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第4話 お菓子の宝庫
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斯くして二人は、スノードームに映るポテトチップスと『パイの実』のある世界へ行くこととなったのである。
到着後に分かったことだが、その世界は日本という所で、その他にも美味しいお菓子が溢れるほどたくさん存在した。
お菓子の宝庫である日本にたどり着くのは、キリトが思っていた以上に大変なことであった。
運が悪いことに、アイラが外に出ると決めた今日も冬であり、移動魔法を使うために外に出ると城の上をドラゴンが数匹巡回していた。
部屋の中から魔法を使い移動すれば良かったのにと思うかもしれないが、人間二人を移動させるにはかなりの威力と風力を要し、その勢いで天井や壁を吹き飛ばしてしまう可能性があるため、外に出なくてはいけなかったのだ。
グルグルと見せつけるように空を飛ぶドラゴンたちにアイラの足は竦んだ。
10年以上の間、外に出れなくなるほどこの生き物が怖かった。
一飲みで人間を喰らい、街一つを焼き尽くせることのできるドラゴンに襲われたせいで、外に出ることができなかった。
でもそれは過去のアイラなのだ。
今日のアイラは、恋人のキリトと一緒に外に出ると決心した。
ぎゅっと握った拳が痛さを帯びるが、決めたのだから自分はやるのだとアイラは勇気を奮った。
それに、何があってもキリトが守ってくれると言ってくれた。
ドラゴンたちから救ってくれたあの日から、傍を離れることなく、同じ城で暮らし、何をするにしてもアイラを甘やかし、アイラを中心に物事を考えてくれる勿体ないくらい特別な恋人。
自分に出会っていなければ、世話を焼かなくてよい楽な恋人と巡り合えたかもしれないのに、キリトは「運命だから」と言いアイラのそばを離れなかった。
頭上を飛び回る生き物に対する恐怖と、未知の領域である異世界旅行に対する興奮から、アイラの身体は小刻みに震えていた。
吐き出される息が白い煙を作るほど寒い天候の中、横に立ったキリトはカチカチと歯を鳴らす恋人の体を両腕で包んだ。
「大丈夫。俺がいる。何があっても俺が守る。信じてくれ」
「う、うんっ」
小さくうなずいた瞬間、二人の周りを風の壁が包み内臓が口から出てしまうような威圧感が押し寄せた。周りの風景がぐにゃりと曲がり、感じたこともないくらい強い風がアイラの髪を押し上げる。
「アイラ、目を瞑って、3まで数えて」
「うん…1、2、3…」
宙に浮いた足が地面に着いた感覚に、アイラはほっと息をついた。
――着いちゃった。
城の外に出ただけでなく、異世界に来てしまったのだ。
恐怖心がないのか、と問われたらそうではない。怖すぎて頭の中が真っ白になる寸前ではあったが、自分の右手を強く握る恋人のおかげで幾分気持ちは落ち着いていた。
「うわぁ!」
二人の目の前を途切れなく色とりどりの車が走っていく。その向こうには何やら小さな端末を見つめた人間たちが忙しなく右から左へと歩いていた。
「何これ?」
目の前にはいくつもの建物がそびえ立つ。どれもガラス張りで太陽の光を反射しキラキラと幻想的な輝きを生んでいた。
どれだけアイラが顎を上げて見上げても、この世界の建物は終わりがないように見える。
「ビジネス街に着いてしまったか。これは高層ビルだ」
「高層?」
「ああ、この世界ではよくある建物だ」
「そうなんだ。僕たちの世界じゃ絶対ないものだよね」
「そうだな」
人の波に合わせて二人は歩き出す。
こんなにたくさんの人間が歩いているのに、どうやったらぶつかり合わずに前に進めているのだろうとアイラは感心した。
「アイラ、ここに入ろう」
