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第1話 とある朝
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「アヴェル、おはよう」
「ん…」
眠気眼を擦るアヴェルの薄桃色の髪がフワフワと揺れる。
壁一面に広がるフレンチ窓のカーテンを引くと、イリゼは太陽の光に照らされ綿あめのように輝くその髪を愛しく思った。
今日も晴天だ。あと数日すれば梅雨入りするのではと職場であるカフェの店長が教えてくれたが、天気の仕組みは魔法のようだ。
仕組みは分からないが起こるときに起こる。起こると予測されている時に起こらない気まぐれな面もあるのだ。
窓の外に輝く太陽を見つめイリゼは背筋を伸ばした。
「ほら、アヴェル、早く起きないと遅刻するぞ!」
「…もうちょっと…」
どこにでもあるような普通な町「カラメッラ」で生まれ育ったイリゼとアヴェルは気づいたらいつも一緒にいて、気づいたら一緒に大人になり、気づいたら一緒に住んでいた。そしてそれが当たり前であるかのように恋人となった2人はごく普通のどこにでもあるような一軒家で何年も一緒に住んでいた。
幼い頃からアヴェルと一緒にいたイリゼはアヴェルの綿あめのような髪が好きだった。パステル色に近い淡い薄桃色の髪色は光に照らされると透明に程近く透き通る。
「天使みたいだな」
「なにが?」
「何でもないよ」
やっと起き上がり自分の呟いた言葉に首を傾げるアヴェルを見つめてイリゼは微笑んだ。
アヴェルの緑色に近い青い瞳もイリゼのお気に入りだった。海の宝石のような瞳は光に照らされると一層輝きを増す。
「アヴェル、今日も愛してるよ」
「僕もだよ」
自分より線の細い体を両腕で抱き寄せ、イリゼはアヴェルに見えないように眉間にシワを寄せた。何度も紡いできた愛の言葉に返事を返してくれた恋人の顔はニコリとも笑っていない。
いつものことだ。
そう、幼い頃から。
「イリゼ…ごめんね…僕、笑えてないよね…」
静かに呟くとアヴェルは自分の口角に指を這わせる。
「ああ、まだあれを食べていないからか…」
見慣れたことなのに、何度見ても慣れない心の痛さを感じイリゼはベッドサイドへと視線を移した。棚に置かれたガラス瓶はアンティーク店でとあるクリスマスにイリゼが購入したものだ。くたびれた橙色を纏うその瓶の中には2人にとって大切なものが保管されていた。
「残りが少ないから今日も食べなくて平気だよ」
「アヴェル、でも…」
「大丈夫だよ、そんな顔しないで?」
「ああ…」
――あと5粒
大切なガラス瓶の中で転がるのは金色の粒。
光に照らされると眩しいほどに輝くこの粒はアヴェルとイリゼにとって魔法の塊だった。
「よし、さっさと支度して仕事に行くぞ!」
気分を変えようと軽くアヴェルの額に唇を落としたイリゼは自分より小さな手を引き浴室へと向かった。
「ん…」
眠気眼を擦るアヴェルの薄桃色の髪がフワフワと揺れる。
壁一面に広がるフレンチ窓のカーテンを引くと、イリゼは太陽の光に照らされ綿あめのように輝くその髪を愛しく思った。
今日も晴天だ。あと数日すれば梅雨入りするのではと職場であるカフェの店長が教えてくれたが、天気の仕組みは魔法のようだ。
仕組みは分からないが起こるときに起こる。起こると予測されている時に起こらない気まぐれな面もあるのだ。
窓の外に輝く太陽を見つめイリゼは背筋を伸ばした。
「ほら、アヴェル、早く起きないと遅刻するぞ!」
「…もうちょっと…」
どこにでもあるような普通な町「カラメッラ」で生まれ育ったイリゼとアヴェルは気づいたらいつも一緒にいて、気づいたら一緒に大人になり、気づいたら一緒に住んでいた。そしてそれが当たり前であるかのように恋人となった2人はごく普通のどこにでもあるような一軒家で何年も一緒に住んでいた。
幼い頃からアヴェルと一緒にいたイリゼはアヴェルの綿あめのような髪が好きだった。パステル色に近い淡い薄桃色の髪色は光に照らされると透明に程近く透き通る。
「天使みたいだな」
「なにが?」
「何でもないよ」
やっと起き上がり自分の呟いた言葉に首を傾げるアヴェルを見つめてイリゼは微笑んだ。
アヴェルの緑色に近い青い瞳もイリゼのお気に入りだった。海の宝石のような瞳は光に照らされると一層輝きを増す。
「アヴェル、今日も愛してるよ」
「僕もだよ」
自分より線の細い体を両腕で抱き寄せ、イリゼはアヴェルに見えないように眉間にシワを寄せた。何度も紡いできた愛の言葉に返事を返してくれた恋人の顔はニコリとも笑っていない。
いつものことだ。
そう、幼い頃から。
「イリゼ…ごめんね…僕、笑えてないよね…」
静かに呟くとアヴェルは自分の口角に指を這わせる。
「ああ、まだあれを食べていないからか…」
見慣れたことなのに、何度見ても慣れない心の痛さを感じイリゼはベッドサイドへと視線を移した。棚に置かれたガラス瓶はアンティーク店でとあるクリスマスにイリゼが購入したものだ。くたびれた橙色を纏うその瓶の中には2人にとって大切なものが保管されていた。
「残りが少ないから今日も食べなくて平気だよ」
「アヴェル、でも…」
「大丈夫だよ、そんな顔しないで?」
「ああ…」
――あと5粒
大切なガラス瓶の中で転がるのは金色の粒。
光に照らされると眩しいほどに輝くこの粒はアヴェルとイリゼにとって魔法の塊だった。
「よし、さっさと支度して仕事に行くぞ!」
気分を変えようと軽くアヴェルの額に唇を落としたイリゼは自分より小さな手を引き浴室へと向かった。
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