある程度明らかになっておりますして、人々の想いや信仰を核にして魔素や霊素が寄り集まった常とは違う生物、という見方が通説でございますね。これも熱心な信者に聞かれると気分を害しますので、神殿では他言無用でお願いいたします」
はーい、了解であります。地球では宗教を原因とした戦争なんてあちこちで起きてたし、日本でも宗教と野球と政治の話はやめろと言われていたくらいだ。わざわざそんなセンシティブな話をして自分から地雷を踏み抜きたくはない。
でも、どうしてそこまでわかってるのに信仰が廃れないんだろう。宗教なんてミステリアスな要素がないと成り立たない気がするんだけど。まさしく「神秘」にこそ人は惹かれるのだ。
「様々な神がおりますので一概には申せませんが、商いの神の場合はこれでございますね」
と言ってサルタナさんが襟元からペンダントのようなものを取り出して見せてくる。銀色で透かし彫りが施されており、上品なシルバーアクセって感じだ。デザインは天秤をモチーフにしてるのかな?
「商いの神の神殿にある程度の寄進をし、さらに信頼をいただけるとこのようなものがもらえるのでございます」
なんだ、グッズ収集みたいなものか。日本でも神社が作った色んなグッズが人気だったり、朱印を集めるのが趣味の人が結構いたけどそんなところかな。
「いえいえ、もっと俗な理由でございますよ。これを身に着けていると商いの神の加護が授かり、少しだけ計算が速くなったり、物の目利きがしやすくなったりするのでございます」
おお、バフアイテムみたいなものだったのか。それならたしかに欲しいだろう。
「それにこういったものを身に着けておりますと商人としての信頼が高まるのです。わたくしもこの学術都市に伝手はございませんので、まずは神殿で地元の商人との顔つなぎを、と思いまして」
商いの神の神殿って言うくらいだし、地元の商人が集まってたりするのかな。「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんなあ」なんて揉み手をしながら会話をする人々の情景が脳裏に浮かぶ。うーん、神殿に抱いていた神聖なイメージがどんどんなくなっていくな。ま、日本にだって商売繁盛の神社はあちこちにあったし、そこまで極端なことはないだろう。
そんなことを話しながら歩いていると、行く手に白亜の建物が見えてきた。なんというか、ローマの遺跡とかにありそうな雰囲気だ。建築様式には詳しくないからよくわからないけれど。
「さて、そろそろこの話も切り上げましょうか。みさき様の故郷についてはまた詳しく教えていただけますと幸に存じます」
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