「ここ??」
「ああ、ここならお菓子が手に入るはずだ」
硝子で出来た扉が左右に開くとピンポンと電子音が店内に響いた。
「っしゃいぁせー」
淡々と呟かれた言葉はアイラの聞いたことがない言葉だ。
「キリト、ここって?」
「コンビニという類の店だ。ここなら何でも手に入る」
「お菓子も?」
「ああ、アイラが探しているものが手に入るはずだ」
所狭しと棚が並ぶ店内を歩いていくと突然キリトが手招きをした。
「これ…これじゃないか?『パイの実』と書かれているぞ」
「わ!ほんとだ!」
「それにアイラ、これも見つけたんだ。美味しそうじゃないか?」
「まめ…ん?最後のほうが読めない」
「『豆大福』だな。柔らかくて美味しそうだ」
キリトの手のひらに置かれたソレは真っ白で所々豆が顔をのぞかせている。
アイラは食べたこともないものを初めて食べる瞬間が何よりも好きだった。
『パイの実』を食べたくて10年ぶりに城を出たが、この『豆大福』も食べられるなら何十倍も得した気分になれる。
「他に欲しいものはあるか?」
「あとはポテトチップス!」
「分かった。それも忘れずに買って帰ろう」
買ってもらったばっかりのお菓子を両手で包み、アイラは天にも昇る気持ちで歩いていた。
「会社」というところに行くらしい人間たちの波に逆らうようにキリトと歩くと、静かな公園が目の前に見えてきた。
「さてアイラ、ここでティータイムとするか?」
「うん!あ、でもお茶はどうしよう?」
パンっとキリトが手を合わせるといつもとは違う形をしたティーポットが姿を現した。
「小さいティーポットだね」
「急須というティーポットらしい。この世界のモノだ」
「じゃあ、今日のお茶もこの世界のがいいかなぁ」
「そうだな…ああ、緑茶にしてみよう」
雲一つない青空の下、自分たちの世界とは真逆の天候の中、風変わりな小鳥のさえずりが二人を包む。
いつもとは違う特別なティータイムを二人はゆったりと楽しんだ。
「ねえキリト、僕、いいことを思いついたんだ」
到着後に分かったことだが、その世界は日本という所で、その他にも美味しいお菓子が溢れるほどたくさん存在した。
お菓子の宝庫である日本にたどり着くのは、キリトが思っていた以上に大変なことであった。
運が悪いことに、アイラが外に出ると決めた今日も冬であり、移動魔法を使うために外に出ると城の上をドラゴンが数匹巡回していた。
部屋の中から魔法を使い移動すれば良かったのにと思うかもしれないが、人間二人を移動させるにはかなりの威力と風力を要し、その勢いで天井や壁を吹き飛ばしてしまう可能性があるため、外に出なくてはいけなかったのだ。
グルグルと見せつけるように空を飛ぶドラゴンたちにアイラの足は竦んだ。
10年以上の間、外に出れなくなるほどこの生き物が怖かった。
一飲みで人間を喰らい、街一つを焼き尽くせることのできるドラゴンに襲われたせいで、外に出ることができなかった。
でもそれは過去のアイラなのだ。
今日のアイラは、恋人のキリトと一緒に外に出ると決心した。
ぎゅっと握った拳が痛さを帯びるが、決めたのだから自分はやるのだとアイラは勇気を奮った。
それに、何があってもキリトが守ってくれると言ってくれた。
ドラゴンたちから救ってくれたあの日から、傍を離れることなく、同じ城で暮らし、何をするにしてもアイラを甘やかし、アイラを中心に物事を考えてくれる勿体ないくらい特別な恋人。
自分に出会っていなければ、世話を焼かなくてよい楽な恋人と巡り合えたかもしれないのに、キリトは「運命だから」と言いアイラのそばを離れなかった。
頭上を飛び回る生き物に対する恐怖と、未知の領域である異世界旅行に対する興奮から、アイラの身体は小刻みに震えていた。
吐き出される息が白い煙を作るほど寒い天候の中、横に立ったキリトはカチカチと歯を鳴らす恋人の体を両腕で包んだ。
「大丈夫。俺がいる。何があっても俺が守る。信じてくれ」
「う、うんっ」
小さくうなずいた瞬間、二人の周りを風の壁が包み内臓が口から出てしまうような威圧感が押し寄せた。周りの風景がぐにゃりと曲がり、感じたこともないくらい強い風がアイラの髪を押し上げる。
「アイラ、目を瞑って、3まで数えて」
「うん…1、2、3…」
宙に浮いた足が地面に着いた感覚に、アイラはほっと息をついた。
――着いちゃった。
城の外に出ただけでなく、異世界に来てしまったのだ。
恐怖心がないのか、と問われたらそうではない。怖すぎて頭の中が真っ白になる寸前ではあったが、自分の右手を強く握る恋人のおかげで幾分気持ちは落ち着いていた。
「うわぁ!」
二人の目の前を途切れなく色とりどりの車が走っていく。その向こうには何やら小さな端末を見つめた人間たちが忙しなく右から左へと歩いていた。
「何これ?」
目の前にはいくつもの建物がそびえ立つ。どれもガラス張りで太陽の光を反射しキラキラと幻想的な輝きを生んでいた。
どれだけアイラが顎を上げて見上げても、この世界の建物は終わりがないように見える。
「ビジネス街に着いてしまったか。これは高層ビルだ」
「高層?」
「ああ、この世界ではよくある建物だ」
「そうなんだ。僕たちの世界じゃ絶対ないものだよね」
「そうだな」
人の波に合わせて二人は歩き出す。
こんなにたくさんの人間が歩いているのに、どうやったらぶつかり合わずに前に進めているのだろうとアイラは感心した。
「アイラ、ここに入ろう」
「ここ??」
「ああ、ここならお菓子が手に入るはずだ」
硝子で出来た扉が左右に開くとピンポンと電子音が店内に響いた。
「っしゃいぁせー」
淡々と呟かれた言葉はアイラの聞いたことがない言葉だ。
「キリト、ここって?」
「コンビニという類の店だ。ここなら何でも手に入る」
「お菓子も?」
「ああ、アイラが探しているものが手に入るはずだ」
所狭しと棚が並ぶ店内を歩いていくと突然キリトが手招きをした。
「これ…これじゃないか?『パイの実』と書かれているぞ」
「わ!ほんとだ!」
「それにアイラ、これも見つけたんだ。美味しそうじゃないか?」
「まめ…ん?最後のほうが読めない」
「『豆大福』だな。柔らかくて美味しそうだ」
キリトの手のひらに置かれたソレは真っ白で所々豆が顔をのぞかせている。
アイラは食べたこともないものを初めて食べる瞬間が何よりも好きだった。
『パイの実』を食べたくて10年ぶりに城を出たが、この『豆大福』も食べられるなら何十倍も得した気分になれる。
「他に欲しいものはあるか?」
「あとはポテトチップス!」
「分かった。それも忘れずに買って帰ろう」
買ってもらったばっかりのお菓子を両手で包み、アイラは天にも昇る気持ちで歩いていた。
「会社」というところに行くらしい人間たちの波に逆らうようにキリトと歩くと、静かな公園が目の前に見えてきた。
「さてアイラ、ここでティータイムとするか?」
「うん!あ、でもお茶はどうしよう?」
パンっとキリトが手を合わせるといつもとは違う形をしたティーポットが姿を現した。
「小さいティーポットだね」
「急須というティーポットらしい。この世界のモノだ」
「じゃあ、今日のお茶もこの世界のがいいかなぁ」
「そうだな…ああ、緑茶にしてみよう」
雲一つない青空の下、自分たちの世界とは真逆の天候の中、風変わりな小鳥のさえずりが二人を包む。
いつもとは違う特別なティータイムを二人はゆったりと楽しんだ。
「ねえキリト、僕、いいことを思いついたんだ」
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